私がその不思議なサーカスに出会ったのは、
ハロウィーンの夜の事だった。

ジャック・オ・ランタンの灯りが立ち並び、
仮装姿の人々が行き交う表通りから少し離れた路地裏。
親に家を出され、時期外れの雪に凍えていた私の元に、
音も無く南瓜頭のピエロが現れ、笑いながら手を差し伸べた。
「ずっと待ってたよボクのお姫様、おいで」
初めて聞いた筈なのに妙に懐かしくて温かな声に誘われ、
積もる雪の様に白く冷たいその手を取ると、
優しく抱き上げられて、私の体はふわりと浮き上がった。

「離さないでね」
そう言われ、状況も分からないままピエロにしがみ付くと、
ピエロは高く跳び上がり、屋根から屋根へと歩き始める。
足音一つしない猫の様に軽やかなステップ。
道行く人の頭上を通り抜けても誰一人気付かない。
まるで私達だけが別の世界に居る様な、不思議な時間。
そんな移動を暫く繰り返した後、突然立ち止まったかと思えば、
ピエロは今まで以上に高く高く、空に手が届きそうな位に飛び上がった。
見下ろせば、街の灯りが果てしなく広がっている。
「キレイでしょ、ずっと見せたかったんだ」
どこか誇らしげな声に頷く事も忘れて見入っていると、
器用に私を片手で抱き上げながら、ピエロは一際大きな星を指差した。
「あそこがボク達のサーカス」
時折、何かを祝う様に小さな花火が散っては夜空を照らしている。
「もっともっとキレイなモノがいっぱい有るんだ」
段々と地面が近付き、灯りの間に赤と黒のテントが揺らめく。
「今日からキミも一緒だよ」
囁きと共に光に包まれ、思わず目を瞑る。

それから暫く経って光が和らいだ頃、
そっと地面に降ろされて目を開けば、
先程のテントが大きく口を開けていた。
見下ろしていた時とは違った迫力に立ちすくんでいると、
ピエロは笑みを深めながら私の手を引いて中へと歩き出した。

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