今日はハロウィンの真夜中。
正確に言うと万聖節へと日付が変わろうとしている頃。
年に一度の大行事を済ませ、
くたくたになったパンプキンヘッドが一人、
ふらふらと少しよろめきながら真っ暗な部屋へと帰って来た。
そのパンプキンヘッド、ジャックが眠りに付こうとした時、
くぅ、と腹の虫が音を立てた。
その鳴き声を聞いたジャックは、
ベッドに向かおうとしていた足を止め、
テーブルへと向かった。

テーブルには色も形も様々な菓子が、
山のように高く積み上げられていた。
くたくたになるまで彼方此方を走り回った成果が、
この菓子の山と言う訳だ。
どれを食べようかな、と笑顔を浮かべて、
幸せな悩みに首を捻りながら、
幾つかの菓子を手に取り離しを繰り返し、
暫くして、山の中に埋もれた赤い赤い果実を発見した。

少しの間、その林檎を見つめていたが、
ソレを食べる事に決めたようで、
長く垂れた袖の端で何度か林檎を擦ってから齧り付いた。
シャクリ、と独特の瑞々しい咀嚼音が響いて、
顔に笑みを浮かべたジャックが、
もう一度林檎に齧り付こうとした時、
後ろからミシミシと何かが軋むような音が聞こえた。

次の瞬間、ジャックの視界は天井へと移って、
小さなキャンディーが一つ、コツン、と顔に落ちた。
どうやらテーブルが菓子の重さに耐え切れなかった様で、
不意打ちを受けたジャックは、哀れ大量の菓子の下敷き……

暫く必死にもがいた末、ようやく菓子の上へと這い出る事が出来、
ほっと大の字に倒れ込んだジャックの目に、
見慣れた友人達の影が飛び込んで来た。
視界を少し上に上げると、案の定、狼の尾と蜘蛛の足が見える。
いつの間に、とでも言いたげに首を傾げたジャックだったが、
先程の雪崩を見ていたのなら少しくらい手を貸してくれたって、
と少し不機嫌そうな表情を浮かべながら、
手足をバタバタと動かして抗議を始めた。
何時もなら、何か有れば一言二言文句を言いながらも助けてくれるのだが、
今日に限ってはジャックの抗議を見ても、
一言どころか微動だにしない。

しばらく続いた沈黙に抗議する気力すら無くなったのか、
溜息をつくように肩を大きく落として再び大の字になっていると、
遠くから扉の開く音と足音がして誰かが駆け寄ってきた。
その人物を確認しようと少し体を起こして座ると、
特徴的な三白眼がジャックの方を見つめていた。
その人物、ヨーカーを見たジャックは、
不思議そうに首を傾げてから、何度か自分の目を擦った。
そんなジャックの様子を見て、目の前の人も首を傾げて、
「……スケーリィ? 今、凄い音がした……」
と呟いてから、頭を抱え込んでいるジャックの手を掴んで立ち上がらせた。
そして、また誰かの足音がしたと思うと同時に部屋に明かりが灯される。
「ジャック大丈夫?
 なんか凄い音がしたんだけど……ケガしてなイ?」
と部屋に有ったランタンを動かしながら、
もう一人、蜘蛛女のイダが言った。
ジャックは二人の質問に答えるでもなく、
目の前の人物達を凝視していた。
そんなジャックを心配そうに見つめる二人は、
間違いなく鏡に映った人影と同じ格好である。
矢張り見間違いでは無い。
ジャックが慌てて振り返ると先程の人影は無く、
ただ床に散らばる鮮やかな色彩の菓子と、
慌てた自分が鏡に映るのみだった。

涙ぐんでいるジャックを見てヨーカーが呟く。
「スケーリィ……おかしい……」
イダも「どうしたノ?」と首を傾げてから、
キョロキョロと部屋の中を見渡していたが、
菓子と共に床に転がり落ちている林檎を見つけると、
キャハハと甲高い笑い声を上げた。
突然の笑い声にヨーカーが眉を顰める。
イダは一言謝ってからジャックに問い掛けた。
「もしかして占いでもしてたノ?」
ヨーカーとジャックの二人が揃って首を傾げると、
イダも、知らなかったの? とでも言いたげに首を傾げて、
少し呆れた様子で語り始めた。
「あのね、ハロウィンの真夜中に林檎を齧りながら、
 後ろを向かずに鏡を見るとネ……」
思わせぶりな口調に、ジャックの心臓がドクリと跳ねた。
自分自身も周囲もモンスターで、
幽霊との出会いだって日常茶飯事だと言うのに、
ジャックは何故か心霊現象の類に弱いのだ。

ビクビクと震えているジャックを見て、
イダは少しおかしそうに笑ってから言った。
「別に怖い話じゃないのよ?
 鏡を見ると運命の人が映るって話なの。
 ね、ロマンチックでショ?」
イダは話しながら口の前で手を組み満面の笑みを浮かべて、
キャア、と嬉しそうに悲鳴を挙げた。
その話を聞いたヨーカーが「馬鹿らしい……」と簡潔に呟く。
もう、とヨーカーの方を睨みつけてから、イダが再び口を開いた。
「だから、その結果にビックリして、
 お菓子をひっくり返しちゃったんじゃないかなー
 ……と思ったんだけどネ」
知らないんじゃ違うみたいだし、と続ける。

ジャックの心から恐怖は消え去ったものの、
一生この友人達と仲良くやれるのか、と言う幸福な想像と、
一生運命の恋人は現れないのか、と言う悩ましい結果に、
その占いを思い出す度に頭を抱える事になったと言う。

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