真夜中、男が道を歩いていると、
遠くから騒がしい音が聞こえた。

物音、何かが壊れる音、揉めるような声。
どこぞの輩が喧嘩でもしているのだろうか、
珍しい、どんな奴らだ、少し覗いてやろう……
と、どこか野次馬のような気持ちで、
音のした方へ歩みを進める。

男がその場所へ近付いた頃、
いつの間にか争うような音は止んでいた。
何だ喧嘩は終わったのか、と少し残念に思いながら、
それでも非日常の残り香に噛り付くように、
息を潜めて残り僅かな距離を詰める。
ツン、と嗅ぎ慣れない不快な臭いが漂う。
向こうから、ピチャ、と水溜りを踏む音。
ここ暫く晴れ続きだったのにな、と頭の片隅で考えながら、
角をそうっと覗き込んだ瞬間、全てが繋がった。

あちこちを染める赤い液体。
地に散らばる人の部品。
中央に立ち尽くす異様な人影。

ヒャハハと耳障りな笑い声が響いて、
思わず、ひ、と声が飛び出した。
気付かれていない事を願いながら口を押さえる。
人影は背を向けたままだ。
助かった、と、来た道を引き返そうとした時、
大きなカボチャ頭が振り向く。
ギョロリとした眼に捉えられた瞬間、
足が勝手に走り出していた。
滅茶苦茶な悲鳴を上げ、
よろけながら逃げようとする男を追う様子も見せず、
赤く染まったカボチャ頭は、ただただ、
壊れたテープレコーダーのように笑い続けていた。

暫くして、命からがら路地を抜け出し、
殺人鬼が追って来ない事を確認した男が油断した時、
影が頭上を通り過ぎる。
僅かな着地音がしたと同時に、
ギラリと光る凶器が振り上げられた。
チェーンソーの唸る音と壊れた笑い声を最期に聞きながら、
男は自分の好奇心が間違いだった事を思い知るのだった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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