Free! #転落か、安寧か



なんでもよかった、だれでもよかった。
どうせ、代わりがいないなら、誰でも。
気持ちいい事は好きだった、人とふれあう事も、嫌いじゃなかった。
ただ、都合が良かったから、この男にすがりついただけだった。

凛とは戯れるようにふれあってきた。あれは確かに愛情だった。短い期間だったし子供だったから、きわめてプラトニックな関係だったけれど。子供が愛なんて語るなと言われても、あれは。
そんな関係も、中1の冬にいろんなものと一緒に消えてしまった。
喪失感。ぽっかりと空いた穴を埋められるものも、ひともいなかった。
「ハル、なんで水泳、やめたのッ!ぼく、ぼく…!」
ハルの泳ぎが好きだったよ?僕にできる事があれば…。
(…おまえじゃ凛の代わりになれない。)
でも、真琴にこんなこと言えない。おまえは大切な幼馴染みだから。おまえの代わりもいないから。
…じゃあ?

そんなことを悶々と考えていたときのことだった。
「なー七瀬。七瀬って彼氏いんだろ?!」
「…それが、どうかしたのかよ。」
などとこそこそ(わざわざ呼び出してまで)聞いてくるから機嫌悪くプイッと横を向いても、素直に答えてしまった為クラスメイトの男子は調子に乗ったらしく、『やっぱり!なーなー男同士って気持ちいいだろ?』
瞬間、凛と唇を触れ合わせたときの感触や、ふたりで笑い合った事、将来的にセックスをする筈だったであろう未来を思い、思わず…。
「お、オイ七瀬…泣くなよ…。何だ?もしかしてうまく行ってねえのか?」
メソメソ女々しく泣き始めた遙に男もおろおろとうろたえ始めたが、遙はキッと睨みつけ、言った。
「おまえには関係ない!…、おまえはどうなんだよ。」
「はい?」
「彼氏とそう言う事はしないのか」
「おい、なな「それって気持ちいいのか?教えろよ!抱かれるのってどんな気分だ?この穴は埋められるのか。…教えてくれよ…なあ…」
胸ぐらを掴んでいた手が、身体が、震えてついには泣き崩れてへたり込んでしまった。
やや暫くの間があって、重たい空気を振り払うように明るい声で男は言った。
「抱いてやるよ。俺でよければ埋めてやる。おめえに何があったのかも聞かねえ、この事も誰にも言わねえから、な?」
そうして男との関係が始まったのだった。
「優しく抱かなくていいぞ。俺は、」
「分かった。俺たちセフレでもねーし。お前がそういうなら」
「…ありがとな」
そうぶっきらぼうに言いながら、プイッと横を向けば、男はきょとんとした顔をして、笑いながら遙の頭を撫でた。
同い年なのに子供扱いされてるみたいで嫌だったけれど、頭を撫でられる感触は、とても心地よかった。
「…ッおい、やめろ」
「悪い悪い。じゃあ、今夜、家にこいよ。」



「じゃー始めるぞー」
「あ、ああ」
遙に知識はない。男が経験者なのだろうから、身を任せるだけだ。
だが、男にだって経験がある訳ではない。ただ、遙に気があった。それだけ。
妄想の中では遙を掻き抱いていたが、実際のところ、どうなるのか分からない。シミュレーションだけは完璧なのだが。
戸惑う遙を見ていると、安心させてやらねばならないと思った。
「まーまーそう固くなるなって。」
ちゅ、ちゅ、と頬、額、髪、様々なところにキスを落として少しずつほぐしていく。
遙はキスが好きだと言う事は、何となく分かったから。
…凛とするキスが、遙は好きだったから。そのなごりで。
「ん、んん…ふ…」
キスをされているからか、心臓の音がうるさい。凛の顔がちらついて、こんなんじゃまた泣きそうだ。どうしても苦しい。
「…ッ早くしろ!」
馬乗りになって男を欲した。早く、早く抱いてと強請った。…はやく痛みと快感でおかしくしてほしかった。
「わ、かってるって…」
怒声のようなのに、泣きそうな声で強請る遙に、少し気圧されながらも、男はシミュレーション通りに、まず乳首をピン、と弾いた。
「ひッ?!い、た、」
痛がったから、今度は優しく撫ぜてやった。

そうこうしているうち、遙はだんだんと焦れたように腰をゆらし始めた。
もとより素質があったのだろう。乳首はジンジンして痛いくらいなのに、それがたまらなく気持ちいい。
「早く、触れよ…ッ頼むから…!」
触ってほしい。このじわじわと追い込まれているじれったさから解放されたい。むずがゆいとも言える。とにかく、早く、早く!
「…七瀬、かわいい」
「あッ!あーっ…は、ぁ…」
先走りでしどしどに濡れそぼったそこにようやく男の手が触れる。搾り取るような動作で扱かれればボルテージが限界まで上がっていた遙はあっけなくイってしまった。
「おい七瀬、早すぎ」
「はーッ、は、うる、さい」
「へばってんなよ。まだ最後までしてねえぞ」
くったりと力が抜け、倒れ込んできた遙を抱えてベッドに押し倒す。いよいよ触り合いでは済まされない所に2人は足を、全身を突っ込もうとしているのだ。
「分かってる…!早くシろ」
「へいへい」
(凛なら…)
凛ならばどんな風に抱いただろうか、なんて考えない訳ではない。ひとしきり快楽の波が去った後に残るのは空虚感だった。
でも、それでも。
「あッ、あぁッ、ヒィ!あぅう…」
じゅぷん、ずぷん!と突かれるたびに理性とか、凛の事とか、すべて吹っ飛んでしまう。
遙は男に抱かれる為に生まれてきたみたいにセックスに溺れた。…いいや、快感の波に泳いでいるのだ。
凛の事を忘れる為に…。
気がつけば男の顔はもう分からなくなっていた。白む世界で、何もかも忘れたように乱れ、色に狂った。
「ぁ…?」
じんわりとあたたかいものを腹の中に感じて、遙は現実に引き戻された。
「七瀬、悪い…ナカ」
「あ、ああ、いい。別に」
ああ、そうだ。この男とゴムも付けずにセックスをしたのか。
きっとまたするんだろう。
「もう一回」
凛の事を覚えている限りは。


月日は流れて。
男との関係は終わった。結局本気になって、遙が拒絶した。
はるかのこころはりんのもので。
それは変わらなかった。どれだけ男が遙を愛してくれても、遙は凛のものだった。セックスはあくまでも忘れる為の一時的な応急処置だ。
そんな事があってから、長く関係を持つ事をやめ、最初から割り切った関係を複数の相手と持った。
とにかくこの寂しさを、強い快感で誤摩化すのだ。
だれでもいい。そう、名前も知らない人でいい。…名前を知らない人の方がいい。
情も、何も要らない。ただかき乱してくれればいい。
ぐちゃぐちゃの、どろどろな感情を、身体が表すみたいに遙は乱れて、淫らな言葉を吐いた。気持ちいいのは嘘じゃないし、嫌いじゃない。
気付けばこのざまだ。
仲間達には絶対に知られたくなかった。本当はいけないことだと知っているから。倫理的にも、法的にも。
いつしか遙の排泄孔は、指を突き立てられれば直ぐにしっとりと腸液で濡れるようになった。
やっぱり、遙は男を受け入れる為に生まれてきたんだろうか。
間違ってる。間違いだらけなんだろうけれど、凛のそれを受け入れる筈だった遙にとっては、至極当然で、自然な事のように思えた。
「ん…」
「あ。遙くん寝ないでよ。俺帰れないじゃん」
帰るよ。
と、始まりも終わりも、素っ気ない。
愛を育む為の行為なのに、愛情なんてどこにもない。
どこにも。だってもう、(愛するひと)はいなくなってしまったのだから。
(りん…)




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