Free! #B




Side:H
真琴が俺のそばから消えた。
じわじわ、溶けるように存在感を薄めて。
年末、帰ってこいと言えなくて、帰れるかなと笑っていた真琴は本当に一回も帰ってこなかった。
この間怜に言われた言葉が、俺の中を巡っている。
「七瀬遙の特別は橘真琴ではないのですか!僕はあなた達に感謝しています。だから、このまま2人が離ればなれになって行くのが悔しい。遙先輩。真琴先輩の特別が誰なのか、分かっているでしょう?僕たち水泳部の中で、一番自由で、心が弱くて、鯖と水と真琴先輩が大好きな人ですよ。」
そんなこと、言われても分からなかった。ただ、真琴の事を一番好きなのは、特別なのは誰でもない自分だと、胸を張って言えた。…過去の自分ならば。
前半は言い切る事が出来たのに、後半は自信がなくて、「…おれ、か?」としか言い返せなくて、なんだか泣きそうになった。
じゃあ何で真琴が帰ってこないんだと怜を半ば詰るように問いつめた。俺だって会いたいのに…なんて、言えなかったけどずっと怜には言いたかった。
「会いに行けばいいでしょう!そんな、たいした距離でもないのに!」
と、当然の事を言われたので、言われた通りに会いに行く事にした俺は、相当真琴不足に陥っていたのだと思う。
夜行バスのチケットを取るのは一瞬で終わり、決意する間もなく俺はバスに乗り込んでいた。




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