0916 0728
「やべーよ、ちょ、早く逃げようぜ!」
目を覚ましたら知らない男達がバタバタと走り去って行ったところで、緑間は働かない頭で何事かと思案する。
昨日は珍しく部活もなく、誰も居なくて、一人で下校していた筈だ。
「…う、んん…?」
手に残るぬめっとした感触が気持ち悪い。
これはなんだろう。
寒空の下、まともに衣服をまとっていないのも、思ってみればおかしな事だ。
断片的な記憶の中で、泣き叫ぶ自分と、卑しい男の笑い声が反響する。
身体中が、強いて言うならば下半身が、鈍い痛みを訴えている。
何が何だか分からないままに、また意識を飛ばした緑間の耳にやけに響いたのは…聞き覚えのある、笑い声。
それから先の記憶がないのは、何故だろう。
記憶に残っているのはそこまでで、目を覚ましたら見慣れた自分の部屋で、何故か赤司が居た。
伏せられた目元からは表情が窺い知れなくて。
「…あか、し…?どうしたのだよ、らしくないぞ」
不敵な笑みを浮かべて、強気な様は見る影も無い、とまでは行かずともやはり不思議で、純粋に違和感だった。
「…あ、ああ。何でもないよ、真太郎。今日は疲れたろ?俺、付いててやるから、ゆっくり休めよ」
「…?別に、ついていてもらう必要はないのだよ」
子供扱いするなと、笑ったけれど、どこかついていて欲しかった。
抹消した筈の記憶は、頭のどこかに残っていたのだ。
「…赤司…まだ、起きているか…?」
結局赤司が緑間の家に半ば強引に泊り込み、部屋の明かりを消したところで、突然の恐怖が緑間を襲う。
「起きているよ。どうした?」
その声はどこまでも優しくて、何故か涙が出そうになった。
「…こわいのだよ。…側に、いて欲しい」
そう言って赤司の方へ歩み寄り、布団の中に入った。
赤司は何も言わずに抱き締めてくれて、それに酷く安心して。
その時から、何かが変わったのだと思う。
恋をしているわけではない。けれど、時折泊まりにきては抱き合って眠るような日々が続く。
「…なんか、前にも増して一緒っスねー赤司っちと緑間っち」
「そーお?前と変わんなくない?」
周りから見たら、ほんの少しの変化で、単にお互いをよく知り、更に仲良くなっただけだろうと思われていた。
実際他のメンバーとの仲も、少しずつ深まって行っていた時期だった為に、気にする者はそう居なかった。
時折緑間は不安に駆られる。
…というより、言いようのない恐怖に怯えるのだ。
そんな時は、決まって赤司を呼び出した。
「っ赤司…。少し、側にいて欲しいのだよ…」
そんな緑間を、赤司は愛おしむように抱き寄せる。
そして後悔するのだ。自分の犯した罪を、深く、深く。
どうしても、欲しかった、清く美しい白い肌。
だが、あの時の赤司は、何を思ったか緑間を…。
「本当にいいんすか…こんなべっぴんさんの処女貰っちゃって」
「ああ、構わないよ。できるだけ酷くしてやってくれ」
ニコリと笑って、緑間のデータを渡した。
大切なものを壊すというのは、こんなにも楽しいのかと、最初は、そう思って疑わなかった。
それが、己をいつまでも悔恨の情に駆らせる、大きな過ちになるなど、考えもしなかったのだ。
「なあ、お前緑間か?」
「…そうだが、なんなのだよ、っ!?…う、」
男が緑間の腹を蹴り上げ、視界はブラックアウト。
赤司はそれすらも楽しく見つめていた。
狂っていた。