Free! #永遠の約束@



うるさいと思ったことなんてなかった。
「ハルちゃん。」
そうやって俺を呼ぶときの真琴の声が心地よくて、「ちゃん」付けこそ嫌ったもののあいつの声が聞こえないと落ち着かない、そのくらい、そう、水と同じくらいに、大切だと気づくまでに、案外時間はかからなかったような気もするが、それを伝えたのは、高校に入る少し前だったか。
自分でも本当にぶっきらぼうに、いつもの調子でぼそりと伝えたものだから、なかったことにされるのではないかと思うほど直後の真琴の態度はいつもどおりだった。…直後は。
「へぇ………って、へ!?」
まったく今でも笑い話にもならないほどそのときの真琴はまぬけだった。し、かわいかった。
その日が、真っ赤な顔で、目は泳いで、俺のほうを見れないといったようにうつむいて、小さく、「俺も」とつぶやいた真琴と、いわゆるところの「お付き合い」を始めた日でもある。
伝えなくとも存在する何かというものはある。けれど明確に関係が変わって、最初は戸惑ったが、それでも真琴と俺の根源が変わることはなかった。
が、まあすることはする。
「…ね、ねえっ…おばさんに聞こえたりとかしない…?やっぱりやめ…ん…んぅ…はるぅ…だ、だめだって…ぇ…やっ」
かなり長い付き合いでも、こいつがここまで流されやすいということも、無垢なことも、俺は知らなかった。
もそもそとまだ着せられているといっていい制服を脱がしていく。明日は体育もない。多少痕を付けてもそこまで咎められはしないだろう。というか、痕を付けられるような行為に及ぶんだってこと、ホントに分かってるんだろうか。
「真琴、だめならしない。お前が決めろ。あと、おふくろはいま親父のとこ。」
「…うぅ…いじわる…。はる…言わなくたって、わかるだろっ!」
チョロい。チョロすぎる。ほら見ろ本当はしたいくせに。
確かに言われなくたって分かる。お前の考えていることなんてお見通しだ。
初めてキスした時だって、したいって顔に書いてあった。今も同じような顔してる。
…だが、ここは言わせてみせる。いつだって俺がリードしてきたんだ。
「お前が言わなきゃしない」
こう言い放ち、脱がしかけた制服を整えてやった。…泣きそうな顔をされても困る。
「はるっ…ハル俺、…おれぇ…し、した…い…」
5分ほど経ったところでようやく口を開いた真琴は、そういって俺の胸に抱きついてきた。
どう考えても真琴の方がガタイがいいんだから、押し倒される形になったが、真琴のほうからそれ以上の手が伸びることはなかった。(正直今だってない、きっとこいつは俺に掘られる運命なのだ)
これ以上責め立てるのもさすがにかわいそうだし、真琴の気が変わらないうちにことに及んでしまおうと、せっかく整えてやった制服を再び脱がしにかかる。
押し倒されたのが気に食わなかったので、ガバっと起こしあげてそのままの勢いで押し倒してやった。
「あ…や、やさしくしてね…?はる…すき…好きだよ…」
こういうところがどうしようもなく愛おしく、それ以上に心配である。
俺以外のやつにもいうのか、とか。俺の方が好きだ、とか。
…そんなに可愛くて大丈夫なのか、とか。
「…お前、煽ってるって、分かってるのか?」
「へ…?っちが!」
本当に自覚がないから心配でならない。
けれど、そんなところも、自分が守ってやればいい、誰にも見せないように、一生遙が縛っていればいいだけの話だ。
気恥ずかしくて、本人には言えないけれど。
「早く脱げ。それとも脱がしてほしいのか?」
先ほど遙がきっちりと着せてやった制服。
成長期だからと少し大きめのものを買ったにもかかわらず、真琴の身体はそれを上回りそうな勢いで成長していた。
遙はどれだけ成長出来るだろうか。
真琴の背を抜く日は来ないかもしれないが、差がこれ以上広がる事がないように祈る。
男としてやはり譲れないところだった。
「…だ、って、ハルがやったんだろ!」
些かネクタイを硬く結びすぎてしまったようで、緊張からか、なかなかほどく事の出来ていない真琴に、仕方がないと言った様子で(態度だけではあったが)性急に衣服を剥いでやった。
「あ、ありがと…ん…っ」
するするとあらわになった太ももを指でなぞりながら、ふっくらとした唇を啄み、舌を入れこむ。
「ふ、ゃ…ふぁ……っ」
何度もキスはしてきたけれど、真琴のキスはいつまで経っても拙いままで、いつまでもこうだったらいいと思ってしまう。
こういう事に関しては、真琴は無垢で居てほしいし、遙がリードしていたい。せめて、こういう面では。
「真琴、口開け…っ」
ぬるぬるとした感触が心地いいとともに、緩やかな欲望が迫り上がってくる。
おもむろに胸元をなぞり、揉む。
筋肉により硬くなった胸は、どこにも柔らかさなどないのに遙はそれをむにむにと揉むことをやめられないでいた。
「ひゃ…は、ぅ…ぅ…女の子じゃないんだよ…?そんなとこ触っても、楽しくないでしょ…、っ?」
少しずつ艶やかさを醸し出し始めた真琴の声が脳髄まで響いて、甘い痺れを下半身に与えていく。
どうにも耐えられそうになくなって、下肢をまとっていた邪魔な布をいつものように着込んでいた水着ごと剥いだ。
脱がせた真琴の服と遙の服が散乱して、これからセックスをするのだというのに、手があいた真琴がいそいそとそれをたたもうとしているのがおかしかった。
「…別に、どうせ洗うんだからいいだろ…」
そんな事してないで、早く真琴に触りたい。ひとつになりたい。早く、早く。
「ま、って…はる、触っちゃ、やぁ…っん」
既に立ち上がりかけていた真琴のそれにそっと手を添える。
途端にびくりと震え、今まで以上に甘い声で拒否してくるが、そんなものは全く持って無意味、を通り越して逆効果だ。煽られている気分になる。
言葉は無視してキスを落とせば、すっかりおとなしくなる真琴だって、きっともう我慢の限界の筈だ。
扱くのは止めずに首筋から胸元までを舐め上げたり、先ほど散々揉んだ胸の、飾りに触れてみたり。
手探り状態の愛撫でも、真琴は随分と気持ち良さそうにしていた。
「ふぁ…あ、むね、ぁア……っや…!ひ、ぃ…」
むくむくと育った真琴のそれは、先走りでぐっしょりと濡れていた。
艶やかな真琴に当てられ、遙の触れてもいない自身も涙をこぼしている。
「真琴…っ」
「…ハル…ん、いい、よ」
何をしたいと言わなくても、名前を呼べば伝わってしまう。
相当に余裕がない事も、緊張して心音がもの凄い事になっている事も、きっと、伝わってしまっているのだろう。
買っておいたローションを温め、ゆっくりと1本、たっぷりとローションを絡ませてから挿入する。
きゅうきゅうと締め付けられて、中の締まりや暖かさが直に伝わってくる。
(…すごくきつい…)
「…っ、ぅ…」
「悪いっ……痛いか…?」
痛みはなさそうだが、先ほどまでとは打って変わって、苦しそうなうめき声を控えめに上げたのに驚いて抜こうとするが、ぬめりが足りないのかぎっちりとうまった指は簡単には抜けない。
それに、慣らさなければ入らないのだ。ひとつになれない。
「は、る…、へいきだよ…だから…ね?」
「っ…知らないからな…」
真琴が悪いのだ。こんなにも遙を煽るから。
ぐりっと力を入れて挿入した指をなじませるように抜き差しすると、分かりやすく真琴は背を反らして涙をこぼした。
けれど、もう遠慮はしない。
少し余裕が出てきたところで、一本、二本と指を増やしていく。
その度、びくんびくんと身体を震わせながらも、必死に力を抜こうと息を吐いて、遙をじっと見つめていた。
その瞳には、確かな熱が宿っている。
ぐに、と少し感触が違うところを指で押した瞬間、真琴が甲高い声を上げ、ひときわ大きく身体を震わせた。
「ひ…っんあぁ…!?」
途端、じたばたと快感から逃れるように藻掻き、顔を真っ赤にしながら止めてくれと懇願してくる。
「ここ、いいのか?」
それを快感を拾っていると正しく受け取った遙は、何度もそこを押しつぶすように、3本に増えた指で攻め立てる。
「や、だぁ…!ふぁ…ぁ…はるぅっ、ハルのがいいっ、ハルの、欲しい…っあ…ああ…っ!」
ぷちゅ、と間抜けな音を立てて指が引き抜かれていく。
その感覚にも、真琴は盛大に喘ぎ、先走りを零していた。
「真琴、っ真琴…!」
何度も何度も名前を呼んで、挿入前に既に達しそうなほどに張りつめた自身を押当てた。
「…んん…はぅ…ハルぅ!んぁああああっ!!」
ぎゅうぎゅうに締め付けられながらも、真琴の中を侵していく。
あり得ないほどの熱に、ゴムを付ける事を忘れているのに気付いた。
「…っ悪い、ゴム、忘れた…っ」
「いい…っから、うご、いて…は…っ、る…」
酷く汗をかき、しっとりとした肌をすり寄せ、少しずつ動き始める。
(なんか、今日のハル、余裕なくてかわいい…)
自身も余裕などかけらもないのに、妙に冷静な頭が、珍しい遙の様子を観察している。
こんな様子、きっと自分しか知らない。
そう思うと、仄暗い想いが、心に滲んでいくようだった。
優越と、不安と、何かが、心を浸食していく。
もともと、叶う事のない恋だと思っていたのに、こんなに幸せで、許されるのだろうか。
「っ、は…、真琴、ま、こ…とっ」
呼ぶのは真琴の名前で、真琴の中に入っている遙は、びくびくと震えて、孕む事のない内蔵に精を叩き付けようとしている。それは、世間一般ではどうやっても許されない行為で。
(ねえ、ハル。俺はハルだけのものだよ、一生。…今だけは、ハルは俺のものだよね…)
一足早く限界に達した遙の白濁が注がれる。
何か心が満たされるような気がした。
…けれどそれはとても空虚な何かなのだろう。
遙でしか、埋められもしないのだろう。
それでいいと思った。
幸せなのに、不安は残る、そんな遠い春の出来事。



<<< ◇ back ◇ >>>
<<< ホームに戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -