1127 06:31

それは、閉じ込められた記憶。
何一つ思い出せなくて。何故だろう。…何故だろう?


「うぎ…、ひぅ…いだ、いた、ぃい……っ…ッ!」
それは、閉じ込めた記憶。
俺は確かに、誰かに侵された。身体の奥底を暴かれて、喚いて、泣いて、啼いた。
とにかく酷い圧迫感が襲って、肉壁を掻き分けるように何かが、挿入などされる筈のない器官に押し込まれていた。慣れようとする間もなく引き抜かれるような勢いで男が腰を動かした。
こんなに客観的になれるのは、それを逐一実況されたからで、恥ずかしい事もたくさん言われたし、自尊心なんてものはズタボロにされた。
というのもあるし、自分がされたという気が全くしなくて、おかしいくらいに客観視している自分が居たからだ。
そして、いま。


俺は自ら男を求めている。


「ハル、おはよ」
この自分はそれを知らなくて、俺の中には2人の俺が居るみたいだ、と思う。
淫猥とさんざん言われた「肉便器」の姿はそこにはない。
ただの幼馴染みを想う、仲間を想う、海が怖い、高校二年生の「橘真琴」だ。
俺自身は、その「橘真琴」の記憶はほとんどない。
文字通り2つに分れてしまったんだろう。


「おじさん、おはよ」
遙に話しかけるように、親しげな調子で、けれどどこか甘えるようにすり寄りながら男に挨拶をする。
おはよう、と言っているが今は夜中だ。
土曜日の夜中、真琴は必ず家を抜け出している。
2時間ほどしたら戻ってくる為に、家族が気付いている節はない。
加えて、遙が家に泊まったりした際には逢瀬のようなそれ(決してそんな綺麗なものではないもの)は行われない為に、誰も気付く事はなかった。
橘真琴本人ですらも。
「真琴、おはよう」
にっこりと笑う男こそが、真琴を犯した張本人であるのに、真琴は嬉しそうに一層すり寄せた身体を男に押し付けた。
押し付けられた快感を享受するに至るまでに、時間はかからなかった。
痛くてたまらなかったままで終われば、こんな歪みも、生まれなかっただろう。
「おじさん…抱いて」
最終的には、真琴自身が求めていたから、2回、3回…とこんな関係が続いてしまった。
このときの自分は、酷く甘えん坊だと、相変わらず客観的に真琴は自分を見ている。
「ははっ、真琴は甘えん坊だなあ…いいよ、おいで」
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