(サーカス)
2015/10/04 04:03

「この忙しい時に何処へ行っていた!」
道化師は顔を顰め、口の前に一本指を出す。
「もう、大きい声出さないでよ! ヒメがビックリしちゃうデショ」
男は「ヒメ?」と訝しげな声を出した後、開演の準備をする団員達を指差す。
「歌姫なら、サボリ性の貴様と違って、二人共、仕事の途中だが」
その言葉に大きく首を振った後、道化師はにんまりと笑う。
「ボクのお姫様」
今にも歌いだしそうな程に上機嫌な声でそう言った後、
テントの影に隠れていた左手を曳くと、少女が慌てた様子で姿を現した。
「可愛いデショ?」
より深く眉を顰める男を見ているのか見ていないのか、
道化師は、とびきり上機嫌な様子で少女を抱き上げる。
「でもねー、この服はヒメにふさわしくないからー、あまってるドレスとか無いのー?」
少女の着ているボロボロの服の裾を摘みながら、
僅かに顔を顰めて首を傾げる道化師に、我慢の限界に達したのか、
男は手にしていた杖を床に叩き付け、声を荒げた。
「この忙しい時間に突然居なくなって、漸く帰って来たと思ったら、
 何処の馬の骨とも知れん子供を連れて来て、挙句の果てにドレスだと!?」
男は更に続けようとしていたが、
少女が泣きそうになっていた事に気付いたのか、
慌てて駆け寄って来た大男に口を塞がれる。

男は、暫く、収まらない様子で大男を引き剥がそうともがいていたが、
疲れたのか、根気強く静止し続けた大男に折れたのか、
溜息を吐きながらも優しく少女の頭を撫でた。
安心した様子で手を離し、放り出された杖を拾い上げる大男に、
「すまん」と小さな声で謝った後、何度か大きく息を吸い込み、改めて道化師と向き合う。
「……まず、その子供は何だ」
男は、不思議そうに「だから、ボクのお姫様」と答える道化師に、
眉を大きく顰めたが、息を吐き、何とか冷静に問い直す。
「……名前は?」
少女が何度か首を振った後、道化師が「知らなーい」と答える。
「……何処に居た?」
困った様子で見上げる少女に、道化師は頷き、答える。
「表の通りに一人で居たんだよネー」
二人の様子を見て、少し考え込んだ後、男は尋ねる。
「口が利けないのか?」
頷く少女に「そうか」と短く返した後、小さく溜息を吐く。
「……親はどうした?」
少女が一瞬怯えたかと思うと、道化師が大きく顔を歪めた。
「……ヒメ、ボクは団長と話してるから、この人に、ココの事、教えてもらっといでよ」
不安そうな顔をする少女の頭を優しく撫で、大男に「よろしくね」と差し出すと、
大男は少女を抱き上げ、舞台裏へと消えて行った。



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