Free! #「ねえ、せんせい。」「なあ、まこと」



触ったら壊れてしまうんじゃないかと思いながら真琴に触れていた。
最初はそんな気はなかったのに、だんだんだんだん、止まらなくなって。歯止めが利かなくて、いつしか真琴を壊してしまう気がして、怖くて、怖くて。
だからあの日、本当に気が狂うかと思った。
優しい真琴。可愛い真琴。綺麗な真琴。真琴。
それが!あんな風に!穢されて!!!!
そう言いたかった、叫んでしまいたかった。
おれはいい奴なんかじゃない。真琴みたいに愛を振りまく太陽になんてなれない。

泣いている俺を見て、真琴が戸惑う。
俺を太陽だと思い込む瞳が揺れている。
でもごめんな、俺は、
「俺は、真琴の思うような奴じゃないよ」
そう言って、もう一度だけ真琴の頭を撫で、その場を去った。
それはもう、別れを告げるみたいに、名残惜しい行為だった。

しっかりと真琴に気持ちは伝わってしまったようで、あれから一度も真琴が現れる事はなくて、気がつけば卒業が間近になっていた。
「先生」
ノックもなくドアが開かれる。冷たい、透き通った声。
俺は面食らって一言も声を発する事ができなくなった。

七瀬遙。

真琴が溶かすべき、凍てついた氷。

俺が受け持った事はないから、なかなか目にする事はないが、真琴から良く聞いている。
とっても泳ぎが綺麗なんだ。
本当はみんなの事思ってるんだよ。
ハルちゃんの痛みを僕が半分しょってあげるの!
俺は真琴の心を溶かしてやれない。
こいつらはお互いがお互いを…。
「…先生…助けてやってほしい」
真琴が、壊れてしまったから。
凍てついた氷は、周りをも凍らせてしまった。
…大事な幼馴染みまで。

俺は走った。がむしゃらに走った。真琴がどこにいるのかも知らないのに。





己の醜い感情を、蓋をして鍵をかけてやらないといけない感情を、いつも飼っている。
そいつは時折発作のように襲ってくるけれど、いつしか対処の仕方を覚えていた。
だから、俺は大丈夫。何が大丈夫なのかなんて分かんないけど、大丈夫なの。

ねえ、先生。

あれから。俺はしたくもないセックスを重ねて、気がついたら何もかも忘れて、遙のことも、みんなの事もなんでかな、なんか、どうでもよくなって。
だって感情が無くなったみたいに中身が空っぽなんだよ、先生。
いっそ、この身体ごと引きちぎってほしいくらいには、現実が現実じゃないみたいで、つらかった。
だからだろうか、セックスに浸る時間は気が楽で強烈な快楽に頭が回らなくなるあの時間は、ほんの少し好きだった。
あの男と、違う男と、誰でもいいから掻き抱いてほしかった。
そうしたら、先生が来てくれるかな、なんて、そんな、期待で。
そんな自分が、大嫌いだった。

当然のように身体は拒絶反応を起こした。
それはあっという間で、吐き気がするような耳鳴りがするような、とにかくおかしくなってしまった。ううん、ずっと前からおかしかった。知ってた。
「おい…まこ…」
ハルの声も聞こえなくなって、意識は遠のいて…。
ハルは知ってたのかな。俺の事なんて置いてっちゃったじゃん。きっと知らないよ。知らないで。僕の事、見ないで。お願い。


「真琴!」
ああ、やさしいこえが聞こえる…。
「せんせ…?」
ああ、鍵が壊される。もう戻れないよ。
「せんせ…ごめんね、ぼく、ぼくね、汚いから触らないで…」
これ以上見ないで。
「ずっとすきだったの、



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