Free! #君は知らなくていい



お前は何がしたい。俺を傷つけて何がしたい。
そう言って問いつめ、にじり寄っているのは俺なのに。なんでこんなに逃げたいんだ。
「ごめんね…ただ、ハルちゃんはどうなのかな…って、気になっただけ。」
あのね、…僕はイヤだ。こんなの嫌だ。やっぱり、僕もいくよ。行かせて、お願い。ハルちゃん、ねえってば!
そう言って真琴はまた泣き出してしまうから、俺はうつむきながらプイッと顔を逸らした。


遙はなんでもそつなくこなす。
泳ぐ事があまりにも特出している為気付かれないけれど、本当は、料理もバスケも勉強も、そつなくこなす。
そんな姿を見ていると、真琴とか渚とかは『すごいねえ』とすなおに感心するのだが、そうでない人間の方が圧倒的に多いのを、遙は知っている。
こんな事ははじめてじゃない。別に怖い事も、恥ずかしい事もない。なんでもない。どうでもいい。


真琴にはそれが理解しがたく、自分がとても苦しい思いをしているように泣いた。
遙にはそれが理解出来なかった。

『だって、そんなのハルちゃんが、』
かわいそう。
カッとなった。何が言いたいと早口で詰った。
真琴はまた泣いている。今度は遙が怖くて泣いている。
そして話は冒頭に戻り、そのまま俺はまた、そつなく、そう、『そつなく』そいつらを躱す為に、歩を進めた。
…とにかく、真琴から逃げたかった。


「おー、約束通り一人できたんだな」
「金魚のフンの橘は?付いてきそうなもんだけどな」
「…真琴がいたら面倒なんで、置いてきました。いいから早く、」
(終わらせましょう)
「抱いてください?」
(こんな台詞)
『終わらせたい』なんて吐いたら長引くと分かっているから、遙は口にしない。
遙は人間関係に関して不器用だが、空気は読める、そんな聡いこどもだった。
不器用さは、ひずみのもとで、狂っているのは果たしてこんなこどもに手を出す男達なのか、それともどうでもいいとその身を投げ遣ってしまう遙なのかは、真琴にも、遙にも、男達にも、誰にだって分かりはしない。
とにかく、異常だったこと、それは誰が見ても分かる事だった。


跪いて、男の股の間に顔を埋めて、『悦ぶように』と、口を使ってゆっくりとジッパーを下ろした。
くんっと、イチモツの質量が増した気がした。それだけで男が興奮するのがあんまりにも滑稽で、息を詰める様子に影で嘲笑を浮かべた。
美しい遙の人形のように動かない表情筋が、僅かに綻ぶのに、真琴なら気付いただろう。…真琴は関係ない。こんな場所、あいつには似合わない。遙はそう思っていた。心から。
「いいぞ、七瀬ッ、」
ただ、機械的にフェラをする。この行為も片手では足りなくなった頃にはすっかり手慣れてしまったから、本当に器用なもんだと思う。
覚えたのは、相手を気持ちよくしてすぐに解放される為の手段。
媚びるような甘い声を出す事も、感じている、気持ちいいと乱れる事もできないけれど…遙の身体は顕著に快感を拾ってくれるから、男達もそれにはすぐに気付いて、機嫌良く帰ってくれる。
(つごういいからだ。)
まるで娼婦のようだと、かすかに喘ぎながら思った。身体はびく、びくと震え、快感に溺れる瞳はとろりと蕩けている。
恥じらう事は何もない。こうしていれば、帰してくれるんだろう?
あらがう事もなければ、泣き叫ぶような事でもない。これは、遙にとってごく自然なものになっていた。
「ッ、あ、ぃ…ぃ…あ、ぅ…」
擦れた甘ったるい声は、自分のものではないみたいで。まるで真琴の声みたいだ。と思った。
あいつの声はチョコレートを湯煎にかけたようにでろでろに甘い。それでいて不快感は全く覚えないから、きっとおれはその声が好きなんだろう。
(あいつも、俺を抱いたらこんな風に喘ぎそうだ)
その瞬間。
幼馴染みを穢してしまったんだろう、と、思う。

「じゃあな、七瀬。また、こいよ」
「…はい」
上機嫌で遙に背を向けた男に、なんの感情も抱かなかった。だってこれはいつも通りのこと。遙にとっての煩わしい日常だから。
煩わしさから解放された遙の足取りは、自然と軽くなっていた。
(あいつ、泣いてたな。)
これからしようとしている事を思い浮かべ、遙はニィ、と厭らしい笑みを浮かべた。
それはそれは淫靡な、笑顔で。



「ハルちゃん、はる、やめ、やめて…やだよ、こんな、あひッ!?」
じゅ、じゅうっと真琴のそれを舐めた。いつものように機械的にではない。これでもかと言うくらいに真琴を気持ちよくする為ことに務めた。
鈴口を強く吸うと少し痛そうにうめいたから、裏筋を舐め上げてみる。びく、びくと分かりやすく震える真琴が可愛くて、『可哀想』で、ぞくぞくした。
「どうだ?ひもひいいらろ?」
「く、わえた、まま、ッしゃべらないでぇ…!」
あっけなく真琴はイった。遙の口の中に精子をぶちまけて、とろんとした顔で、甘すぎて胃もたれするくらいのとろけた声を上げながら。
「なあ、『可哀想』なのはお前だろ?俺は別にこんなの、苦でも何でもない。可哀想だなんて心外だ」
お前にも教えてやるよ。俺がしてきた事。
「だ、って、はる、はるッ?!だめ、それは、だめ、だめだめぇえ!」
ズプリ、と。
内壁を掻き分けながら侵入してくる熱を、俺は容易く受け入れた。初めて味わう感覚だった。
真琴を罵り、馬乗りになって自分本位に腰を動かして、自分勝手に快感を貪るのは…仄暗い感情が芽生えるほどの優越だった。
「はーッ、はーッ、な?真琴、可哀想に、」
俺にしゃぶられていって、俺の中に出して、初めて全部奪われて、ホントにお前は…可哀想だ。
「…はる、ちゃ、なんで…」
敢えて付けられたコンドームの中に溜まった精を真琴の顔にかけてやる。
ぞっとするほど無垢なこどもの涙に濡れた顔が、また新たな体液で(しかも己のだ)汚れていくのが、何よりの快感だったのだ。
「お前は俺のもんだ。一生な」
絶望を浮かべた真琴が、ただ呆然としているだけだった。


おわりのはじまり。


「まこと、すき、すきだから、こわしたいんだ」

『七瀬、また、教室で』

『真琴、真琴、シタイ』


可哀想なのは、はるだよね。
真琴にはそう見える。
長年続けている遙主導のセックスに溺れる真琴は知っている。
何もかも奪われた後の遙を抱き、愛するのは俺の仕事だと、知っている。
本当はそつなくこなしたいだけで、できてないのだって、自己満足だって、知ってる。
教えないのは、優しさですか。
それともエゴ、ですか。
傷つけてしまった過去は消えないなら、せめて。
今在る苦しみから遙をどうか、遠ざけられますように…。




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