0916 07:32

優しい嘘がつけなくて、でもそれでいいって君は言った。
それがいいって、そう言った。
「…ごめんね、俺…おれ、真ちゃんの事、凄く好きだったのに…」
そう言って泣いた高尾を、責められる筈がなかった。
気持ちは変わるものだから。
それにいいのだ、高尾と暮らした2年間は、とても満ち足りていて、沢山の物を貰ったのだから。
だから、これからは、誰かに何かを与えられるようになりたい。
そう、緑間は思った。
高尾の事は、まだ好きだ。けれど新しい道を切り開かなければいけないと、分かっていた。



「真ちゃん!こんなに荷物入らねえから!ナニこの珍妙なグッズの山!」
同じ大学を出て、お互い別々の会社へ就職した。
大学は実家から通っていたが、流石に社会人となるとそうはいかないだろう。
けれどいきなり一人暮らしと言うのもハードルが高い。
高尾と緑間の関係を知ってか知らずか、二人でルームシェアをすればいいのではないかと言う話になった。
それはいいと、トントン拍子に事は進み、今は引っ越し作業の最中だ。
緑間の実家と互いの会社の中間にある古くも新しくもない普通のアパート。
全てのもの(緑間のラッキーアイテムは入らないため実家に持ち帰らせた)が運び込まれ、ご近所さんに挨拶も終え、手伝いに来てくれた家族が帰ったところで、二人でようやく落ち着いてお茶をとった。
「なーなー真ちゃん」
「何なのだよ」
ニンマリと笑った高尾が取り出したのは、一枚の紙だった。
高尾和成と書いて判子が押してある。
その横は空欄だ。
「ーーーったか…!ん…」
理解した緑間の唇を高尾が奪う。
静かな時間が流れ、永遠に感じさせられる。
「…俺と、結婚してください、なんつって」
口調は軽いが目が本気だと語っていた。
本気だと分かると途端に怖くなる。
自分でいいのか。
高尾はどこの誰とでも仲良くやっていける。
自分なんて、ただ止まり木に選ばれたに過ぎないのでないのか、と。
「お、俺でいいのか…?わがままで、家事もできなくて…子供も産めない、こんな、俺で…」
「こんな真ちゃんだからいいんだ。この真ちゃんじゃなきゃ駄目なんだ」
若さだろうか。
今思い返すと何故あそこまできっぱりと言い切れたのか分からない。
…けれど、幸せだった。
ささやかな二人きりの結婚式をして、何度となく愛し合って。
その結末が、これなのか。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -