09.内緒話し【前編】

※前編、後編に渡るお話
※全体的にギャグ
※なんちゃって関西弁
※逆ハー




 とある目的があり、ライモンシティでも有名なお菓子屋さんで早朝から並んで買ったプリンのビニール袋を片手に、友人のナツキ君とマルチに乗車しました。

 そして激戦を勝ち進み、最終車両の手前でクラウドさんに勝利!
 …した直後、最終車両手前でクラウドさんに肩をがっしり掴まれて真顔で、


「ナマエちゃん、頼むリタイアしてくれ」


 と、そんな事を懇願されてしまった
 ちょ、どうしたんですかクラウドさん!目がマジすぎて怖い!!血走ってらっしゃる!!


「え、いや、ここでリタイアしたら一緒に乗車したナツキ君に申し訳ないですし!!」


 冷や汗まじりにそうつげ、既に扉の前でスタンバイしているナツキ君が腕を組みながら「まだか」と、視線のみで私をせかしてくる。

 数時間前を遡れば友人であり、エリートトレーナーとして優秀である彼を観覧車の前から半ば土下座状態で頼み込んでサブウェイのマルチに乗車したのだ。
 そこまでしたのに、今更リタイアしますなんて言ったら私ナツキ君に往復びんたとかされてもおかしくない。男女に歪みない平等っぷりを示してくれる彼ならやりかねない…!


「そんな訳なのでリタイアはちょっと…」
「…知っとるで、ナマエちゃん。ボスと内密につきおおとるらしいやないか」


 こそっと小声でクラウドさんに言われ、どきっと素直に心臓が跳ねてしまう。顔も思わず赤らめてしまい、それは言葉にしなくても固定の意を示してしまう。クラウドさんは「ほれみい」と呆れたようにため息をついた。

 そ、その通りですよ…!私はサブウェイの頂点にいるあの人と恐れ多くもお付き合いさせてもらっている。でも、気恥ずかしいという事と、彼の世間体を考えて内緒に、という事にしてもらっていて、私達が付き合っている事を知っている人はほとんどいない。

 そして先日、それが原因で喧嘩をしてしまった。彼がもうそろそろ周囲に話してもいいんじゃないか?と言ってくれたのに、首を横に振ってしまったから…。あと冷蔵庫に入っていた彼のプリンを食べてしまった事も引き金で口論になってしまったのです。

 結果、お互いメールもライブキャスターでの会話もぱったりやめてしまい、お互い意地の張り合いで、拗れにこじれてもう一週間…。

 今朝、謝ろうと決意して彼の職場に直接行こう!と決めてこうして来たのが経緯であり、はいすみません、何も知らないナツキ君を巻き込んでいます。この事実知られたら私ナツキ君にアッパーカットされるんじゃないかな。


「な、なんでクラウドさん知って…?!」
「ここ最近のボスの機嫌の悪さと、視線の行き場を見ていたら嫌でも気づくわ!
だから帰れゆうとるんや!!仲直りでもしにきたんかもしれんけど、なんでよりにもよって今日きたんやナマエちゃんんんんん!!!」


 クラウドさん…疲れているのかな?いきなり床に崩れ落ちてだんだんと地面を叩き始めた彼を眺めながらそんな同情する。

 ?、よりにもよって今日って??何かあったかな??


「ボスはまだ拗ねたままやで、それでも行くんか」
「い、行きます!!出ないとこの並んでまで買ってきたプリンの消費期限今日中なんで!!」
「なんでそこでプリンやねん!!」
「私この前あの人のプリン食べちゃって…」
「やっぱリタイアせえ!!プリンと自分の身の安全どっちが大事やねん!!」
「プリンよりも自分の身よりもあの人が大事です!!」
「なんて海よりも深いアホらしい愛なんや!!」


 アホらしいとはなんですか、周囲は知らないんですか。彼のプリンへの愛を。食後にいっつも食べてるんですよ!あれないと次の日のテンションががくん!と下がるんですよ!きっと防御力だってがくん!と下がっているに決まっています!


「とにかく私行きますので!」
「待ち!どうしても行くと言うんやら手持ちポケモン達を変えていき!!悪タイプで挑むなんて自殺行為やで!!
確かナマエちゃんはあれこれもっとったからパソコンで………よし」


 クラウドさんは半ば無理矢理私の手持ちを車両に控えていたパソコンでまさにあれこれ変えてしまった。そして悲痛そうな顔で頷き、肩をぽんぽんと叩かれた。


「ナマエちゃん………うちのボスを犯罪者にはせんといてや」
「え?ちょ、今何が起きてるですかサブウェイ…でぇ!?」

「いつまで待たせるつもりだ、とっとと行くぞ」

「いたいいたいいたい?!耳ひっぱらないでナツキ君ーーーーー!!!」


 待たされすぎて痺れを切らしたナツキ君に耳を引っ張られながら強制的にクラウドさんの居る車両から否応なしに移動させられる。

 あああああ話しまだ途中だったのにー?!





 移動すると、そこにはいつも通り白黒車掌が挑戦者を待っていた。

 ・・・訂正、

 いつも通りじゃない。

 白黒車掌が………4人、私達を待ち構えていた。


「ようこそバトルサブウェイへ、わたくしサブウェイマスターのノボリと申します!」

 ピシッと背筋を伸ばし、綺麗にお辞儀をするノボリさん。


「ボククダリ、バトルが好き。すっごいバトルはじめる?」

 小首を傾げながら口元をにこり緩め、誰もが見とれる人畜無害な天使の笑顔を見せるクダリさん。


「…最終車両まで辿り着いたのデス、せいぜいワタクシを楽しませてくださいネ」

 怠げにたばこの煙を吐き出し、百獣の王すら彷彿させる鋭い眼差しでコチラを捕らえるはインゴさん。…車内は禁煙ですとノボリさんに今まさに注意されたのに聞こえないふりをしているのは流石だと思う。


「フフッ、I am fortunate fight with your cute!」 

 口元に指先をあててクスクスと楽しげに笑い、流石とばかりの流麗な英語で語るはエメットさん。可愛い貴女とバトル出来るなんて幸せ…的な事を言っているようで。


 いや、うん。インゴさんもエメットさんも研修でここに居るのは勿論知っていたよ?

 でも、誰が四人同時に出てくると思いますか誰が!?


 白黒四人、同時に横並びに立ちはだかれ、若干…いやかなりドン引きしながら一歩二歩後退しながら、同じく引きつった顔をしているなこの度の相棒のナツキ君へと動揺から震える声で話しかけた。


「ナツキ、君?ここってマルチトレインだよね?」
「そう…だな」
「二対二の…バトルの筈だよね?」
「ああ…」
「私の見間違いじゃなかったらサブウェイマスターが4人いるように見えるんだけど」
「奇遇だな、俺もそんな見間違いが…」
「……………」
「……………」


 それ見間違いじゃないね!!二人で見えちゃってるんなら現実だね!!

 ああああすみませんクラウドさんギブアップしたいんですけどって、WAO!!後方車両の扉がいつの間にか自動二重ロックされてるYO!!何故ゆえ?!いつもなら鍵すらかからないのに!!

 何が始まるんだと、冷や汗まじりに…その4人の中に紛れている最愛の彼に目配せをしたけれど、営業フェイスのみが返されてなんだか泣きたくなった。
 まだ、怒っているようです…。


 困惑のみが支配するこの場を打破したのはノボリさんの一声だった。


「ナマエ様、本日のイベントが催されている良き日にご乗車してくださり大変嬉しく思います」
「い、イベントって…?というかそんなうっとりした目でコチラ見ないでくださいませんか!あと私以外にもナツキ君も乗車しているんですがっっ」

「ナマエ、ナマエ、今日なんの日か知ってる?知ってるよね!ふふ、ボク嬉しいな!」
「いや知らないんですクダリさん!あとナツキ君も居ますからね!!」

「ワタクシに(ピーー)されに来たのデショウ?」
「インゴさんんんんんんんん!!!!!今私耳鳴りがしました!!ぴーーとか聞こえました!!やめて!昼間の列車の中でハイレベルな単語とか私聞きたくない!!」

「ここまで一人で来れたんだもんネ!偉い偉い、ご褒美はミーからあげるカラネ!」
「だからナツキ君もいるんですけどって誰とも会話が成り立たないとかあああああ!!」


 ゼェゼェと肩で息をしている私を、ナツキ君は哀れみを込めた目で眺めなられた。


「突っ込み疲れないのか?」
「そう思うならナツキ君も突っ込みしてよ!自分の存在無視されている状況を受け入れている貴方はどれだけ心が広いのかと私は問いたい!!」
「いや、バトル以外興味ないから」
「クールか!!なら友達である私だけが疲労しているのに助けてもくれないというの!?」
「ったく、しょうがないな」


 ナツキ君はそんな私を見かねてか、少々引け腰ではあったけど私を背にかばいながら四人へ話しかけてくれた。

 ナツキ君いい人…!私を庇ってあの四人に立ちはだかるなんて貴方はなんて友達思いの人なのっ!好感度急上昇!!


「あの、なんでサブウェイマスターが四人勢揃いなんですか?ここマルチですよね?」
「左様でございますが、本日のイベントにナマエ様がご参加されると聞いて私たち…いても立ってもいられなくなりましたので」
「?、さっきから言ってますけどそのイベントって?」

「えー?ナツキくん知らないの??今日はあの日だよ!」
「あの日ってどの日ですか、こどもの日はとっくに終わりましたよクダリさん」
「もう!!ボクとこどもの日を結びつけるのやめてくれる!!」


 ぷぅっと頬を膨らませて拗ねてしまったクダリさんをみかね、インゴさんが不敵な笑みを浮かべながらさらりととんでもない事を言い放った。


「本日は、キスの日らしいのデ」
「「は?」」


 私とナツキ君は同時に間抜けな声を発してしまう。


 キスの日が…なんだって?


「だからミー達からナマエへGive a kiss!」
「いやいやいやいや意味がわからなんですけどエメットさん!!」


 小悪魔ですか貴方は!!と、言わんばかりにくすくすと笑い続けるエメットさん。極めつけはモンスターボールをチラつかせながらナツキさんへと贈られたノボリさんの発言。


「ちなみに、でございますが。ナツキさんの場合ですと私たちでは少々身に余りますので、わたくしの手持ちのダストダスから熱いキスを贈らせて頂きたk」
「リタイアします」


 ナツキ君即答!!挙手した貴方のでんこうせっかの手の動きに私はビックリだ!!


「ではナツキ様はリタイアという事で、ナマエ様を置いていってくださるのでしたら次の停車駅での降車を認めますが」
「ああどうぞ、煮るなり焼くなりダストダスに抱擁させるなりお好きに」
「裏切り者ーーーーーー!!!!」
「知るか!!ダストダスに初めてを奪われるぐらいなら俺はお前を差し出す!!」
「キスがまだ未経験とか!!なにそれ可愛い事実ちらつかせてるけど、結局は私はダストダスに負けたと!?」
「ナマエ、お前の犠牲は忘れない!!」
「犠牲って言うなあああーーーー!!!」


 発言通り、次の停車駅でナツキ君のみが降車した。というか私は四人が鉄壁ガードをはったせいで降ろして貰えなかった訳で。

 くっそぉおおおお!!ナツキ君の馬鹿ぁあああああ!!次にあったら私の可愛いベトベトンであっっっっっっっっついキスお見舞いしてあげるんだからあああああああああ!!


「では、ナマエ様」
「ナマエちゃん」


 ノボリさん、クダリさんに名を呼ばれ…


「バトル致しましょうカ」
「Are you ready?」


 インゴさんとエメットさんに威圧的に微笑まれた。


 そしてあの人はというとそんな面々に完全に紛れ込んで“彼氏”というスキルを完全に隠している。

 く…!なにがキスの日だ!この4人は何を考えているんですか、特に私の彼氏さんは!!


 今更ながら、クラウドさんの言葉を素直に聞いてリタイアしていれば良かったと…深く反省。


 焦る私を見て、“彼”が楽しげに口元を緩めた仕草を…私は見逃さなかった。






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2012/05/24


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