Free! #B




…というか、不安ならば、こうすればいいんだ。
ふと思い浮かべたものが最善策だと言わんばかりに、遙は真琴から離れる。
名残惜しい熱が仄かに残って、さみしい。
きっと真琴はもっと淋しかったんだろう。
これしかない。

ずっと渡したかったものもあったし、ちょうどいい。

離れたところで、ずっと裸、というのも恥ずかしくて、いそいそとお互いにぬるくなった衣服を適当に纏ってから、
「真琴、俺と、結婚してくれ。」
と、遙は至極真面目な顔で言い放った。
もっと、物理的にも精神的にも真琴を安心させるには、これしかないと思ったから。
ない頭で精一杯考えた結果だった。
「え…えっ…ええっ…!?は、ハル、意味分かってるの?!いいの?おれ、こんな弱くて、そもそも男で…俺なんか…っん…ふぁ…」
うるさい口を塞ぐようにディープなキスをすれば、真琴はそれを享受してくれる。必死になって遙についてこようとする。

ああ、愛おしい。

こいつとじゃなきゃだめなんだ。俺だって、真琴がいいんだ。ハルじゃなきゃだめで、真琴じゃなきゃだめならば、いっそひとつになってしまえ。
「お前、さっきからうるさい。嫌なら言えばいい。俺はお前がいい。お前じゃなきゃだめだ。…お前もなんだろ?」
「はるぅ…だって、結婚なんて、俺たち出来ないし…どうやってするのさ…」
いつものあきれ顔に戻っていた真琴が、当然の疑問を投げかけてくる。
そんな事は百も承知で、俺たちは一生正しく交わる事は出来ないのだ。少なくとも、この国では。
「………ちょっと、待ってろ」
遙の部屋で致して居た為に、少し距離はあるが居間へと向かう。
すっかり萎えきったイチモツは下着だけは着ていたし、邪魔をする事もなかったが、正直なところ真琴の幸せそうな顔を見ているだけで勃ちそうだった。どうやら自分でも気付いていなかったが、自分はSっ気があるのかもしれない。





目当てのものを見つけ、すぐさま部屋へと舞い戻る。
真琴は遙が部屋を出たときと同じ格好で、ぼんやりと互いが脱ぎ散らかし、着る事のなかった服を手に取り、その影を見つめていた。
「まこ…「こうやって、影になれば、ひとつになれるのにね。ハルちゃん、俺、女の子に生まれたかった。」
独り言だったようだ。

悲しい、独り言だった。



「真琴、お前バカすぎる。俺は男のお前がいい。お前が女でも男でも変わらない。影だけじゃない、ひとつになる方法、見つけたんだ。だから、これ…」
ふわっと、レース調のテーブルクロスが真琴の緑がかった頭に乗せられた。
つい先ほど蘭から、「ハルちゃん家はなんか寂しい!だからこれあげるね!」と渡されたもので、ベールみたいだと思ったから。
こんなの、正直似合わない。でも、真琴は綺麗だ、遙にとっては、一番だ。
端から見たら似合わなくても。遙からすれば誰よりも似合っているのだ。

(可愛いところも、いいところも、だめなところも、知っている。
凛みたいに張り合えるくらい泳ぎが速くないのも知っている。
柔らかな体躯を持ち合わせていない事も知っている。
渚みたいに小柄じゃないの、気にしているってことも、素直じゃないのが自分でもすごく嫌だってことも、知っている。
遙の方が料理だって上手なのが悔しくて、こっそり練習しているのだって、知っている。
海が怖いのだって、知ってた。)

知っていたこと、知らなかったこと。たくさん、たくさんある。

だけど知ったんだ、知りたいと思ったんだ。真琴の事は全部。

ダメなところがあって、でも、それでもいいって、だって、

(お前だから。…お前じゃなきゃ、だめだ、俺は)
「はる?こんなの、まさか…」
ぎゅうっと真琴を抱きしめる。自分より体格がいいのは少し腹が立つけれど、真琴以外に俺のパートナーは居ないんだ。
「結婚しよう。いつか、ちゃんとした指輪、渡すから」
ちゃり…と小さな音を立てたのは、シャチとイルカのネックレスだった。
「こっちがお前のだ」
イルカの方を真琴に差し出す。
この間みんなで水族館に行ったときに渚に入れ知恵されて買ったのだ。
今思えば渚にはいくら感謝しても足りない。これがあって助かった。
「…っ!うう〜…ハルちゃぁん…好きぃ…すき…」
抱きしめた真琴の身体が震える。
泣いているんだろう。
泣くな、笑え、俺と一緒に、ずっと、一緒に。
「ほら、誓いの言葉、………ん、……う、……?」
「っはは、誓いの言葉って言うと…『健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』、だろ?」
よく覚えているなと、記憶力に感心しつつ、よく考えれば真琴とこういったものを妹達がきゃあきゃあいいながら結婚式ごっこなんていいながらしていたと思い出す。
「誓いますか?」
遙が珍しく楽しげに問う。答えが分かっているから、楽しい。
「…っ、誓います。…ハルは?」
「誓う、一生離さないから。」

二人は永遠の愛を誓う。

安っぽいネックレス、こんなものでもいいのだ、気持ちは本物なのだから。
光を反射するネックレスに頬ずりをして、綺麗な光を放ち、 真琴の瞳から落ちた。




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