Free! #すれ違ったり、泥酔したり、確かめ合ったり



短髪茶髪で垂れ目の女。なおかつ極力喋るな喘ぐな黙ってろ。
遙のセックスフレンドの相手はそれが一番の条件であった。というか、それ以外の女には全く興味もなければ、逸物も使い物にならない。どれだけテクニックを持っていようが無駄だった。本当なら、今目の前でかすかな吐息を漏らすこの女ですら、正直勃つか勃たないか、と言ったところだ。今回は少し興奮している方だが。
遙はセックスが嫌いなわけでもないし、(だったらセフレなんて作らないだろう)性欲も人並みにはある。
でも、
本当に好きな人は別にいるから
というのが、寡黙な遙が、初めて会う条件に合った女に必ず言う台詞だった。そして「悪い、勃たないかもしれない」とか、「すまない」だとか、とにかく謝り倒すのだ。(実際勃たないことも多いからかもしれない)
今日もそんな感じで一人、人懐こい笑顔で少年のような声で、どこか幼い頃の彼に似た女を引っ掛けた。というか。あっちから話しかけてきた。
遙も珍しく乗り気だった。ほんとうに、似ていたから。
「これから言うことを守ってくれるなら、」
と、遙は先に言う。
@ 遙と呼ぶな
A わざとらしい喘ぎもいらない
B 本当に気持ち良くても耐えろ
「いいよ。ハル、って呼べばいいのかなあ?我慢できなかったらごめんね?」
「…なるべくでいい。お前は、似てるんだ。俺のすきなやつに」
「そっか。つらいでしょう?わたしでよければ使って。」
「ああ…」
そのあとは終始無言だった。幼い頃の彼に似ていても、別人だとわかっているから。

しこたま酒を飲んだ後だったので、詳細は覚えていない。
喘ぎ声は本当に真琴そっくりだった。罪悪感を覚えるほどに、あの頃の真琴に。

「じゃあ、帰るね」
そう言って彼女は帰って行ったらしい。
記憶の断面にそんなワンシーンが残っている。


ぬくもりを失う。
目を覚ましても、となりには誰もいなくて。
少ししわのできたシーツと、生々しく残されたコンドームと…そこに情事の痕は残っているのに、真琴がいたと言う事実は絶対になくて。
いい夢を見させてもらったけれど、許されない。きっと誰かを抱いた。真琴だったらいいと思いながら、真琴によく似た女を、真琴を想いながら。
「クソ…」
胸くそ悪い。自分自身が、気持ち悪い。
嫌な汗を拭い、水風呂に入ろうとベッドのある部屋を後にした。遙の家ではない。どこかのラブホテルだろう。頭痛が酷い、どれほど飲んだのか…考えたくもない。詳しい記憶が飛ぶほど、と考えればその量は何となく察せる。
いまだ立ちくらみのような頭痛に苛まれていて、思考がうまく働かない。
(早く水に浸かりたい)

ピリリリリ

と、着信音が鳴る。
うるさいな、煩わしいなと思ってなんとなく誰からの着信なのか確認して、息が詰まりそうになった。
橘真琴
即座に電話に出る。メール無精携帯を携帯しない男である遙だったが、大学に入学してから真琴に会えなくなったし、明確に真琴への恋心を自覚してから、頻繁に真琴との連絡手段として使うようになっていた。
「まこと?」
「あ、ハル?講義、終わってる時間なんだけど。」
家に行ってもいないみたいだしさー。最近多くない?
なんて、いつものトーンで。
「あのさ、今日家に行ってもいい?一緒にもうよ。」
断る理由がなかった。好きな相手に誘われて、しかも久しぶりに家で二人きりになれる。幸せだった。


遙にセックスフレンドがいるということを、真琴は知らない。
遙が淡白だと思い込んでいるから。そして、遙のことを神格化しているから。
恋をしているなんておこがましいだと思っている。
競泳選手として、活躍している彼と、しがない大学生の自分。
どう考えても釣り合わない。
(親友でいられれば、それだけでいいや)
なんて、思ってしまっていた。


「お邪魔します」
「ああ、上がってけ」
その日はたくさん喋った。会えなかった分、溜まっている愚痴とか、与太話とかでもなんでも、とにかくたくさん喋って、呑んで、呑んで、酔って酔って酔いまくった。
「はる。すき、すき、すき
べろんべろんに酔った真琴はタチが悪い。とにかく絡んでくるのだ。
(くそッ!)
(人の気も知らないで…!)
「ちゅーしよ、ちゅーしたい、せっくすもしたい。せっくすしたい。ハルと繋がりたい。大好きだよハル
真琴は本気だった。本音を吐露していた。
それを遙は察することができた。
明日になって記憶が飛んでいればいいだろうと考える遙も相当酔っていた。二人はそのまま抱き合って、キスをして、そして…。


「あ゛、あー…あひッ、はるちゃ、きもひぃぃッ、きもちひぃよぉ…!」
いい具合に弛緩したアナルは、遙の逸物を挿入は簡単にではなかったが、緩やかに締め付ける。
遙はこれまで体感したことのない充足感を覚え、ギンギンに勃起したペニスを直腸に突き入れ、引き抜き、ストロークを繰り返す。
「はっ、はっ、まこと、まこと、まこと」
いつになく興奮していた。
酒を飲むと勃ちが悪くなるなんて嘘だと思うくらいには。
これ以上ないくらい真琴が愛しい。
遙が愛しい。
夢なんじゃないかと思うくらい。
「なか、なかしてぇ…!おねが、はぅちゃ、なか、出して」
そう懇願されれば、応えないという結論にはどうしたって至らなかった。
遙のものにしたかった。
グンっと最後に突き入れて、種付けをするように大量の精液をナカに注ぐ。
「まこ…とっ」
どろりとした精は、真琴の中を満たし、こころも満たしてくれた。


翌朝。
相変わらず頭はガンガンと頭痛を訴える。
隣に温もりが残っていること。それが何より嬉しくて。真琴がいることが、うれしくて。
「…ん…はぅ…?」
呂律の回っていない真琴は、寝ぼけ眼で遙を見ている。確かに真琴がそこにいる。
「真琴、俺は今までお前に似た女を抱いてきた。…お前が好きだったから。…これからは、お前を抱いていいのか…?」
真琴は目をまん丸にして、
「そんなことしないで、早く抱いてくれればよかったのに」
ハル、俺も遙が好きだよ

アッシュブラウンの髪、少しぶきっちょ料理捌き、筋肉質な体躯、それに似合わないあどけない顔立ち、八の字に垂れた眉、目尻は垂れて愛らしい。
そんな人間は、この世に一人しかいない。
遙を本気にさせてくれる人間は、真琴。
たった一人だけだった。


「…真琴、ありがとう」
応えてくれて、好きでいてくれて、支えてくれて。
「ハル、俺の方こそ、ありがとうだよ」
たくさん助けられた。ぶつかりもした。それでもそばにいたいと思った。

『『愛してる』』




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