Free! #Together throughout life



好きだよ。
たった4文字に込められた想いの重さが、いつだって真琴の身体を竦ませる。
声に出す事はいつからか出来なくなって、この行為の意味も、だんだんと麻痺して分からなくなっていた。
(だって、最初に求めたのはハルなのに、一度だってその言葉を俺に投げかけてくれた事はないし)
縋るように抱きつかれて、キスをされて、そのまま押し倒されて…。
真琴が相手でなかったらそれは間違いなく強姦に値するであろう行為だった。
でも、それでも。痛みしかなくても、真琴は拒まなかったし、遙の事を嫌いになる事もなかった。
嬉しかったから。遙が真琴を求める事なんて、普段の生活ではないに等しくて、いつだって真琴は一方通行ともいえるほどの想いを投げかけていたのだ。本当に心から遙の事が好きだった。何よりも大切だった。
それにこれは、愛を確かめるための行為だと、聞いた事があったから。
(そっか、ハルは俺の事、嫌いじゃなかったんだ…。)
それに真琴は酷く安堵したのだ。
だから、どれだけ酷くされても、真琴は遙に従って、好きだ、好きだと譫言のように愛の言葉を吐き出していた。
けれど、それは最初のうちだけで、次第に真琴は不安に駆られるようになった。
どれだけ抱いても、遙は真琴に、一度も好きだ、愛している、などの言葉をかけてくれなかった。
それどころか、行為中の遙は普段にも増して無口で、耐えるように唇をかんでいるばかりだった。
なんだか、ただの、


…性欲処理の道具みたいだと、思った。


性に疎かった真琴も、遙と行為をするようになって、少しずつ知識を拾っていくようになった。
成長するにつれ、同級生がそういった話題に興味を持つようになったのも大きい。
そんな中で覚えたのが、セックスは、必ずしも愛を確かめる為の行為ではないという事だ。
『セックスフレンド』
そんな言葉が、真琴の胸にしこりを作り、それは、ずっと消えてはくれなかった。
それから真琴は、好きだと遙に告げる事をやめてしまった。
それでも、呪いのようにセックスをする日常は変わりなく続いていくのだから、少し笑えてしまう。
やめるという選択肢を、真琴が選ぶ事はない。
遙がやめたいと思ったときが、この行為が終わる唯一のタイミングだ。
そしてそれは、いつか来てしまうのだろうけれど、真琴がそれを止める事は出来ないだろうし、そもそもしようとも思わないだろう。
橘真琴とはそういう男だ。
いつだって、七瀬遙が軸にいる。


「…ん、ハル…?おれ、寝ちゃってた…?」
心地よい感触を頭に受けながら、ゆっくりと瞼を開くと、遙がパッと手を離した。どうやら遙が頭を撫でていたようだ。
ベッドに肘をついて、慈しむように真琴を見つめていたのが一瞬だけ見えた、気がした。
「…ああ、気持ち良さそうに寝てたな」
いつものように遙の家で事を致したあと、睡眠不足か単なる行為による疲労からか酷く瞼が重くなり、あらがう事も出来ず微睡んでしまっていたようだ。
目を覚ますとタオルケットが身体にかけられていて、後処理も終わっていた。
こんな事は初めてで、少しむずがゆく、それ以上に嬉しかった。
「…ありがと、ハル」
遙は背を向けてしまったため表情は伺えなかったが、照れているような気がした。
(なあ、ハル…俺たちって、なんなんだろうね)
確立された関係を並べれば、『幼馴染み』だとか、『親友』となるだろうか。
けれどそれは他者から見た二人で、当人達からすれば、どちらもそう呼べないような異常と言っていい行為を犯している。
けれど恋人とも呼べないと、真琴は思っている。
一度も告白も受けていないのに、と。
もう真琴は不安で不安で仕方なかった。だから、今日はすごく嬉しかったのだ。
まるで、本当に愛されているようで。
勘違いなどではなく、愛してもらえているのだと、思い込んでいいと言われている気がして。
「…ごめんねハル」
それは真琴の唇を動かしたが、明確な音として出る事はなく、遙がそれを聞く事は出来なかった。


七瀬遙は大概不器用で、無表情である。
いくら真琴が思っている事の大半を読んでくれるといっても、限界というものがあり、やはり口に出さなければ伝わらない事もたくさんあるのだ。
二人はやっぱり他人なのだから。
とっくに伝わっていると思っているのだ。
どれだけ真琴の事を愛しているのかという事くらい。
こうして少しずつ、ずれが生じている事にも気付かずに。
二人は今日も意味のない生殖行為のまねごとにいそしんでいる。

セックスは愛を確かめ、愛を育む為の行為だと、遙は今でも思っているから。


そんな二人の関係も、少しずつ変わっていくのだろう、例えば。


「…ァ、ッはる…ぅう…うぇ…ハル…」
行為の最中、真琴がぐずぐずと泣き出した。
半分飛んだような意識の中で、いろいろなものが溢れた結果だろう。
遙は大層狼狽えた。
大好きな真琴が、泣いている。それも遙との行為中に。
「真琴…っ真琴!どうした、まこ…」
「ハルちゃん、ハルぅ…ッあ…好き…俺、ハルちゃんが好き…っ、たとえ、ハルが俺の事、好きじゃっ、なくても、ずっと、好き、だよっ…いっしょにいたいよ…」
譫言のようにずっと、そんな事を言い続ける真琴に、気付いた。
思えば一度も真琴に想いを告げた事などなかった事に。
それで不安になってしまっているんだ、と。
「真琴、俺もお前が好きだ。一生、一緒だ。離さない。愛してる…真琴」
「…はるぅ…うんっ!おれも…」
こうして、誤解は溶け、ようやくお付き合いを始めた二人だが、他にもきっと、乗り越えていかなければならない事が、これからたくさん出てくるだろう、けれど。
そうやって、少しずつ進んでいけばいい。
だって二人は、一生一緒だから。




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