生前バング文
2016/07/08 22:51

オレの人生は、灰色だった。

毎日ヒマでヒマで、
何をしててもつまんなくて、
心のどっかにポッカリ穴が開いてて、
それを埋めれるものも見つかんねぇで、
平和で、平凡で、退屈で、
そんな日常の全部にイライラしてた。
つまらないものに縛られるのが嫌で、
学校も家も抜け出して夢中になれるものを探したが、
どれもこれもすぐに飽きちまって、長く続いた試しがない。
人間関係も同じで、誰かとつるむ事が有っても、
ささいな事ですぐにモメて、一人になった。
イラついて、キレて、当り散らして、全部投げ出して。
――気付けばオレは孤立していた。
周囲は何かと問題を起こすオレを怖がって、疎ましがって、
どこに行っても邪魔者扱いされた。
つまんねぇヤツの相手なんざこっちから願い下げだが、
遠巻きにオレを見る目と陰で色々言われんのはムカついた。

ある日、歩いてたら遠くから指をさされて笑われた。
ヒソヒソ言われんのはよくあることだったが、
その日はやけにムカついて、気付いたら相手を殴ってた。
今までイラついてもモメても手を出した事は無かったが、
初めて人を殴った瞬間、妙にスッとして、
イライラも気持ち悪さも、全部消えた気がした。

それからのオレは、毎日ケンカに明け暮れた。
誰でもいいからやり合って、怒鳴って、殴って、
暴れてる間だけは嫌な事も退屈も、全部忘れられた。
終わった後は何故かモヤモヤしたが、
また次の相手とぶつかれば、それも忘れられる。
そんな事を繰り返してたら、いつの間にか、
オレの周りにはケンカする相手すらいなくなっていた。

退屈から逃げる唯一の手段も無くなって、
オレは毎日当てもなく街をブラブラしていた。
案の定、その日も何も面白い事は見つからず、
壁にもたれて溜め息を吐いてると、
横に貼られてたポスターに目が行った。
近くのバンドハウスでライブが有るらしい。
全然知らねぇ名前で、正直音楽に興味なんざ無かったが、
ヒマ潰しが出来るなら何でも良かった。
チケットを買って、適当にドリンクを頼んで、
キャーキャー騒いでる客を横目に、
バカみてぇだと思いながら始まるのを待った。
周りが静かになったと思ったら照明が一瞬暗くなって、
ステージの上にバンドのメンバーが現れる。
ボーカルが何か合図をしたかと思うと、
急にライトが光り出して、一気に音が爆発した。
一面に曲が響く。体が震える。
全部の音がぶつかり合って、大音量で主張している。
テレビで流れてるような曲とは別物で、
うるささに耳が潰れそうだったが、
今まで感じた事が無いくらいドキドキして、ワクワクして、
全力で殴られてるみてぇに頭が痺れるのにスッとモヤモヤが消えてって、
オレの灰色の世界に、色が流れ込んだ気がした。

ライブから数日経ってもまだ演奏が忘れられなくて、
初めてなくらいワクワクが止まらねぇで、
あのステージに立てたならきっとオレの人生は輝けると思って、
オレは、音楽を始める事にした。
詳しい事はわかんねぇし調べるのもかったるかったから、
とりあえず片っ端から挑戦してみる。
――まずはボーカル。
音程とか歌詞とかメンドくせぇし、
そもそもオレは歌が上手くないみてぇだ。
――次はギター。
コードとかメンドくさかったから、
とりあえず全力で弾いたら、壊れちまった。
――んでベース。
今度は真面目にやろうとしたが、
細か過ぎて途中でメンドくさくなって、結局壊した。……どれも上手く行かねぇ。
無性にイライラして、止めちまおうかと思ったが、
最後に、まだやってなかったドラムを触ってみる事にした。
見た目も地味だしステージでも後ろの方だし、
一番つまんなさそうに思えて、正直やる気は無かった。
まぁ、これもダメだったら終わりにしよう……
そんな感じでスティックを握って、叩いてみた。
小さいけど、妙に響く音。
何度か叩いてみる。空気が震えるのが心地いい。
力を込める。音が大きくなる。
やっぱりうるせぇけど、何かワクワクする。
力を入れて叩いた分、音が返って来る。
ぶっ壊れても構わねぇと、全力で叩いてみる。
あの日のライブみてぇに音が爆発して、頭が真っ白になる。
何度叩いても、ありったけの力をぶつけても、
壊れるどころか強い音になって返って来る。
叩く度に退屈が吹き飛んで、燃え上がって、
疲れて叩き終わる頃には耳も腕もジンジン痺れてたが、
それも妙に気持ちよくて、
オレは、生まれて初めて夢中になれるものを見つけた。

それからオレは演奏できる場所を、
あのステージみたいに燃え上がれる仲間を求めて、
丁度メンバーを探していたバンドに入った。
一人で好き勝手に叩いてた時と違って
練習やら何やらで時々メンドくさくなったが、
誰かと音楽をやるのは新鮮で、
練習する度に上手くなってく気がして、
毎日すげぇ楽しかった。
狭いライブハウスだったけど、
初めてステージに立った時は感動した。
照明は眩しくて、音で頭がいっぱいになって、熱気が凄くて、
何よりオレ達の音で客が盛り上がるのが楽しかった。
誰かを傷付けなくても全力でぶつかり合えるのを、初めて知った。
この瞬間が、ずっと続けばいいと思った。
……でも全然人気出なくて、段々空気悪くなってって、
耐え切れなくなったボーカルが抜けて、結局解散した。
解散からしばらくして、
今度は音楽始めたばっかのヤツらを見つけて、
ちょうどいいと一緒にバンドを立ち上げた。
最初の頃は皆でワイワイやって、好き勝手騒いで、
正直あんま上手くなかったけど、わりと楽しかった。
でもちょっと上手くなって来たと思ったら段々ダレて来て、
皆テキトーで、演奏してても全然ワクワクしなくなって、
始めの頃みたいに全力で派手にやろうぜって提案したら、方向性が違うとかで却下されて、毎日退屈で、
つまんなくなって、オレから抜けた。
次に入ったバンドは、二つ目よりは盛り上がって結構続いたが、
ささいな事でメンバーとケンカになって、
途中でオレの演奏をけなされて、
キレて手を出しちまったら、辞めさせられた。
その次も、たしかそんな感じ。
上手く行かなくて、モメて、ケンカになって、解散。
……その辺りで、オレを入れてくれるバンドは無くなった。

それから、バンドを始める前みてぇに一人でドラムを叩いたけど、
全然燃えねぇし嫌な事ばっか思い出すから、
段々ドラムにも触らなくなって、
オレの毎日は音楽を始める前に逆戻り。
何してもつまんなくて、イライラしてケンカして、
でも音楽より楽しい事も見つけらんなくて、
むしろ前より全部全部退屈な日々だった。

――そんな時、アイツに出会った。
アイツの歌を聴いて、初めて音楽に目覚めた時みてぇに、
もしかしたらそれより、ずっと、ずっと、感動して、熱くなって、
コイツとなら、きっと、輝けると思った。

そう思ったのは正解で、
アイツと知り合ってからのオレの毎日は、
今までにないくらい、楽しくて、輝いてた。
オレとアイツは性格も何もかも正反対で、
時々モメてケンカになる事もあったけど、
少ししたらまた自然と笑いあって、バカが出来た。
何よりアイツと一緒にやる演奏は、最高だった。
アイツの歌が、ギターが、オレのドラムと響いて、
全身にしみ込んで、爆発して、光り輝いて――!
今までの人生で一番楽しくて、ワクワクして、
疲れ切るまで演奏してもしても全然足りなくて、
コイツとなら、ずっと、いつまでも燃え上がれるんだろう。

――燃えて、燃えて、鮮やかに燃え尽きるまで!



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