Free! #過ごした時間と大切なチームを@



Side:M
出会い方が違っても、今と同じ関係に居るだろうか。
例えば凛のようにライバルとして出会ったら。
渚のように可愛い弟分として出会ったら。
怜のように金槌で不器用な後輩として出会ったら。
俺はここに、岩鳶高校水泳部に、…ハルの隣に居られたのかな。
家族ぐるみのおつきあいがあるから今がある。過ごしてきたときが語っている。俺たちは親密にならなければならないと。
じゃあ、その過ごした時がなかったら?
俺たちは、知人にすら分類されないただの他人じゃないのだろうか。
描く未来は俺にとっての絶望と何ら変わらないものだった。
そして、描いていた世界に、俺はきっと今、居る。
ただの他人になってしまった。遙は凛と新しい道、世界を目指し競泳選手になってしまった。真琴と違う方向へ。
幼馴染みなんだよ、といってももう何年話をしていないだろうか。
もう、幼馴染みだった事など忘れているだろうか。
会わない時間は、じっくり、けれど着実に俺たちの距離を離して行った。
なあハル、俺たちって幼馴染みで、親友だったよな?
こんな事を思っても仕方ないのに、二十歳を過ぎ、ようやく呑めるようになったビールを呷り、机に置かれた遙の仏頂面の写真を見つめながら、夜を明かすように呑みふける日々が続いて行く。
大学に入って2度目の冬を迎えた。さすがに都会の街並にも慣れて、今更何の感慨などないけれど、煌々と輝くネオンは、今の真琴の荒んだ心に、少し沁みる。遙の水底のように深く、冷たくて、でも美しいあの瞳を思い出させるものだった。
ここ最近、何をしていても遙を思い出す。昔のように直ぐに電話や会話が出来なくなったのは、なにも距離が離れてしまったから、というだけではない。
心の距離まで一緒に離れてしまったからだ。もう、真琴は遙の瞳から思考を読み取る事は出来ないかもしれない。
3回生になったら就活が始まるから。と言って今から忙しいフリをした。
今年の冬も地元には戻っていないし、来年も戻らないだろう。もしかしたらもう、戻る事はないのかもしれない。
遙とのたくさんの思い出達が詰まったあの場所に、戻りたくない。
今がこんなにも虚しい事を、実感したくない。
結局俺は、そのままずるずると実家には帰らず、遙にも連絡を取らないまま、近くに住んでいる怜以外との水泳部関係者とも連絡を取る事もなく、卒業を迎える事になった。
怜は時々楽しかったあの頃の話をしてくる。
別に今が楽しくない訳じゃなくて、やっぱりあのときって俺たち全員の人生の中で、格別に濃い時間だったから、話が尽きないんだろう。
ちくちく痛む胸に気付かない振りをして、怜とは笑ったけど、聡い怜がそれを不振に思わない筈がなかった。




<<< ◇ back ◇ >>>
<<< ホームに戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -