ついさっきまで鬱陶しい位の快晴だったにも関わらず、
突然滝の様に降り出した雨に足止めを喰らい、
古い屋根の下で雨宿りをしていると、
遠くからぴちゃぴちゃと音を立てながら誰かが近付いて来た。
ふっと顔を上げて目を細めると、人影には足が無い。
……いや、それどころか人ですらない。
地面から少し浮いた巨大なてるてる坊主。
差している大きな傘の中は、何故か外よりも酷い雨が降っている。
傘の必要性についてぼーっと考えていると、
ころころとボールが転がって来た。

一瞬どうしようか迷ったが、悪いモノでも無さそうだし、
無視すると面倒臭い事になりそうだったから、拾い上げる。
ぬかるみだらけの地面を転がって来たのに、
一点の汚れどころか湿り気すらない。
何となく引っ繰り返してみると、
歪な丸にペンで描かれた不揃いな顔。
作り物と言えど、ずっと頭を抱えているのも気持ち悪いから、
差し出してやると、体が滑る様に近付いて来た。
白い布がめくれて手袋の様な手が現れる。
反対側の布が見えるだけで、体も何も無い。
ふわふわと浮いている様に見える手に頭を乗せてやると、
妖特有の壊れたテープレコーダーみたいな声が聞こえて来た。
「アり難ウ御座いマス」
ぺこりとお辞儀をして首に頭を乗せ、
据わりを確かめる様に何度か軽く動かすと、
礼のつもりか、青い石を差し出して来た。
雨の粒を固めた様な透き通る青。
若干気にはなったが、妖から何かを受け取って良い事になった例が無い。
……が、大抵こう言うのは放って置いても良い事が無い。

困った様子で首を傾げるてるてる坊主に、
お礼代わりに話でも聞かせてくれ、と持ちかけると、
納得したのか、傘を畳んで俺の隣に腰を掛けた。
率直に、てるてる坊主のクセに大雨と共に現れた理由を聞くと、
少し黙り込んだ後、ぽつぽつと話し出した。
「……私が生マれタノは、梅雨ナノに、雨が降ラなイ年デシた……」
独特の声と雨音が相まって聞き取り辛かったが、
てるてる坊主の長話を纏めてみると、こうだ。

その年は空梅雨も空梅雨で連日晴天だったが、
ある女の子が、次の日の家族旅行をよっぽど楽しみにしていたのか、
丁度テレビで見たのを見様見真似で作ったてるてる坊主がコイツ、らしい。
で、コイツが軒先に吊るされた次の日。
天気予報も疑い様の無い位に晴れ続きで、
当然その日も晴れる筈だったのに、よりによって記録的豪雨。
コイツは怒った女の子に歌の通りに首を切られた後、
捨てられ、今に至る、らしい。

あまりにどうしようも無い過去話に、
哀れに思うべきか笑うべきか悩みつつ相槌を打っていると、
いつの間にか雨は止み、てるてる坊主の姿も消えていた。

何となく空を見上げる。
何事も無かったかの様に透き通る青空と痛い位に照り付ける太陽。
さっきまで雨だったのが嘘みたいに乾いた道を歩いて家に帰ると、
明日、学校の遠足が有るらしく、
妹が真剣な顔で天気予報を見ていた。

一面に並ぶ晴れマーク。
そう言えば今年も空梅雨だったな、と、
アイツに聞いた話を思い出しながらカバンを開くと、
不恰好な笑顔のてるてる坊主と共に、あの雨の雫が輝いていた。
……まぁアイツも満足したみたいだし、害も無いだろう、と、
楽しげに鼻歌を歌っている妹に青い石を渡してやると、
ランドセルから何かを取り出し、
拙い手付きでてるてる坊主の首元に結び付けた。

……キラキラと光る小さな金の鈴。
コイツも心なしか喜んでいる様に見える。
妹に急かされて窓辺にてるてる坊主をぶら下げると、
風も無いのに、ふわりと揺れた。

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