▽泥棒vs防犯デンチュラ(7/9〜8/21)



※泥棒だめ!絶対!な、ギャグ話。




 ぬかった…!

 まさか忍び込んだ家にデンチュラという名の警備が仕掛けられているなんて…!!


 ライモンシティで一番高そうなマンションの最上階に目星をつけて、そんな良い場所に住んでいるならさぞかし高そうなあれこれあるだろうと思い、お得意のピッキングで鍵をこじ開けて、防犯システムがない事を電磁波レーダーで抜け目なく確認してからこの一室に忍び込んだというのに…!まさかデンチュラが防犯要因として潜んでいるなんて考えてもいなかった!!

 この部屋に入って、部屋を物色しようと一人ほくそ笑んだところを、背後から飛びかかってきたデンチュラに“糸を吐く”でぐるぐる巻きにされてしまい、リビングの床に倒れ込んで今に至る。

 デンチュラは、不気味にも口元を擦り合わせてぎちぎちと音を鳴らして、突っ伏したままで悔しげに歯を食いしばっている泥棒である私を見下している。


 なんとか…っ、この家の家主が帰ってくる前にこの糸を解いて逃げられないか…!!


 悪あがきとまでに、その場で体をよじって糸をぶち切ろうと暴れた私へ、デンチュラが一声鳴いてからバチッと電撃を発してまるで私におとなしくしろと言うように威嚇してくる。


「くあっっ!?こ、のっっ」


 微弱な電流であったけれど、あたれば当然痛い。ギッと睨み付けた所でデンチュラの威嚇丸出しの目でにらみ返されて逆に怯む。

 く…!このデンチュラをまいてなんとか逃げないと家主が帰ってきたら捕まってしま−−−




「ただいまデンチュラ−!お留守番ありがと…」


「!!!!!」


 帰って、きたっっ


 このロビーにこの家の主である男が入ってきた。

 全身真っ白な衣装を身にまとって、満面の笑みで帰宅した男はいるはずのない私の姿(しかも糸でぐるぐる巻きの状態)を見るなり動きをぴたりと止めて、うーんと首をかしげた。


「デンチュラ、もしかして…また??」
「チュルル…」


 ん?

 また、って何?ここは何度も空き巣に入られているというの?

 自慢じゃないが、私ほどの腕前がなくてはこのマンションに忍び込むのは難しいという程のセキュリティの高さだった。そこに何度も人が忍び込めたりするのだろうか…?


 家主である白の男は私の目の前にしゃがみ混むと、笑顔を浮かべたままで…まるでいたずらをした子供に言い聞かせるような声色で話しかけてきた。

「あのね、ボク恋人とかいない。夕飯とかも作ってもらわなくてもいい」
「・・・はい?」
「あと、盗聴器とかつけてもだめだよ。ボクのデンチュラはそういう機会の電磁波すぐに感じて取ってくれるから」
「え、いや、は?」
「ノボリの私物とかもないからね、よく居るんだ。ノボリの家に忍び込むのは怖いからボクの家にノボリの物ないか探しにきて取ってく悪い人」
「え…いや、だからさっきからなんの話を…?」


 え?

 と、きょとん顔で目を瞬かせて男は的外れな事を言い放った。


「君って、新手のストーカーさんじゃないの?」
「ストーカーーー?!?!?!」
「最近多くて困っちゃうんだよね!」


 効果音でいうならプンプンといった風に腕を組んでほおを膨らませるこの男。

 おいおいおいおいおい!!この人は普段どんな生活を送っているというんだ?!ストーカー被害に遭いまくっているとさらりと暴露しましたけど?!
 だからか…!このデンチュラの妙になれた泥棒を捕らえる行動はっっ、普段からこういうのばっかりだから捕まえるの慣れちゃってたってパターンなのか!?
 確かにこの人顔はいいし…身長も高いしでモテそうだけど。一生に一度遭うか遭わないかの家に侵入レベルのストーカー被害になれているってどんだけ?!


「ちっっっっがーーーーーう!!私はそんな変態じゃない!!泥棒よ!!普通の泥棒!!」
「えー?泥棒??みんなそう言うんだよね…、ほら、ストーカーよりも未遂の泥棒の方が罪が軽くなるから」
「泥棒だって言ったら泥棒なのよ!!私貴男の顔も名前も知らないし!!アンタの物にも興味ないし知らないし!!」
「ボククダリ、サブウェイマスターしてる」
「あ、ご丁寧にどうも。私は日々お金持っていそうな家限定で空き巣している……って呑気に自己紹介とか余裕か!!」


 ふざけるな!と叫ぶと、なぜか相手は「おっもしろーい」とケタケタと笑い出した。

 って、サブウェイマスター?この人が?噂ぐらいなら聞いた事があるけど、地下鉄になんて滅多にのらないし、ポケモンはいるけどバトルもあまりしないから顔までは知らなかった。ああそういえば女の子達がどうこう話しているのはきいた事がある。そりゃモテるでしょうに。そんな人の家に忍び込んでしまった自分の運のなさを呪う…!!


「君が本当に空き巣だっていうんなら、ポケモンつかって侵入すればよかったのに。
そしたらこんなに簡単にデンチュラに捕まらなかったかもよ?」
「はあ?アンタ何馬鹿な事言ってんのよ。私の!可愛い!!ポケモンに悪事なんて働かせる訳ないでしょ!!」
「・・・君って悪人なの?それとも変わり者??」
「ポケモン大好きクラブの会員とだけ言っておくわ」


 なにそれ、とクダリとかいう男はお腹を抱えて愉快だとばかりに笑う。

 なんでここまで余裕なのよ…!!仮に私がストーカーだろうが、泥棒であろうが、もっと緊張感を持つ所なんじゃないの…!?どれだけ自宅に不法侵入者を招いてしまう不可解な状況になれてしまっているのだかっっ


 でもっ、その隙だらけの今の状況ならなんとか逃げ出せる!!


「どっっけぇえええええ!!」
「げほっ?!」


 床を両足で思い切り蹴って反動でジャンプして飛び上がって、クダリの腹目がけて頭から突っ込んだ、いわゆる頭突きという奴だ。

 見事効果はばつぐんに命中し、クダリがげほげほとむせている隙にもう恥なんかも投げ捨てて床をごろごろと転がって逃げようと玄関に向かった。


 この家からでたらっっ、すぐに私のポケモンをだしてこのしばられている糸を切ってもらえ、


「う、あ!?」
「ギチギチギチ」


 あと少しで外!という所で、またしてもデンチュラが糸を吐き出して私を捕まえ、また室内へとずるずると引き戻した。

 こっっっっのっっっ!!あと少しだったのに!!


 そうこうしている間にクダリは自分のお腹をさすりながらヘラヘラと笑いながら私の目の前にしゃがみ込んでデンチュラの頭を撫でた。


「あービックリした!キミって見かけによらずやんちゃなんだね」
「あんたのデンチュラも見かけによらず随分とご主人様思いの良い子だことでっっっ」
「ボクのデンチュラはすっごく良い子ですっごく可愛い子だからね」
「その良い子が糸でぐるぐる巻きにする悪趣味とか決して可愛いとは思えないけどね!!」
「わかった、今からすっごい警察呼ぶ」
「あ、ごめんなさい。デンチュラちゃんもの凄く猛烈に激烈に過激に熱情的に可愛いです本当すみません!!だからライブキャスターで警察呼ぼうとするの止めてぇえええ!!」


 というかすっごい警察ってなに?!普通じゃないのか、すっごいのか、なんかもうむっきむきとかそういう系のすっごいなのかなんなのか怖すぎて聞けない。


「ねぇ、なんで空き巣になんて入ってるの?なんでポケモン使わないの?なんでお金持ちっぽいとこばっかり狙うの?キミの名前なんていうの?」
「そんないっぺんに聞かれても答えられないわっっ」
「すっごい警察…」
「いえ実はですね、お金持ちにあまりいい想い出を持ち合わせていないので、全部金目のものは寄こせとは言いませんので、少々必要な分だけちょろこまかしてそれをうちの経済費にあてたいとか考えておりまして。でもそれが良いことではない事は従順承知しておりますので、こういった行為に及んでいる時は大切な家族であるポケモンは巻き込みたくないと思っているので絶対に荷担はさせないようにしてるんですはい。あと名前は本当警察にバレたら一環の終わりなので勘弁してください誠に申し訳ないですみません」
「あっは、答えてくれてありがとー!」


 にっこり満面の笑みで笑い、クダリはデンチュラへ目配せをした。


「この子本当にただの空き巣だった?何も危害とか加えられてない?」
「チュルル…」
「そっか。じゃあ…」


 ブチッ


 クダリがデンチュラに合図した途端、私を捕まえていた糸が一瞬で音を立てて切れてしまい、私の拘束を解いた。


「え……」
「今日は逃がしてあげる、もう空き巣しちゃ駄目だよ。」
「な、なんでそんなあっさり」
「デンチュラが、逃がして良いって言ったから」


 クダリはデンチュラへと優しげな眼差しを向けて優しい手つきで何度もその頭を撫でた。デンチュラは、気持ちよさそうにそれに身をゆだねて目を細めている。


「ボクのデンチュラが言うんだから間違いない。ボクデンチュラの言う事信じる」
「そ、そんな理由で犯罪者逃がしていいのっっ」
「あとは、ほら。キミの腰のベルトのモンスターボール達、さっきからずっとカタカタ揺れて出せって言ってるよ。
キミのピンチに力になりたいみたい。ポケモンに好かれている人間に悪い人、いない」


 言われて初めて気づく。

 私のポケモン達……この仕事してる時は絶対に出てきちゃいけないって言ってたのに、出せ出せって言ってる。私を、助けたいって言ってくれてるんだ…。


「ぅ……っ、み、見逃してくれるならもうここには来ないわよ!!むしろこっちから願い下げだわ!!」


 こんな強固なセキュリティーデンチュラがいる所なんて間違っても二度と来ない!!


 ならもう用はないと身を翻して逃げようとしたのに、クダリに腕を引かれて動きを止められた。


「まって、名前。まだ聞いてない」
「それだけは言わないって言ったわ!!」
「最近ね、バトルサブウェイの挑戦者達もおもしろい人あんまりいない。でもキミ面白い、だから話しもっと聞きたい。その為には名前知っておかないと話しにくいでしょ」
「私はもう話す事なんてないわ!!」
「デンチュラ…、秘密国際警察のハンサムさん呼んじゃって」
「ギチギチギチ」
「こそ泥ごときに国際警察呼ぼうとするなああああああ!!」


 さっきとは違ってもう拘束は解かれている!!

 バッと私の腕を掴むクダリの腕を振り払い、玄関とは真逆のベランダへと駆け出し、迷うことなくそこから飛び降りた。


「え、ちょっっ?!ここ最上階っっっ」


 なにしてるの?!なんて声を完全無視して、風を体全身で受け地面へと落下する最中に、モンスターボールからピジョンを呼び出す。そして私の肩を掴んでもらって空高く飛び去った。

 振り返るとポカンと口を開けて、まぬけな顔で私を見送るしかないクダリの姿。

 そんなクダリに不敵に口元を歪め、笑みを浮かべて手を振ってやった。


 片手に、彼の財布を握りしめた状況を見せつけて。


「さようならサブウェイマスターさん、見逃してくれてありがとう。
あと、自分のお財布はちゃんと常備していないと無くしちゃいますよ?」


 ピジョンに加速!と命令して、私は夜の街へと飛び立ち姿をくらました。





「うーん、…デンチュラ
彼女って怪盗だったのかな?」
「チュララララ…」


 ベランダに頬杖をついて楽しい楽しいと笑って、飛び去った女泥棒を見送ったクダリ。

 その手からは、透明な銀の糸が夜の街目指して一直線に伸びていた。






泥棒vs防犯デンチュラ

(あ、いたいた。昨夜はちゃんと帰れたの?ここ“昼間の”職場??)
(?!?!?、な、なんでここに?!)
(デンチュラがキミのあとを追跡出来るようにってキミに糸つけてた。ほら、首の後ろにキラキラの糸ついてる。発信器、みたいな?)
(な、なんっっ?!)
(はい、じゃあ昨日ボクから借りたお金返して?)
(〜〜〜〜〜〜!!!!)
(でないと今すぐすっごい警察呼んじゃう)
(返すわよ!!だからもう二度とここに来ないでよ!!)
(うん!まず名前教えて!昼休み何時から?おちゃしよー)
(人の話聞けぇえええええええええ!!)



クダリ に きにいられちゃったね。
クダリ は けいさつ よりも ずっと こわいよ。

クモ の ぼく と おなじで

ねらった えもの は ぜったい にがさない からね。









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