▲連載 | ナノ

07.「デート?ならば一肌脱ぎましょう!」




「おはようナマエ!」
「・・・えーと、あの…、トウコ?」


 早朝、6時。
 もう既に起きていた私だったけど、突然の来訪者を知らせるインターホンの音に玄関の扉を開けて出てみると、大きなバックを片手に持った、満面の笑顔なトウコがそこにいた。


 もしかして、一緒にジム巡りしようとかバトルしようとかそういう誘いだっただろうか?
 だとしたら申し訳ない、行きたいのは山々なんだけど今日はどうしても行けない用事がある。


 …行かなくてもいいなら行きたくないなぁ、トウコと遊びたいなぁ。


 若干遠くに意識が飛んでしまいそうになったものの、それを奮い立たせて回復させて申し訳ないとばかりにトウコに苦笑を浮かべた。


「え…と、なにか用事だった?だったらごめんね、今日はちょっと用事が、」
「うん!知ってるわよ、ノボリさんとデートでしょ!」
「がふぅ?!」


 トウコの爆弾発言に盛大にむせてしまった。
 いや、大当たりなんだけどっっ、例のバトルで負けた要望だったデートの日が今日なんだけど、

 なんでそれをトウコが知ってるの?!誰にも言っていなかったのに?!

「と、と、トウコ?!な、なんで知って!?」
「え?だってノボリさんに聞いたから。『ナマエ様がお好きなものを教えて頂けませんか?』ってサブウェイに行った時に聞かれてね、その時になんでそんな事聞くんですか?って聞いたらデートするからって、その日が今日だって事もばっちり聞いてきたわよ!」


 ノボリさんの馬鹿ぁああああああああ!!

 友人にそれを知られてしまったという事が恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から湯気がでそうなほど熱くさせてその場に蹲った。

 ああああああもうトウコに知られたら絶対末代までからかわれるに決まってる…!だってもうすでに私を見下ろす彼女の笑顔が“にこにこ”じゃなくて“にまにま”してる!!


「って、なにそれ!?まさかトウコ私のいろんな事ノボリさんに教えたんじゃ?!」
「うふふ…ふふふ」
「なにその笑いーーーー!!!」
「まあ、その事はもう済んだ事だからいいじゃない」
「流す気だ?!自分の失態を流す気だこの子!!」
「ええい静かにしなさい!!私がこんな朝早くから出向いてあげたんだからありがたく思ってよね!」
「いえだからなんで来たの?!用事ならライブキャスターからでいいじゃなっ」
「それじゃあんた逃げるでしょう!!」
「何する気だーーーー!!」
「何をするってそれよそれ!」


 トウコはビシッと私の今着ている衣服を指さした。
 どんな、って。普通にパーカーにズボンでありますが。


「なんで…デートに行くのにそんなラフな格好なのよ?!」
「な、なんでって!トウコと一緒にバトルする時は大抵こんな格好じゃない!動きやすいようにってっ」
「貴女が今日行くのはデートなのよ!!バトルじゃない!!」
「バトルだよ!!デートとは戦争だ!!相手にその気があるというのに隙を与えてどうする!!」
「デートを戦争とかいうのはナマエだけだから!!」
「だって恋愛興味ないんだもん!!」
「このバトル狂!!」
「なんとでも!!」


 お互い一歩も引かずにギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうな程の距離で言い合う。

 自慢じゃないけど、私は男の人とデートなんてしたことはない!それに相手は特別私の好きな人という訳でもない、できれば諦めてほしいとすら思っている人だ。

 あんな将来有望株な人が私を好きだっていう…、
 やめようよ…!私なんか、どこにでもいるような女だよ?むしろいないかもしれない、バトル狂とかちょっと世間的には男性にはモテないというのは私の今までの人生が証明してくれている。


「それに…一目惚れって言うのが、ね。
嘘くさいし、信じられない…」


 ぽつり、独り言のように呟いた。

 もしも私がカミツレさんのような美女だったら、一目惚れって言うのもあるかもしれない。でも…私だよ?特別可愛くもないし、普通…だし。

 気の迷いだとか、遊んでるとか思うのが普通でしょう?


「ふーむ…」
「え、あっっ、トウコ!今のは聞かなかった事に!」


 トウコとノボリさんが繋がっているというなら今の発言はまずい、と思って少々焦りながらトウコに弁解しようとしたけど、トウコはにっこり…私に笑顔を返してきた。


「よし!つべこべ言わずに私に身を任せなさい!」
「…意味が分かりません」
「ふふふ、これを見よ!」


 トウコは持参していた大きな鞄を私につきだしてきて、私は疑問符が沢山浮かびつつもその鞄の中身をみて…絶句した。


「ちょっっこれなに?!」
「私から!大切な友人のナマエへプレゼントよ!
これを着てノボリさんとデートへ行ってらっしゃい!」
「嫌よ!!な、な、なにこの可愛らしい服?!」


 あああとても直視できない何このふりふりの衣服?!わ、ワンピース?白のフリフリ…の、ワンピ?!か、勘弁してよ私そういう衣装苦手だって知ってるくせに!!


「さあお着替えしましょうね〜ナマエっ、ついでにお化粧もしてあげる!
さあ!さあ!さあ!!」
「ひいいいい!!」


 とんでもない!!と顔面蒼白でトウコに背を向けて部屋の中へと逃げだす!ロビーまで走った所で、トウコのランクルスがリフレクターを発動!思い切り顔面からリフレクターな壁にぶつかった!大変だナマエは逃げ場を無くした!!とか、心の中でふざけてしまうぐらいパニックにはなっている。


「と、トウコさん…!リフレクターの使い方間違ってます…!というか人間相手に使わないくださ…!」
「物理攻撃はがくんと下げられたわよナマエ、つまりリフレクターで囲まれた貴女は逃げられない!!そんな訳でつーかーまーえーたあああ!!」
「きゃあああああ!!!!」



 早朝の、とあるマンションで……私の悲痛な叫び声が響き渡った…。


***




 待ち合わせは午前9時、ギアステーション前。


「少々早めに着きすぎてしまいましたか…」


 腕時計で現時刻を確認、まだ午前8時である。
 時間丁度に来るつもりはなかったが、これは早すぎたでしょうか。ですが、家でこの時間を待つには落ち着かない、ならば彼女との待ち合わせ場所でナマエ様へ思いを馳せながら待つ方が自分にとっては有意義なのだ。

 ナマエ様とまともに会話をし、同じ時間を共有するのは事実今日が初めてとなります。
 その事を思うだけで、胸の高鳴りが抑えられません。


 ざわざわざわざわ…。


 目の前をスーツをまとった人々が行き交う。

 この時間ではもう通勤ラッシュは過ぎ去ってはいるが、多少なりとも人はいる。
 誰もが目的地へ急ぐ、そんな中で己は愛する人が己の場所へ来てくれるのを待っている。

 そんな些細な事で引き締めて保とうとしている口元が緩んでしまうのだ。我ながらどうしようもない。


 ピピピピピ…!


 コートのポケットに入れていたライブキャスターが鳴る。この音はメールだと分かっていたので、慌てる事なくそれを取り出し文面へ目を通す。


「トウコ様から……ですか」


 トウコ様は最近バトルサブウェイのお客様になったお方、ナマエ様の友人というお話を聞いてからは、その…ナマエ様のお話などを聞かせて頂いておりました。

 メールの文面に…、思わずライブキャスターを握る手に力をこめてしまいました。
 そして、ため息。


 己の考えをまとめようと、静かに首を振りそれをもとあったポケットへ収納しなおす。


 先日ナマエ様にデートの日取りをライブキャスターを通じてお知らせしました所、とてもひきつった顔で了承を頂きました。
あの表情を見るからに「忘れてくれていたら良かったのに」という彼女の本音すら聞こえてきそうな程でした。

 わたくし、ポケモンの厳選を得意とするだけあり、人様の表情の浮き沈みも敏感に察する事が出来るタチでございます。現在わたくしはナマエ様にさほど好かれていない事は理解しております。

 突然好意を告げられ、マナー違反もよろしく迫られれば誰だって嫌悪するでしょうが。

 出会った日に、一度するりと手を離れてしまったナマエ様。会いたくても会えず、絶望したあの一週間。またあのような思いをするぐらいならと、彼女への想いを包み隠さずに接している。もたもたしていて、他の輩に奪われてしまってはわたくし気が狂ってしまうかもしれません。


 後悔は、したくはないのです。

 わたくしの気持ちをもっと知って頂きたい。

 だが、それを拒絶もされたくない。

 できることなら、受け入れてほしい。


 誰かに想いを届けるという事が、こんなに難しいという事を、貴女に恋をして初めてしりました。



「の、ノボリさん…」


 ハッと、意識が現実へと戻る。

 気がつけば随分と長い間考えにふけってしまっていたのでしょう。反射的に時間を確認すれは8時半、待ち合わせの30分前であります。

 だが、聞こえた声は間違いなくナマエ様の声。

 驚きまじりに振り向けば、おずおずと歩いて近づいてくる…ナマエ様のお姿…が。



 ドキリ…と、心臓が跳ねます。言葉を、失いました。釘付け…とはまさにこのことでは。


「あ、のノボリさん、待ち合わせ9時ですよね?来るの早いですね、私も少々早めに来たのですが」
「………」
「ノボリさん普段着だったので声を掛けるのにちょっと戸惑ってしまいました……ってあの…ノボリさん?」
「………」
「あ、あまり見つめないでください…!」
「え、あ…申し訳ございません」


 ナマエ様は顔を耳まで真っ赤にさせてしまい、恥ずかしいとばかりに俯いてしまわれました。

 わたくしは…その、見とれてしまい…見つめるなと言われても尚彼女へと熱い視線を向けてしまう。

 今、目の前にいる彼女は大変…可愛らしい姿をされております。淑女のように可愛らしい白のワンピース。それを彩るピンクのカーディガン。控えめに引き立てられた化粧。普段のままの彼女でも大変お可愛らしいですが、それにさらに磨きをかけて−美しいです。


「…あまりにもお綺麗でございましたので、みとれてしまいました」
「なっなにを言?!」
「わたくしの為にこのように着飾ってくださったのですか?」
「ち、ちがっ、トウコが…そのっ」


 動揺しながら、顔を赤らめたままのナマエ様を目の前にし、顔の筋肉が緩むのを堪えられない。
 ありがとうございます、と微笑みながらナマエ様の頭を撫でながらお伝えすると、ふわり…彼女から香る甘い香り。くらくらと、酔ってしまいそうになります。


「では、少々早いですが参りましょうか。
わたくし、本日を大変楽しみにしておりまして…ナマエ様と共に歩けるとは夢のようでございます」
「お、大袈裟な…!!」
「大袈裟ではございません、
一度逃げてしまわれた貴女を捕まえるというのは、まさに奇跡でしょう」


 きょとん、とナマエ様の目が何度も瞬きされる。わたくしの言う意味を図りかねているのでしょう。

 その…意味は、本日お伝え出来ればいいのですが。

 貴女の心に、もっと、深く、わたくしを刻み込んでくださいまし。


「手を繋いでも?」
「いっ?!いえ!!それはちょっと!!」
「左様ですか…、
でしたらひとまず目的地へ向かいましょう」
「えと…どちらへ行く予定ですか?」


 行き先をまだ伝えていなかったので、ナマエ様の顔色に少しの不安の色が浮かびます。


 本日の行き先は、わたくしの行きつけとなっている場所でございまして。
 あの場所へわたくしが通っているという事はごく少数の者、といいますか、クダリしか知らぬ場所。 

 そこへ、貴女様を招待したいのでございます。


「行き先は、ヒウンシティでございます」
「ヒウンシティ??」
「ええ、では参りましょう」


 不快に思われぬ程度に軽くナマエ様の腰に触れ、歩くことを促しますと、ナマエ様はまた顔を真っ赤にされて、背筋を伸ばしてぎこちなく歩き出されました。

 どうやら…ナマエ様は男性への耐性があまりないようでございますね。

 初々しい反応を返す可愛らしいナマエ様の反応に、一人…心が満たされておりました。






2012/06/02


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