キミの翼を奪っても傍にと願う




※ジャッジとは既に顔馴染みになった後の話し




 あれ、あれ…?

 なにが、起きたんだろう?起きたんだろう?いえ今朝起きたばかりなんだけどってそのおきたじゃなくてってとにかく落ち着いて!!落ち着くのナマエ!!
 昨日の夕飯何を食べたっけ?ああそうだノボリさんが用意してくれたカルボナーラ凄く美味しかったなぁ、え、つまりノボリさんが私の食べ物になにか盛ったから今のこの事態になった…な訳ない!!あのノボリさんに限ってそんな事するなんて事絶対ない!だってキングオブお兄ちゃんですもの、お兄ちゃんがまさかそんな事する訳ないわけで、じゃあなんでこんな事になっているんだろう、考えて、かんがえ…いえいえでもまずは、まずはこれは夢じゃないの?今ここはクダリさんの隣の私の部屋な訳だけど、私は夢を見ているだけでこれは現実じゃないのかもしれない。ちょっと夢かどうか確認する為に壁に頭突きしてみようそうしよう!ああでもそれで壁に穴があいたらどうしようっ、ただでさえクダリさんにお世話になっている身なのに壁に穴をあけるだなんて所行ゆるされたものじゃない、私はもう切腹とかしてコイキングのひらきみたいにならなくちゃ罪深きすぎるし、あ、だめだ、そんな事本当にしようとでもしたらクダリさんあの綺麗な顔に涙いっぱい溜めて泣いちゃいそう、天使を泣かせるのだめ絶対!!そういえばなんでクダリさんって天使って言われてるんだろう、今度詳しく聞いてみようかなって本当落ち着こう私!!このパニック癖どうにか治そう!!

 ぐるぐるぐるぐる、思考回路が全く正常に働かない自分の意識を奮い立たせ。私は“コレ”が夢である事を確認する為にスゥっと深ぁく息を吸い込んで気合いをいれてから、おもいっっっきり壁にづつきをした!


 ごぉん!!!!!!


「ビィっっっ!!」


 痛い!!

 つ、つまり……ゆ、ゆめじゃ……ないっっ


 途方に暮れて、へにゃへにゃと地面に蹲ってしまった所で、今の壁が揺れる程のづつきの音を聞きつけて、クダリさんがパジャマ姿のまま扉を吹き飛ばす勢いで部屋に入って来た。


「ナマエ!今すっごい音がしたけどどうかし…………え」


 私の、姿を、見て………目をまんまるにして固まったクダリさん。

 言葉もない、という感じで…それはそうでしょう、だって…今の私の姿は・・・。
「ナマエ……?また、セレビィの姿に戻っちゃったの?!」


 はい…、私ナマエは……朝起きたらこの世界に来た時と同様のセレビィの姿に戻ってしまっていたのでありました。





***




 その後は、とりあえずクダリさんが着替えて、リビングのソファーに座って落ち着いた。

 クダリさんの膝の上に抱っこされて……セレビィの姿に逆戻りしてしまった私は、もうどうしたらいいのかと、どうしてこんな事態になってしまったんだろうと羽根をしゅん…とたれさせて落ち込んでいた。

 そんな私の体をクダリさんは両脇を優しく抱え上げて己の目の前に私のセレビィな体を持ち上げてうーん、とうなり声をあげた。


「なんでまたセレビィの姿に戻っちゃったんだろう?やっぱりナマエはセレビィなのかな?」
「びぃ!!」


 人間です!って言ってみてもそれは人間の言葉にならない。この伝わらなくてもどかしい感じもまた…久しぶりで、それが現実をつきつけられたみたいで落ち込む。


「だいじょうぶ、ボクナマエがセレビィなナマエでも、ナマエなセレビィでも、どんなナマエでも大好き!」
「セレビ…」


 いえどういう意味なんですかそれっ。つまりはどんな姿をしていてもクダリさんが私をポケモン扱いするという事は変わらないという事なのでしょうか…。

 そんな考えが顔に出ていたのか、クダリさんは何故か楽しげに笑うと思い切り私の体を抱きしめてその腕の中に閉じ込めてしまった。


「ナマエ大好きー!シビルドンやデンチュラやアーケオスっ、みんなみんなと同じぐらいすき!」
「セレビィ〜〜!(やっぱりポケモン扱いじゃないですか〜!)」
「ナマエ、セレビィの体のまんまだと小さくて可愛いね!」
「びぃーびぃーー!!(苦しいですーーー!!加減して抱きしめてくださいーー!!)」
「こっちの姿の方が、」


 抱きしめる力を緩めて、クダリさんは私と目を合わせると人差し指でちょこん、と私の鼻をつついた。


「捕まえておけそう」
「び?」


 どういう意味?そう、聞きたかったのに急に私の視界がぶれた。
 なにかに体を引き寄せられた!と思って慌てたけど状況を理解するとすぐにああ納得と落ち着いた。

 セレビィな私をクダリさんのシビルドンが奪い取って、楽しそうにはしゃいで……ばくん!と、あの大きな口の中に例の如く飲み込まれてしまった!


『びぃいいいいいいい?!』
「あはははっ、シビルドン!ナマエが久しぶりにセレビィの姿になったからはしゃいでるみたい!」


 こんなはしゃぎ方ってありますかーーー?!食べられてます!!私またシビルドンに食べられてますーーー!?

 これがシビルドンの愛情表現だというのならどんな歪んだ喜び方教えたんですかクダリさん!!と咎めたい!!

 じたばたじたばた暴れていると、ドン!と、シビルドンの体に振動が走った。もしかしたら何かにたいあたりされたのかもしれないけど、その衝撃のお陰で私はシビルドンの口内からはき出され、情けないながらべっしゃぁと頭から地面に突っ込んだ。

 そしてすかさず私の上になにかっっ!!重い物が乗っかってきた!!


 クダリさんのっっ、アーケオス〜〜〜!!!!!


「びぃいいいいびぃいいいい!!」
「クエッ」


 クエじゃないよ!!アナタはキョ○ちゃんかなにかですか?!なにその勝ち誇った顔?!今の私の体がアナタより小さいからってここぞとばかりに虐める事ないんじゃないかしら?!わあああああん!!悔しいぃいいい!!なにか!セレビィ的な技つかえないかな!!リーフストームとか葉っぱカッターとかそういう技お見舞いしたい!!


 まるで卵でも温めている体制で私を下敷きにしてわざとらしくくつろぎはじめたアーケオスっっ、その下でジタバタジタバタ!!暴れてもうんともすんともしない!!

 アーケオスは最大のライバルなんです、クダリさんにくっついてるといつも邪魔されるっっ!!人間にもどったら絶対にしかえししてやるんだからーーーー!!


「びぃびぃ!!」


 助けてくださいクダリさん!!って必死にセレビィ語?で鳴いてみたら、今の今まで微笑ましいねと笑っていたクダリさんは、その鳴き声をくみ取ってくれたらしく「ああ、うん任せて!」って己の手と手をぽんってあわせて私の目の前に歩み寄ってしゃがみ込んできて……。


 下敷きになっている私の頭の上に、バチュルを置いた。


「ばちゅ?」
「せれびぃいいいい!!」「可愛い−!バチュルとナマエとアーケオスのコンビすっごく可愛い!」

「しびるるるっっ」


 更にややこしい事に、シビルドンまでもが地面にべたん!と寝転がって私にすりすりとすり寄ってきた。いたたたたたいたいの!!ぐりぐりほっぺが変形するっっシビルドン力加減できてないっっっ


「ふふふっっ、みんな可愛い!ボクメロメロ状態!効果ばつぐん!」


 クダリさんの馬鹿ぁああああああ!!!!

 振り落とそうと頭をぶんぶん振る私の頭に落とされまいと必死にしがみつくバチュルが可愛さ余って憎さひゃくばい…!!

 アーケオスは重いし、バチュルも地味に爪をたててきて痛いし、シビルドンは頬ずりをやめてくれないし、クダリさんはなんでか暢気に写真撮影とか始めてしまったりで。

 もうっっっ完全に私の心はやさぐれた!!もう信じない!!私がセレビィにまたなっちゃって大変って時に味方はだれもいないんだーーーー!!
 と、そこに。

 コンコンッと、ノック音が飛び込んできた。そして、返事をまたずに開けられるリビングの扉。玄関側の扉から入ってきた黒いコートの人物は…。


「クダリ、ナマエ様がまたセレビィになってしまったと聞いたのですが−−−
………なにをしているのですか、アナタ達」


 ノボリさんーーーーー!!

 天の助けとばかりに、ドア付近で固まるノボリさんにみんなにもみくちゃにされた状態のままで助けてくださいーと手足をばたつかせた。


「ノボリ?なんでここにいるの?」
「先程ナマエ様からライブキャスターのメール機能にてセレビィの姿になってしまったので助けてはもらえないかとご連絡頂きましたので。」
「えー……なんでノボリ頼ったのナマエ?」

「ビィ!!」


 この状況でアナタがそれを言いますか?!助けてくれるどころが楽しんでいるアナタが!!

 そう、ノボリさんには起床して姿がセレビィになっていると認識してすぐにセレビィの体ながら頑張ってメールしていた。元に戻る知恵とか貸してくれそうだなってっっ。こんなに早く来てくれるなんて感激して泣いてしまいそう…!!


 クダリさんは自分を頼ってくれなかった事が不満らしく、ノボリさんの来訪を快く思っていないという事をふてくされオーラ全開にして表現していたけれど、ノボリさんはそれに気づいていてもあえて気づかない風を装って、颯爽とした足取りで私に近づくと埋もれた状態になってしまっている私の体を「失礼」と告げつつ、掴んで引っ張り上げてくれた。その衝撃で私にまとわりついていたポケモン達がころんっとフローリングの床に転がった。


「どうやら本当にセレビィになってしまったようですね。ナマエ様ご無事ですか?」
「びぃい…!!」


 お兄ちゃん…!!

 もうっもう大好きです…!やさぐれていた私の心を癒すにはノボリさんの常識的な行動と、紳士的な優しさが身にしみる…!!

 嬉しくて、抱きついたい衝動にかられて、手をノボリさんへと伸ばして服の襟元をぎゅっと掴むと、ノボリさんは驚いた様に目を見開いてから、やれやれと私の背を撫でてくれた。


「随分とお疲れのようですね、元の姿に戻るまでの間わたくしの家へ参りますか?」
「ちょっっ?!なに言ってるのノボリ!ナマエはボクと暮らしてる!だめだよ!」
「このような状況なのに遊んでいたアナタには任せれるとは到底思えないのですが」
「遊んでない!可愛くてはしゃいでただけ!」
「それを遊んでいると言うのです!」
「遊んでないってば!!」


 大声を上げて大の大人二人が私を挟んで言い合いをしている。

 うぅ……っっ、でも、クダリさん……絶対この姿になって喜んでる…。

 元の姿に戻るまでノボリさんの家にお邪魔した方がいいのかなぁ?


 遠のく意識の中でそんな事を考えていると、またまた玄関から何者かがバタバタバタ!!と駆け込んできて、勢いをそのままに、私の前に姿を現した。


「ナマエ…!セレビィになったって本当なの……って、ナマエ?ナマエなの??」
「ビィ?!」


 カミツレ!?

 な、なんでここにカミツレが?!

 カミツレは慌てて走ってきたのか、息を切らせつつも私の姿をその目に映すなりキラキラと新しいおもちゃを見つけた子供のように輝かせて、でんこうせっかの早さでノボリさんの手から私を奪い取るとぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。


「クラクラしちゃうっっ!本当にセレビィになれちゃうのねナマエっっ
ビリビリ電流走りそうなほど魅力的っっ」
「びぃ〜〜〜?!」

「カミツレちゃん!!!!ナマエに近寄らないでって言った!!」

「クダリ君の言葉なんて聞こえないわ。
今ならモンスターボール使ったらゲット出来ないかしら?フフッッ」

「カミツレちゃん!!」


 ああ…今度はカミツレとクダリさんが言い合いをはじめてしまった。

 でもなんでカミツレがここにいるんだろう…そんな事を考えていたら、また…またまたまた来訪者が一人、リビングに控えめに入って来た。


「お邪魔しますクダリさん」

「えっっジャッジ?!なんで?!」


 ジャッジさん!?

 ええええええ?!なんでこんなに勢揃いしているの?!

 クダリさんの驚きの声とは真逆に、ジャッジさんは苦笑いを浮かべつつも冷静に事の詳細を伝えてきた。


「僕とカミツレさんのライブキャスターにナマエさんからメールが来ていたので。
…内容からして、ノボリさんに送ったメールが僕とカミツレさんにも届いてしまったようで。この状況を知りました。」


 つまり…、とノボリさんがため息混じりに私へ視線をおくった。


「…慌てすぎて、わたくしへのメールを一斉送信しましたね、ナマエ様?」
「せ、れび?」


 あ…あのメール、一斉送信しちゃってたんだ…!!じゃあこの二人も私がセレビィになった事をしってここに来たの?


 もう状況が混乱しすぎていてついていけなくなってきたのに、さらにはジャッジさんまで私に詰め寄ってきて、カミツレの腕の中で抱きしめられている私を唸りながら観察してくる。


「なるほど…、流石は伝説のポケモンセレビィ。ジャッジのしがいがありそうですね。
カミツレさん、ちょっとナマエさんを僕にも抱っこさせてください」
「嫌よ、ナマエは私が連れて帰るんだから」
「やめてくださいましカミツレ様、ナマエ様の意志を無視しての行動は控えてくださいまし」
「ならナマエが頷けばいいのよね、ナマエ、私の所で元の姿に戻る方法探しましょう?」
「いえ、戻る前に僕にジャッジをさせてください」
「ジャッジさん、今はそれどころではないでしょう」
「フフフ…!この刺激的な状況を詳しく知りたいわ」
「ジャッジします、ナマエさんの個体値は…」

「ちょっと……みんな………?」


 クダリさんの地を這うようなひくーい声によってピタリ、動きを止めた。


「ここ……ボクの家。
それに、ナマエはボクのなんだけど…?」


 場の収集がつかないほどに騒がしかったこの場が、ひやり…冷えたと思って、私達四人はギギギッと壊れた人形のようにクダリさんへと視線を向けると…そこには満面の笑顔で微笑んで、シャンデラを控えたクダリさんがいました。

 私達へ、指さし確認、準備オッケー。


「シャンデラ、ナマエ以外の三人にサイコキネシス!!」
「でらっしゃんっっ!!」

「「「わあーーーーーっっ?!」」」


 ぐわぁんっっと空間が揺れて、三人の体が浮いた…と思ったらサイコキネシスの効力でみんなの体は玄関へ、いえ…玄関を通り過ぎてその外へと吹き飛ばされて行ってしまった。

 …しかも、シャンデラはその役目を終えると「しゃんしゃんっっ♪」と嬉しそうに鳴きながらカミツレを追いかけて外へ………ぱたん、と閉じられた玄関の扉の外でカミツレの叫び声が聞こえたのは言うまでもない。


「ナマエ…」


 名前を、クダリさんに呼ばれたと理解するよりも早く、私はクダリさんに抱え上げられて、そのままクダリさんの部屋へ連れて行かれてしまった。

 何が起きたのかと目を白黒させて私達二人の歩みを見送ったクダリさんのポケモン達の姿が、リビングとクダリさんの部屋の扉に遮られて消えた。


 クダリさんは私をベットの上に置くと、昼間なのにも関わらず何故か光差し込むカーテンを引いてしめてしまった。薄暗くなった部屋の中で、私の隣にクダリさんが腰掛けた。

 ぎしり、音をたてて鳴ったベットがなんだか不気味。


「ナマエは…ノボリと暮らしたかったの?さっきノボリがそんな話しした時、嬉しそうだった…」


 薄暗くて、表情がはっきりとは伺えなかったけど、切なそうに…寂しそうに、言葉を紡ぐクダリさんはまっすぐに私を、私だけを見つめてくる。


「ナマエは、ボクのでしょ…?ねえ、ボクが嫌っていうまで絶対傍離れないって言ってくれたよね、あれ…嘘なの?」
「びぃびぃっっ」
「ボクの事、嫌いになっちゃった?いらなくなった?」
「びぃ!」
「あは………ごめん、なにいってるのか、分からない。
言葉通じないのって……さびしいね」


 クダリさんはベットの隣にある棚の引き出しからモンスターボールを取り出すと、それを手の中で転がして、それを握りしめたまま私へ顔を近づけた。


「ボク、寂しいの嫌い。一人、嫌い。
そんな思いするぐらいなら、絶対的に繋ぎ止めて安心したい」


 そんな、泣きそうな顔で言う台詞じゃないと思う。

 この人の、ここまでの…己のポケモンへの独占欲はなんなんだろう?


 そう…ポケモンへの、筈。私へのじゃないと思うけど…それは今の私には計れない感情。


 でも、私の感情も大概だ。

 クダリさんのこんな、弱々しい姿みたら…放っておけなくなるし。さっきまで頭に血が上っていた自分に深く反省までしてしまっている。

 クダリさんがこの姿になってはしゃぐのは目に見えていた事。はしゃいでいたのは確かだけど、見捨てられた訳じゃないじゃない。クダリさんはクダリさんなりの方法で元気づけようとしてくれていたのかもしれないのに。

 少しでも、ノボリさんの所へ行こうかななんて思ってしまった私は…クダリさんにとやかく言われても仕方ない。嘘つきなのって疑われても仕方ない。


 どう、伝えよう。

 言葉が伝えられないのがこんなにももどかしくて辛いなんて。

 今、目の前で今にも泣き出しそうになっている弱い彼に言葉を返したいのに出来ないなんて。


 彼はずっと「大好き」ってあたたかいものをくれていたのに。


 どう、伝えればいいのか。考えたけど単純な答えしか浮かばなくて、私は背に栄えた違和感の塊の羽根を動かして宙へ浮いた。

 とんだ私を見てクダリさんがビクリと怯えた。


「ナマエ…?どこ行こうとしてるの?行っちゃやだっ」
「び」


 ついには瞳に涙をためて、私を行かせまいと伸ばしてきた手をかわして、

 私はクダリさんのおでこにチュッと軽くキスした。

 クダリさんが、いつも「おはよう」の挨拶をしてくれているそれだ。


 クダリさんは間の抜けた顔で額を押さえて、なんなのかと固まっていて。私はその隙をついてクダリさんの首もとにこの短い腕を回して抱きついた。


 どこにも行かないですよって、
 私が一番に大好きなのはアナタですよって。

 大好き、って。


 慈愛を込めて、感謝を込めて、信頼を込めて抱きついた。


 届くかな、言葉は通じなくても…心は届くかな?


 ぎゅうってしがみつくみたいに抱きついて、離れようとしない私の姿に。クダリさんは手に持っていたモンスターボールを床に投げ捨てて、嬉しそうに…安堵の笑みを浮かべて私を抱きしめ返してきた。


「…ごめんねナマエ、突然で驚いたよね、それなのにボク…頼りなくてごめんね」
「びぃびぃ」
「ナマエの為ならボク、頑張るから。
だからお願い……頼るならボクを一番最初に頼って。
でないと、寂しくて………捕まえちゃいたくなる」


 ぽすん、って。私を抱きしめたままでクダリさんはベットに横になって息を吐いた。

 頼って欲しいと願う彼はなんだか大きな子供みたいねって思ってしまった。

 クダリさんのいう頼って欲しいは、必要とされたい証拠で。他の誰かを頼った私に嫌だ嫌だと首を振るのは弱さで。

 でもそんな弱さをさらけ出せる真っ白な彼が…私は好き。


「−−−−頼りなくなんか、ないですよ」
「!」
「私が、いつでも…一番に頼っちゃってるの、クダリさんですもん。
申し訳なくなるぐらい…私はクダリさんに依存しちゃってます……。」
「え…ナマエ?」


 あれ、こえ…だせた?

 ふと、顔をあげると間近でクダリさんと目があった。

 先ほどまでクダリさんの首に触れて抱きついているだけだったセレビィの小さな腕は、元の人間のサイズに戻っていて、しっかりとクダリさんの首に腕をまわしていて…。


「ひゃあ?!ご、ごごごごごごめんなさいーーー?!」


 人間の姿でっっ、しかもベッドの上で寝転がって抱き合っているなんて恥ずかしすぎる!!


 顔がゆだってしまって、挙動不審になりながら離れようとしたのに、クダリさんに力いっぱい抱き寄せられてそれを遮られてしまった。


「だーめ!もうすこしこのまま」
「いっ、えっっ、でっっっ、でもっっっ!?」
「ほんとだからね」
「え…?」


 なにがですか…?って、真っ赤な顔のまま、避けられぬ至近距離で彼を見上げると、クダリさんは私の額におでこをすり寄せてきて、目元を緩めて微笑んだ。


「ナマエがセレビィなナマエでも、ナマエなセレビィでも、どんなナマエでも大好き」


 だから、と。

 私がさっき、クダリさんにしたみたいに額に唇を寄せられて、彼は呟いた。


「ずっと、ボクだけのナマエでいてね」








キミの翼を奪っても傍にと願う
(でもなんでセレビィにまたなっちゃったんだろうね。もしかしたら定期的になっちゃったりするのかな?)
(く、クダリさん…!その話は後ででいいので今はもう離して頂けませんか?!恥ずかしくてもっ)
(だーめ、ナマエに頼って貰える為に頑張ってる最中だからしばらくこのまま!)
(勘弁してくださいーーー!!)




2012/06/27







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