Free! #終わらせない夏



夢を見た。また悪夢だ、そう、すぐに気付いた。明晰夢なんだろうけれど、この悪夢は覆す事も、あらがう事もできない(できるけれど、根本的な解決にはならない)質の悪いものだった。
「ッ…!」
悪夢の終わりはあっけなく。首を絞められるところで苦しさと痛みに目が覚めた。実際には何もされていなくとも、脳が認識すれば痛いのだと、この夢で知った。
目覚めは勿論最悪で、急いでシャワーを浴びに脱衣所に向かった。服を脱ごうとすると、ビッショリと嫌な汗を全身にかいており、ぴっちりと肌に張り付いている事に余計に不快な思いをした。
この夢を見るようになったのは、大会の前夜からだ。ありとあらゆる形で、悪夢は襲ってくる。
例えばスカウトの人に陵辱されたり、最悪なのは水に犯さたりする夢だったりとか。とにかく性的な夢。けれど快感はこれっぽっちもない夢だった。
あの夢の別バージョンをはじめて見た朝、起こしにやってきた真琴はぎょっとしていた。
『この世の終わりみたいな顔してる』
本当に終わってしまえ。そう思ったけれど、プイッと横を向く事もできずにうつむいたから、真琴と目は合わせていない。幸い、遙の変化には気がつかなかったようで、肝心なときに少し抜けている真琴に感謝した。
今まで一度たりとも他人の肌とふれあい、愛を確かめた事はなかった。そんな遙が見る夢は、頼まれようとも、大金を積まれようともセックスなどしたくないと思わせるものばかりだった。
遙とて知識くらいはあった。自分が奥底でこんな事を望んでいるのだろうかと、悪夢について調べて思い、絶望したりもした。
それでも現実…いや、夢は変わらない。


こびり付いてもいない精液や体液をごしごしと赤くなるまで擦り洗った。現実になくとも、明晰夢だろうと関係ない。あんなにリアルな夢では夢なのか現実なのか、いよいよ遙には分からなくなっていた。
(消えない…)
消える筈がないものを拭おうとしているのだから当たり前の事なのに、それは遙にとって、酷く悲しく、おぞましく感じるものだった。
一度も踏み入れられていない純血の地を、夢が踏み荒らす不快感、恐怖に、日々おびえていた。


また夢。
そう気付いたときには、夢の中の遙は身動きもできなくなっていた。
夢は辻褄が合う事はないし、基本的に理不尽だ。いきなりシーンが変わったりするし、付いて行けない。行こうとも思わないが、いきなり挿入シーン飛んだり、男の精液を顔にぶちまけられたりするのは勘弁してもらいたい。
「アッ、はァ!…あぐ、アアアア、」
痛みに引き攣った声が上がる。
今日は人間で良かったと思うほどには、水と性的な事をするのは堪え難かったから、少しありがたい。
だが、今日は些か乱暴な男を相手にしているようだった。夢の中の遙は繰り返しても繰り返すたび処女に戻る。
今回の男は、遙に経験がない(実はあるが)ことに甚く興奮していたようだった。
ジェルでじゅぷん、と容易に一本目の指を飲み込めば、そのくらいは当たり前の事なのに、『処女じゃないだろ』と激昂し、乱暴に二本目の指を突き入れた。
これには遙もたまらず声を上げ、『いたい、いたいぃ…』と泣いたが、それが音の欲しいリアクションだったようで、嬲りは余計に酷くなった。
自分の前立腺の場所も、遙は把握している。きっと男も内壁をまさぐっている内に気付いただろう。だが、遙が導いたらまた乱暴にされるし…などと考えていると、シーンは変わってしまう。
今度は何だ、少しクリアーになった視界で見渡せば、そこは野外だった。どういう事だ。もう何度も吐き出されたのであろう精液が、腹を満たして下しそうだ。こういうのも勘弁してほしい。いや、もう夢が終わればいいのに。
『終わらせないよ』
『そうだよ』
『終わりになんてさせない』
『この夏は、永遠なんでしょう』
瞬間、誰かの声が聞こえた。それはノイズが多く、聞き取りづらかったが、真琴や凛の声のように聞こえた。
「ア?!」
男に抱えられて股を開かせると、大衆の面前に遙の痴態を晒した。
「い、ぁ…いや…だ!やめ、やめろ!やめくれ!」
ごぷんごぷんと精液がこぼれて汚らしい音が遙の耳に届く。
どうしてこの夢が続くのか、どうしてなのか。遙は何となく理解した。
この夢はみんなの想いなんだろう。何故遙が犯されているのかは分からないけれど、終わりにしたくないのは、皆同じなんだろう。勿論遙だって。
でも分かってるんだろ?
「この夢は終わらせなきゃ、ならないって事!俺たちは前に進むんだって事!俺だって、俺も見つけるから…だから、もう、もう…」


それから。
やはり毎日夢は見ている。どうしようもないんだ。俺が動かなきゃ。
永遠の夏なんてないって、みんな分かってる。
でも、きっと俺が進まない限り、この悪夢も、みんなの生霊のようなものも、現れ続けるんだろう。
夢を終わらせる為に夢を見るなんて、なんておかしな話だろうか。
それでも、俺たちのひずみを解消する為に、俺は前に進まなきゃならない。




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