11.微糖



「あの、私…!クダリさんの事が、すきなんです…!」


 いつもの如く胸を高鳴らせながら乗車したクダリさんが司るダブルトレイン、最終車両。

 今日は、ずっと、ずっと想い続けていた彼に告白しようと決めて乗車したから、途中で私に立ちはだかる人たちを容赦なくエンブオーとバオッキーの炎タイプ手持ち最強コンビで邪魔です!とばかりに焼却……いえいえ、倒して、倒して、吹き飛ばして、倒して、自分で言うのもおかしいけれど本気すぎて目がマジだったかもしれない。途中トレインで出くわした園児ちゃんは私からほとばしるバトル神のオーラを目の当たりにして泣き出してしまった程だった訳ですが。


 恋する、乙女は、やる時はやるんです!!普段でない力だってどこからでも出ちゃうんです!!


 そんな訳で勝ち進んでやってきた最終車両。クダリさんは常連である私の姿を見るなり天使の笑顔で迎えてくれて、バトルの前口上を話しだそうとしたから、それを遮って告白したのがつい先ほどの話し。

 いきなり「好きです」なんてストレートに告白をされたクダリさんは、目をぱちくりさせて三日月形にかたどられた口元はそのままに固まってしまった。

 そして私はもう心臓ばくばくで、顔もあっつくて、気合いをいれる為だったのか無意識に両手でぐーを作って自分の胸元で構えていた。

 クダリさんはなんて答えてくれるのかな…!ああ返事を聞きたいけれど怖い、怖いけど聞きたい。

 だって、本当に、ずっと、ずっと好きだったんです…!クダリさんを好きだという女の子は沢山いるけれど、彼の長身でスラッとした体つきに柔らかな物腰、整った顔立ち、それに惹かれてファンになった子達だって沢山いるけれど、


 私はそんな子達よりもずっと前から好きだったんだから。


 それを伝えたかったのに、もう想いを告げる事で今の私は精一杯でそれを言葉として紡いで目の前で硬直し続ける彼に伝える事が出来ない。

 目の前が揺れているような気さえする、緊張のしすぎで吐きそうだ。

 握りしめている手にじんわり汗もかいてきた、クダリさんの沈黙が苦しい。今何を考えているんですか?

 ぐっと息を飲んで、なけなしの勇気を振り絞って自分から沈黙を破った。


 でもその声は、無情にも震えてしまう。


「クダリさん…!あの、私、単純にクダリさんのサブウェイマスターとしての肩書きとか、見目とかに惹かれたんじゃなくて、実は前に…クダリさんにっ」
「ごめんね」


 すっと一気に体中の体温が急降下した。それは、彼の口から生み出された否定の言葉のせい…。

 クダリさんは、私を困ったように笑って見つめて…静かに、続けた。


「ここ、ダブルトレイン。戦う所、そういうお話、しちゃいけない。
バトルする所だから」
「あ……」


 力なく落とされた視線…、車両の床が歪んで見えるのはなんで?ああ…そうか、私…泣いているから。


 ふられて、しまった。


 泣いて、クダリさんを困らせちゃいけないって。彼にこの涙を気づかれていけないと大げさすぎる程に下を向いてスカートにシワが残ってしまう程に握りしめて震えた。


 最初から、分かっていた事なのに。

 どうしよう、自分勝手にも、悲しいだなんて…。最後まで言わせてくれなかったクダリさんが酷いだなんて、なんで、勝手に自分を被害者ぶらせるんだろう。私…最低だ。

 よく恋愛小説でヒロインが恋に破れた時に語られる文面を思い出した。


 “貴方に出会えただけで幸せだった” “想いを告げる事ができた事が満足”
 “貴方を好きになれてよかった、どうか違う誰かと幸せに”


 そんなの物語だ、偽善だよ。
 だって、私は…こんなにも胸が苦しい。悲しい。クダリさんが他の誰かと幸せに…なんて考えるだけで辛い。

 ポケモン達を愛する彼の子供のような笑顔が好きだ。
 バトルをしている時の、瞳の奥に隠された狂気じみた色が好きだ。
 優しく…差し伸べてくれる、彼の手が好きだった。


 私が、彼の隣を、私が歩きたかった……。



「ナマエちゃん?あの、まずバトルしよ?さっき無線で前の車両にのってた車掌がね、ナマエちゃんのバトル凄かったって褒めてたからボクも楽しみ−」
「リタイア、します」


 聞こえるか、聞こえないかの小さな声で呟いて、クダリさんから疑問の声があがったけど、それに気づかないふりをしてふらり後方へ下がり、扉の横に設置されている緊急停止ボタン(いわゆるリタイアの証)を押した。

 途端、トレインは減速して、幸いにも近くに駅を控えていたらしい。そこへ停車してくれて…扉が開け放たれた。


「ナマエちゃん…降りるの?待って、バトルしないんだったらっ」
「クダリさん……私、もうここへは来ません」


 クダリさんが息をのむ気配を感じた。

 そこでやっと顔をあげた私、笑顔を作ろうとしたんだけど。クダリさんがいつも浮かべてくれるきらきらした笑顔を…私もまねしたかったんだけど。

 涙でくしゃくしゃになってしまった、真っ赤な情けない顔では到底笑顔なんてつくれなくて、ただ…悲しげに歪んだ顔をさらす事になってしまった。

 声が、震える。
 ああもう……もう、なんというありきたりな恋のバットエンド。


「貴方の姿を…っ、見るのが辛いで、す……っっ
いま、わたし、こころのなかぐちゃぐちゃで、何も考えられないけどっ、クダリさんへ建前の言葉をいう勇気もないし、忘れますなんて嘘もつけないし…っ、気が利かなくてごめんなさい…っ」
「ナマエちゃっ」
「好きです、だいすきです、でももう叶わない想いだっていうんならっ
さよなら、します……!!」
 さよなら、します…。
 忘れられる自信はないけれど、まだ心臓は高鳴るけれど。この想いが迷惑になってしまうんならせめて、強がってさよならします。


 さようなら……私の、大好きなクダリさん。。。



 身を翻して、地面を蹴って、その場から走りだして列車から降りてホームを駆け抜けて行った。

 後ろで、クダリさんが叫んで呼び止めていた。

 優しい人だから、慰めの言葉でも言うつもりだったんでしょう。そんな所も好きだったけれど、今日はその優しさが痛いです、放っておいてほしいです。


 ああ、ああ、胸が張り裂けてしまいそう…!!
 涙が止まらない、
 クダリさんへの想いが溢れてくる、

 すきすきすき、大好きなの……!! 







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