Free! #愚者



思えば最初から間違っていたのだ。
生産性のないセックス。快楽を貪るだけで、愛情の欠片もないそれ。
けれど真琴はそれでいいと思っていた。
誰かを傷つけるよりも、自分の身が引きちぎれる方がよっぽどマシだと本気で思っていた。
男が男を好きだなんて、それも幼馴染みが好きなんて、異常だから。
きっとそれを幼馴染み、遙が知ったら酷く不快な思いをするだろう。
綺麗事を並べてみたものの、結局、それで嫌悪感剥き出しの顔を見るのが怖いだけで、真琴は自分が傷つくのを恐れているだけだと、自分ではよくわかっていた。

進学すれば、遙と距離を置く事ができる。それはすぐそばまで迫っていて。真琴にとってそれはいい事でもあったし、とても悲しい事でもあった。

真琴が自分の異常性に気付いたのは、高校に入ってすぐの事だったように思う。
単身赴任の父親の元に母親が付いて行き、遙があの一軒家にひとりぼっちになってから、何かと世話を焼きたがり、果ては泊まり込んでまで世話をするようになったからだ。
好きだから。理由は酷く単純なものだった。
周りは微笑ましい幼馴染みの絆、などと言って頬を緩ませていたが、真琴は自分が怖くなった。
いつか自分の箍が外れた時、真琴は何をするか、冷静を保つ事ができる自信がどこにもなかったからだ。
ある時、ふと見てしまったアダルトサイトで、ゲイもののAV を見た。移入したのは受け入れる側だった。抱かれたい、確かにそう思い、このままでは遙を逆レイプしそうで怖かった。
ならばどうしたらいい、どうすれば。

結論から言えば真琴は、男に抱かれると言う道を選んだ。
定期的に抜いていれば、きっと遙を襲う事はない。きっと。そう信じて。
そうして真琴は道を外してしまう。



某ホテルの一室、緊張した面持ちで真琴は、ついに男と出会った。
「君がまこちゃん?いや、俺写メ見た時騙されてんじゃないかと思ったくらい好みでさ、実物も超可愛い。嬉しいな」
初めてあった男はそんな軽いノリで真琴の肩に手を乗せてきた。その手はじっとりと湿っていて、興奮が直に伝わり、正直気分は良くなかったが、真琴の決意は揺るがなかった。
体中を撫ぜるその手つきは猫に触れるかのように優しいのに、感じ取れるのは確かな欲望と興奮、ただそれだけで。
それでもこそばゆいような、心地よいような、きっと他人と体温を共有しているからだ、と思った。
これが遙だったら、なんて事は、考えないようにして。
「ん…××さん…キスって、どんな感じですか…?気持ちいいですか…?」
普段に増してとろりと蕩けた瞳が男の瞳を見つめている。
その目には、確かな期待と不安が乗せられていて、男はその色気に思わず生唾を飲んだ。
「してみる?俺、まこちゃんがこんなに初心だと思わなかった…ビッチ臭いのに処女なんだね…ッ」
そうして初めてのキスをした。
啄むようなキスはすぐにディープなものに変わり、じゅるじゅると唾液を吸われ、舌を嬲られ、呼吸ができなくなるほどの甘い痺れを覚え、ガクガクと酸欠か、快感かで足が震え立っていられなくなるまで続けられた。
「はっ…は…ぅ……ッ…ぁ…」
「お、っと…そんなにヨかった?」
立っていられなくなった真琴を支えながら、男はベッドの端に真琴を座らせてやる。
いよいよ本番が始まってしまう。未だ痺れた頭でぼんやりと受け入れている自分が恐ろしかった。
仄かな期待を抱いている事が、一番、怖かった。

「服、捲くって…そう、そのまま。」
Yシャツのボタンを中途半端に外して、胸のつぼみが見えるか見えないかのあたりまでたくし上げる。
普段から露出されているそこは、健康的な肌色をしていて、妙な色香を放っていた。
「綺麗だよ、まこちゃん…」
男は躊躇う事もなく、ちゅ、ちゅ、真琴の良く筋肉の付いた腹から、だんだんと上へ、口づけていく。
こそばゆい。今度こそ耐えられないくらいこそばゆく、思わず吐息が漏れてしまう。
「ふ…ぅ…ッくすぐ、ったぁ…」
「え、それだけじゃないよね?…勃ってるよ?」
ッ!」
カッと頬に赤みが差す。
その通りだったから。
真琴の下肢は確かな熱を持って、ズボンを押し上げ、分かりやすいくらいに勃起していた。
「…ぁ、う…はい…」
男はまたかわいいと真琴に口づけた。



「…アッ…アアッ、はげ、し、…ッ!?!!」
初めて味わうペニスは凶悪なほどの快楽と痛みを真琴に与えた。
どろどろと腹を汚す精は、もう力なく揺さぶられるたびにぷるぷると動くペニスから垂れ流れていったものだ。
ズンッと突き上げられればその度射精とも言えない情けないほど勢いのない射精を繰り返して、吐き出すそれはもはや薄まりすぎてカウパーと大差ない濃さになっている。
「まこちゃん…初めてとか嘘でしょ?よがり過ぎ」
「ちが…ホントに、初めて、れす…ッ!」
ガツガツと奥まで突き上げられる。きっと男の限界が近いのだろう。
2、3度吐き出した後だと言うのに、男のペニスはいまだ硬度を保ったままで、このまま終わらないのではないかという恐怖を覚える。
「ああ…ッ、真琴!出す、ぞッ!」
最後の射精は長かった。
真琴は注がれる精に反応して、ペニスを震わせる。
ずるり、と凶器が抜かれた孔は、ぽっかりと開かれていて、後戻りができない場所まで来てしまったと言う事を物語っていた。


「また、会おうね」


そんな台詞に、やはりぼんやりとした頭で頷いて、帰路につく。
高3で初めて経験したセックスは、遙の事を忘れさせるには十分すぎる刺激だった。
遙が真琴の事をどう思っているのかも考えていない真琴は、本当にばかなのだろうと、どこかの誰かは嘆いている。



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