▽連載 | ナノ

「セレビィゲットした」





 ボクの家は高層ビルの最上階で、その階にはノボリとボクしか住んでない。一応一人暮らし?みたいになってるけど、お隣さんは勿論ノボリな訳でご飯はボク作れないからいっつもノボリの家で食べてる。というか暇な時はポケモンつれてノボリの家に入り浸ってる。一人ってあんまり好きじゃないし。
 −ってセレビィなナマエに話ししたのがついさっきの事。

 ノボリ、という名前にセレビィはすっごく驚いていて、魂抜けちゃうんじゃないかってぐらい打ちひしがれて、ボクの腕の中でだらんって脱力しちゃった。

 それで、ボクのポケモン達にごはん(ノボリ特製の栄養たっぷりのポケモンフードだよ!)を、あげてからナマエだけ脇に抱えて脱衣所に直行したら、ナマエは部屋に残されたポケモン達とボクを交互に見比べてなんで自分だけが脱衣所につれて枯れてるんだろうって不思議そうにしてたから、その疑問になんの躊躇もなく答えてあげた。


「だって、さっきまでシビルドンのお口の中にいたでしょ?
お風呂入って綺麗にしないとね、折角だし一緒にはいろ。綺麗にしあげる」
「びぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?!?!?!?!」


 セレビィ…じゃなかった、ナマエはけたたましい叫び声をあげると、ロケットみたいな勢いでボクの腕から逃げだし、あの小さな羽根を高速羽ばたきさせてお食事中なシビルドンの背に隠れてガタガタ震えてる。

 ん…?セレビィって水苦手だった??ううん、むしろ好きな方じゃないのかなぁ?草タイプだし。


「ほら、みんなの食事の邪魔しないの!我が儘言ってないでお風呂はいろ」
「びぃいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」


 もしナマエがいま人間の言葉を話せているんなら「嫌ぁああああ!!」とかそんな感じなんだろう。ボクに首根っこ掴まれた瞬間にまた叫んで、両手足じたばたさせて、なんだか真っ赤な顔で半泣きになってるし。

 ほんと、おもしろいこ!


「だいじょうぶ、水が怖くてもぼくが一緒にはいってあげるから安心して!」
「びぃ?!びぃびぃいいい!!」
「うんうん、だいじょうぶー」


 ぱたん、と脱衣所の扉締めて退路塞いで既にお湯張ってあるお風呂場にセレビィを投げ込んだ。


「今日の入浴剤はバニラ味!」


 ふんふんって鼻歌歌いながら自分の服も脱いで、洗濯カゴに放り投げて続いてお風呂場に入ってった。


 ・・・なんでお風呂場の隅で、ボクに背を向けて丸まって震えてるんだろ?
 ナマエって本当個性的…。明日ジャッジにどんな個体値の子なのか見てもらお。


 ジャーーーってシャワーの雨を降らせてそれをナマエに頭からかけて、ポケモンのボディーシャンプーとか使って隅々まで念入りに洗ってあげた。




***






「いーち、にー、さーん、しーーーびるどん♪」


 お互い綺麗さっぱり髪も体も洗ってから一人で入るには広すぎる湯船に、ボクとセレビィの一人と一匹でつかりながら鼻歌歌った。

 セレビィは小さいからボクがずっと抱っこして抱えていてあげたんだけど、何故かナマエはずっとお風呂場の天井へ視線を投げて必死にボクの方を見ないようにしているみたいだった。  


「ナマエ、首疲れない??」
「びぃ……!!」
「???、もしかして恥ずかしい??」
「びっっ?!」
「あはっ、そうだよね、伝説のポケモンって言われてるぐらいだし、人間と接する機会なんてあんまりないよね」
「・・・・・・・・。」


 ん?なんでそこで「もうだめだこの人」みたいな絶望的な顔しちゃうの??


「でもボク一人のお風呂よりも、ポケモン達と一緒に入るの好きなんだぁ。シビルドンやバチュル、デンチュラと入るとたまに感電しちゃって大変だけど、電気風呂も結構たのしいよ!」
「せれび?」
「ノボリじゃ絶対一緒にはいってくれないから」
「せれび!!」
「あ、今はなんて言ったのかなんとなく分かるよ。そりゃそうだよみたいなこと言ったでしょ!」


 失礼っって冗談いうみたいにわらって、わざとナマエの顔に湯船のお湯をばしゃんってかけてみた。


「びぃ?!びびぃ」
「あは、ナマエ無抵抗??よわーい!」


 あおるように冗談めかして鼻でふふんって笑ってみせたら、ナマエはぷぅって頬を膨らませて、濡れた羽根を湯船の中で羽ばたかせてきて、その反動でボクの顔にたくさんのお湯がかかった。


「ぷっ!?ぷは?!わっこの量はずるいっっ」
「せれびぃいい!」
「もう!ならボクもおかえしーーー!!」


 ばしゃばしゃばしゃーって力いっぱいお湯掛けて、それに負けじとお湯をかけ返してくるナマエ。
 なんか楽しくて、二人で笑って必死にお湯のかけあいっこしたからお風呂からあがるころには二人そろってのぼせちゃって………でも、楽しかったからいいや。


 声だして笑ってお風呂入るだなんて、すっごくひさしぶり。



 やっぱりこのこ、すごくおもしろい!




***



「ナマエ、食欲ないの?」


 お風呂から出て、シャンデラの熱風(弱)で髪と体を乾かしてもらいながらナマエにポケモンフードがはいった容器を差し出したのに、ナマエはふんふんっておそるおそる匂いをかいだだけで、眉をひそめて硬直しちゃった。

 おかしいなぁ…、ノボリがつくったこのポケモンフード…。どんなポケモンでもいままでうはうはしながら食べてたのに。

 タオルで髪をわしゃわしゃ拭きながら、真っ白なソファーにすわったらすかさずシビルドンとアーケオスが待ってたとばかりにボクにすり寄ってきて、膝の上やら肩の上やらに顎をのせて「撫でて!」って甘えてきたから、幸せいっぱいになって二人ともよしよしって頭撫でてあげた。

 それをじっと見ているナマエ。


「?、ナマエも甘えたいの??」
「びぃ〜」
「違うの??どうかしたの??」
「び…」


 ナマエはしゅんって肩を落として、ふらふらとベランダへと飛んで行くと、窓ガラス越しに外の景色を眺めて深く、ため息ついた。


「しびる!」
「あ」


 すると、シビルドンがボクから離れて、テーブルの上においてあったボクの食べかけのバチュルの形したメロンパンを手にとって、ナマエに差し出した。

 ナマエとシビルドンは何か、ボクには解読できないポケモン語?で会話してから、おずおずとそれを受け取ってほおばって食べて、嬉しそうに笑ってシビルドンに笑顔見せてた。

 ポケモンフードよりも、メロンパンがいいの??やっぱり不思議…。


 でも、なんでだろ。さっきの様子は…お腹すいてたからベランダに向かったんじゃなくて……なんだかもっと深く思っていた事があったようにも感じた。

 ナマエの小さな背中が、押しつぶされてしまいそうな程に…切なげに見えたから。


「ナマエ、」


 ナマエの元まで歩み寄って、その場にしゃがんでから頭撫でた。

 お風呂上がりだったせいか、毛づやとかつやつやで、すごくいい匂い。ポケモンなのに、反応とか、仕草とか…すごく細やかで素直で、可愛いこ。


「何か困った事あったりしたら甘えていいんだからね?
ここボクの家だから、ボクとポケモンしかいないし。
寂しいんだったら、甘え放題だよ」


 ね、って笑って手を広げて見せたら、ナマエは飛び込んでは来なかったけど大きな目を何度も瞬きさせて、にっこり…笑ってくれた。

 控えめにボクの足にくっついて、ぎゅーーってすがりついてくる様は、やっぱり可愛い。


「ふふ、もうこのまんまボクのポケモンになっちゃう?」
「び?」
「ナマエさえよければこのままボクと、みんなと一緒にくらそ。家族がふえるの、ボク嬉しい!」


 ナマエはちょっと戸惑っていたけど、シビルドンがボクに寄りかかって、まるで自慢するみたいにすきすきってすり寄ってきた姿みて、

 うん、って頷いた。


「あは!じゃあキミも今日からパートナーの一人!これからはずっと一緒だね!」


 抱き上げてぎゅーって抱きしめて、頬にすりすりって頬ずり。


 くすぐったそうに、でも照れくさそうにうつむいたナマエに、また笑みが漏れた。


 セレビィゲットした、ってあとでノボリにメールしておこ。それで明日には新しい家族が増えたんだよパーティーしてもらお、ごちそう作ってもらお!


「今日は沢山疲れたでしょ、もうねよっか。キミのモンスターボールは明日探してきてあげるね!」
「びっっっっっ」
「ゴージャスボールとかがいいかな?過ごしやすいらしいよ!」
「びっびぃ…?」


 モンスターボールという単語に何故かおびえていたけど、仲間が増えるのはやっぱり嬉しい事で、その日は新たなパートナーになったナマエと一緒に就寝する事にした。


 …って、提案したらまた固まられて、逃げようとしたから、羽根をむんずって掴んで寝室につれていった。





***




「ナマエ、もうねちゃった…?」


 寝室の電気けして、他のポケモン達も寝息をたてて眠る時間、一緒のベットで隣に寝ているセレビィの顔を覗き込んでみると・・・・寝ちゃったどころが目を開眼させてこちらをガン見してきているものだから、思わず笑顔が引きつっちゃった。


「目、充血してるよ…?眠いんなら寝なくちゃ」
「び、い…!!」


 眠いのに寝ようとしていない、みたいに見える。

 眠いなら寝ればいいのに、なんで寝ようとしないのかよくわかんない。

 毛布をたぐり寄せて、ナマエの肩まですっぽりかぶせて、ぽんぽんって肩を叩いてあげた。


「ん、ナマエねんね」
「!」
「いい夢、見れるといいね。今日はお疲れ様…。また明日もよろしくね」


 ぽん、ぽん…規則正しく肩を毛布越しにたたいてあげていると、だんだんとナマエの瞳は閉じられていき、寝息をたてるまでにそう時間はかからなかった。


 こんなすぐ寝ちゃうぐらい疲れてたんだ…。


 そこで、ナマエの目から涙がにじんでいる事に気づいて、人差し指ですくって払ってあげた。


 この子のトレーナーはいない、らしい。野生のセレビィだったんならすぐに帰っちゃうはず。なんで…あそこにいたんだろ?なんで、泣いちゃったんだろ?


 そこでふと浮かんだのは迷子の、セレビィ。という説。


「まいご…かぁ」


 でもしっくりこなくて、セレビィってどんなポケモンだっけって考えながら段々とボクの意識もふわふわって気持ちいい布団の中に溶けてく…


 あ…そうだ、セレビィって




 時渡りポケモンって………いわれてるんだっけ。






 そう、考えついたけれど、もう思考意識は眠りへと深く深く、落ちていってしまった。





***



『セレビィ〜』


 皆が寝静まった深夜の時間帯。大きな窓ガラスの外にへばりついて中の様子をうかがう一匹の…セレビィの姿があった。

 窓のまわりを飛び回り、遊んでいるようにいったりきたり、へやの中で眠っているクダリと、ナマエの姿を眺めながら口元に手をあててクスクスといたずらっこのように笑った。


 きらり、光るセレビィの体、



 次の瞬間、月の光にまぎれるようにして…セレビィの姿はその場から消えてしまった・・・。








***




「クダリ!!起きなさいクダリ!!!!」

「ん〜…!ノボリうるさい…ぼくきょうはねてる、しごといかない………ぐぅ」

「寝ぼけていないで起きなさいと言っているのです!!この状況はなんですか!!」

「ぼくせれびぃといっしょにねてるだけ………さびしがっちゃうといけないからいっしょにいる〜〜ねるぅ〜〜〜…」

「ええそうですね、昨夜貴方から届いたメールでもセレビィをゲットしたのだという文面がありましたが、

一体どこにセレビィがいるのですか?!不埒ですよ!!いいから起きて説明なさいクダリ!!そして離しておあげなさい!!」


 あさ……目覚めてすぐにノボリのこの叫び声は………いろんな意味で響く。


 薄目開けて怒声を飛ばすノボリを見上げると……、わぁ……エプロンしてる、朝ご飯つくってたのかな?…その格好で眉つり上げて怒りちらして……真っ青な顔で叫んでるってどういう事……?

 まだ、寝ていたいのに…って思って、こういう時のボクって正直。絶対おきるもんかって一緒にねていたセレビィで暖をとろうって既に抱きしめて寝ていたナマエをさらにぎゅーーーって思い切り抱きしめた。


「ぴぃっっっ」
「ぴ……?」


 腕の中で鳴いた驚きを含んだ声、
 抱きしめたら柔らかくて、ふわふわって香る甘い香りは昨夜のお風呂のバニラの香り。
 さらり……彼女の髪が手をくすぐり落ちた。


 え……?彼女…?「ぴ」って声……女の子だった。抱きしめ心地とか、柔らかいし、胸、あるしでぜったい女の子。。。


 ぱちってそこでやっと目を開けた。


 ボクの腕の中で真っ赤な顔をして硬直してカタカタ小さく震えているのは…見知らぬ、女の子だった。



 え?!




「え?!きみっっだれ?!」
「あああああのすみません!!人間に戻ってすみません!!私も何がどうなっているのか分からないのですがとにかく元は人間でして!!この姿が本物でして!!何故かこっちの世界に来た時にはセレビィになっていたんですけど今は人間に戻ってしまっていましてというかこんな最悪なタイミングで元に戻ってすみません、誤解招くような体制でごめんなさい!!クダリさんのファンの子にバレて私がぶっ飛ばされて部屋が血みどろになっちゃったらごめんなさい!!ノボリさんにあらぬ誤解されたらごめんなさいってそうだった目の前でおたまを片手にもってまさに朝ご飯作ってましたという感じなのはあのノボリさんなんですよね私どうしたらいんですかやっぱりファンの皆様にお空の彼方まで吹き飛ばされますか?!その前に私の友達サブマスのお二人のファンなので死ぬ前にサイン頂けませんか?!いえでも私が死んだらサイン届けられないしっというかまず帰り方分からないしう、いえそんな自分の事情の前にまずはお二人に土下座して謝り倒して許しをこわなくてはいけない訳ですが土下座したごときじゃ許されないのは従順承知しておりますのでもうこのさいいっその事お二人の愛するシビルドンとシャンデラでわたしなんてホエルオーのエサにでもされるべきじゃないでしょうk−」

「「おちついて」くださいまし」


 すっっっっっっごい慌ててる、見てるこっちが可哀想になるぐらいに、真っ赤になったり真っ青になったり、きょろきょろって視線が泳いで挙動不審で。おもしろいこだなぁ。



 ん??

 この感じ、覚えが…ある。。。


「もしかして…ナマエ?」
「はいぃいいいいいい!!ナマエですすみませんんーーーー!!!」



 この反応は、間違いなさそう。


 何がどうなったのか分からなくて固まるボクに、今にもライブキャスターでジュンサーさんに通報しそうになっているノボリとか。(ねえちょっとノボリ?それってボクが変態扱いされてるの?)



 あは…。
 世の中、まだまだ不思議な事でいっぱいみたい。











2012/04/24




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