▲ オノノクスな車掌さん(6/7〜7/6)




 昼下がり、ギアステーション近くのとある公園にて。

 私の可愛いキバゴを公園の噴水で水浴びをさせてあげていた。ぱしゃぱしゃと体を転がして、手足を楽しげにばたつかせて水と戯れる姿は癒し以外の何者でもない。

 ああもう可愛い…!!

 私は目尻なんてもう下げちゃって、親ばかよろしくキバゴちゃんが噴水で遊んでいる姿をめろめろと眺めていた。


 と、そこへ。

 こののどかな昼下がりの公園には似つかわしくない黒いコートを纏った一人の人物が己のオノノクスを連れて現れた。

 この半袖で丁度良いという気温の中で…あの隙なく綺麗に着こなされたスーツは暑くないのでしょうか?


「こんにちはノボリさん!」


 私の挨拶に気づいたノボリさんは、律儀に私なんかに一礼して歩み寄ってきた。


「またお会いしましたね」
「ここは私とキバゴちゃんのお散歩コースなので、特に暑い日はこうしてキバゴちゃんは噴水で遊ぶのが大好きで」
「左様でしたか、
ご迷惑でなければ、わたくしのオノノクスも貴女様のキバゴとご一緒に遊んでも?」


 勿論です、と答えるよりも早く。

 ノボリさんのオノノクスに気づいたキバゴちゃんは目をキラキラっと輝かせてぴょぉんっとオノノクスのお腹に飛びついた。

 キバキバ!と嬉しそうに鳴いて、オノノクスのお腹に頬をすりすり。それを見下ろすオノノクスはなんだか落ち着いていて、小さくクルルと喉を鳴らした。
 まるで妹に世話を焼いているお兄さんみたいだ。


「ふふ、私のキバゴちゃんは本当にノボリさんのオノノクスが大好きみたいで。懐いちゃってごめんなさい」
「とんでもございません、わたくしのオノノクスもキバゴと遊ぶのを楽しみにしているようでして。こうして連れてきたのもオノノクスにねだられたからなのでございます」
「そうなんですか、お互いのポケモン同士が仲が良いっていうのは微笑ましい光景ですよね」
「そうですね」


 くすくすと、お互い笑いあって遊んでいるキバゴちゃんとオノノクスを見守りつつ、私とノボリさんは公園のベンチに腰掛けて二匹を暖かい視線で見守る体制になった。

 キバゴちゃんがオノノクスにおんぶをせがんだり、かと思ったら頭の上に飛びのったり、オノノクスのしっぽにじゃれついたりと、とにかくめまぐるしく動き回っている。随時キバキバと楽しげに鳴いているキバゴちゃんを、オノノクスはどっしりと構えてかまってくれているからとても助かる。


「キバゴちゃん楽しそう、うちのキバゴちゃん結構活発なのでこうして飽きずに構ってくれるオノノクスにはいつも感謝してます」
「いえ、わたくしのオノノクスも普段は地下でバトル三昧ですので、キバゴのような存在はあの子にとって癒しとなっているようです」
「ふふ、そうだといいなぁ」


 ふと、ノボリさんの顔を見上げるとオノノクスへ向けている優しげな瞳を見上げる事となった。慈愛に溢れた瞳。

 ノボリさんは普段は地下のバトルサブウェイでお仕事をされているけど、たまにこうして地上へ、この公園へ姿を現す。
 オノノクスの散歩だと言って出会ったのが始まりで、お会いする度にお互いのポケモン同士で遊ばせてあげる仲になった。


(こうしてのんびりしている時間も好きだけど、ノボリさんがバトルしている姿も見てみたいな…)


「ときに、貴女様はバトルサブウェイにご乗車される予定はないのですか?」
「え、はい?!」
「わたくし、一度貴女様とお手合わせがしてみたいと常々思っていたのですが」
「ば、バトルですか!?」


 今まさに考えていた事を言われてしまって、心の中を見抜かれたんじゃないかというほど驚いて目を白黒させてしまった。


「そ、うですね。今度乗車してみようかな」
「それはそれは!お待ちしております、その時は是非オノノクスと戦ってくださいませ」
「あはは、でも私なんかでノボリさんの所へたどり着けるかどうか分かりませんが」


 なんてふざけた感じで笑って流そうとしたら、ふいにベンチに置いていた自分の手にノボリさんの手が重ねられてドキリと心臓が跳ねた。
 振り向けば、真剣な…ノボリさんの眼差しが私をまっすぐに捕らえていた。


「辿り着いてくださいませ。
敗退したとしても、何度も、何度でも挑戦してわたくしの元へおいで下さいませ。
光の下にいる貴女様だけでなく、地下の…わたくしの領域で貴女様にお会いしとうございます」


 −地下の方がわたくし、貴女様に近づける気が致しますので。


 そんな事言われて心穏やかにいられる人間がいるなら是非教えてもらいたい。心臓なんてもうばくばくで、私は馬鹿みたいに顔を真っ赤にしてノボリさんから視線を反らせない。

 い、いやいや…!これはきっとサブウェイマスターさんとしての営業、そう営業ですよね!サブウェイへお越し下さいという営業ですよね、うんっ。

 意識しちゃ、いけない。


「こ、今度キバゴちゃんと一緒に挑戦しますね!」


 慌てて言葉を取り繕って、重ねられた手を引いて立ち上がる。

 一歩、二歩と後退して離れるとノボリさんは言葉もなく、ただ切なげに目を細めた。


「キバゴちゃんー!オノノクスと遊んでいる所悪いけど帰るよー!ノボリさんとオノノクスもこれからまた地下でバトルあるだろうし迷惑かけちゃ駄目!」
「きばー!」


 キバゴちゃんは物足りない感じではあったけど、私からの声に反応してこちらへと駆けてきた。

 けど。


「グルル」
「きば?」

「え?!」


 すぐにオノノクスに捕まったキバゴちゃん。

 オノノクスは体制を地面に限りなく近づけてかがむと、己の顔についている斧のような飾りで器用にキバゴちゃんをすくい上げると、己の頭上へとキバゴちゃんを乗せてしまった。キバゴちゃんは頭の上でキョトンとした顔をして驚いている。


「え、あ、あのオノノクス?キバゴちゃんを返して…」
「わたくしとオノノクスは大変似た面がございまして」


 ぽん、と。後ろからノボリさんに肩を叩かれた。
 振り向けば、不敵な笑みを浮かべたノボリさん。ゆらり、細められた瞳は私のみを見つめている。

 何か訴えているかのような視線、企んでいるような瞳、そんなのに見つめられたら金縛りにあったかのように動けなくなる。


「に、似た面というの…は?」
「オノノクスはまだ、キバゴと遊び足りないようでございます。」
「え、あ…そうなんですね。だからキバゴちゃんを帰さないようにと」
「ええ、そしてわたくしもまだ足りません」
「え…?」
「貴女様が足りませんと…言ったのです」


 ノボリさんは、さっきのオノノクスのように身をかがめると私の太ももと、腰に手を添えて何を思ったのかそのまま抱え上げた。抵抗の余地もなく、これは…

 お姫様抱っこ、という体制だ。


「ひえ!?の、の、ノボリさん?!何をして?!」
「ご案内して差し上げたく思いまして」
「どこへですか!?」
「日の光も届かぬ、地中深くへ…
光の下での逢瀬も素敵ですが、やはりわたくしが“らしく”いられるのは地下でございますので」


 わざとなのか、事故なのか、私を落とさないようにと体をノボリさんへと引き寄せられた時に彼の吐息が耳に吹き掛かってしまって驚いたチョロネコの様にビクゥっと体を固くしてしまった。

 ああ…絶対わざとだ。ノボリさん笑ったもん…!!


「地下へ、ご案内致します。
そこで、わたくしのお気持ちをお話致しましょう」
「え、き、気持ち??」
「ご存じですか?
何故わたくしがわざわざ勤務の合間を縫ってこの場へ現れるのか、
貴女様との唯一の共通のオノノクスに情けないながら頼っているか、

貴女様と共にいる時のわたくしの鼓動の早さを…ご存じですか?」



 知らないよ…!知らないよそんなの…!!

 待って下さいノボリさんっ、わ、わたし全然心の準備出来てないんですっっ

 

 答えは言わないで、期待させないで、好意以上の感情を生みださせないで
 私はキバゴちゃんみたいに純粋じゃないっっ



「わ、私実は特性が“逃げ足”なんです!絶対逃走できるんです!なのでに、逃がしてくださっっっ」
「それは奇遇ですね、わたくしの特性はオノノクスに習って“かたやぶり”なのでございます。どんな特性も無効になります」
「つ、つまり…?」


 妖艶に微笑まれ…


「逃がしは…致しませんよ?」







オノノクスな車掌さん

(という訳でして、わたくし達おつきあいする事になりましたよオノノクス)
(地下こわい…!本気のノボリさん怖い…!!あれで落ちない女の子なんていない!!まさか特性“テクニシャン”まで持っているなんて…!)
(貴女様は“メロメロボディ”な特性もお持ちでございましたね)
(いやああああああ!!お口チャックですノボリさん!!)



おめでとう、
あと ひとつ いうなら 
ぼく の マネ なんてしなくても 彼女 は ノボリ に 惹かれてたって
キバゴ が 言っていたよ

とくせい あまのじゃく !
 









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