並行世界

中学3年、放課後の教室

「轟って推薦で雄英に決まったんだって?」
「ああ」
「いーなー、もう勉強しなくていいの」
「まだ勉強はするだろう。授業もあるし」

卒業も間近に控えた放課後の教室に明るい笑い声が響いた。
だから推薦で受かるんだよねぇ、なんて笑うみょうじは中学3年のこのクラスで俺と一緒に学級委員をしていた。俺が委員長で、みょうじが副。うちの学校では委員長は担任の指名で決まるが、副委員長は立候補制だった。
みょうじは、確かに明るく誰とでも仲良くしていてクラスの中心によくいたが、委員長をするようなタイプでは無かったと思っていたので、少し意外に思った覚えがある。しかし、実際に決まって委員長の仕事が始まってみると、よく働くし、俺の補佐も積極的にしてくれるのでとても助かった。
今日も、俺が担任に来週の総会の資料をまとめる作業を任されたのだが、それを聞いていたみょうじも、私も学級委員だから、と手伝ってくれることになった。
推薦組以外はこれから更に受験対策で必死になるこの時期、学級委員の仕事もこれからはあって無いようなものだ。きっと2人で作業をするのはこれが最後になるだろう。


「あんまり笑わせないでよー。紙がうまくまとまらないじゃん」
「そんなに変わったことを言ったか?」
「いや、さすが轟だなぁ、って思っただけ」
「そうか。…みょうじはどこを受けるんだ?」

驚いた表情をした後、にやにやと笑うみょうじ。

「轟、私のことに興味あるんだ。意外だー」
「興味というか…」
「へー、そっか…うふふ」

一人で楽しそうなみょうじは、結局どこを受けるかは言わなかった。その代わり。

「第一志望に受かったらさ、轟に、言いたいこと、あるんだ…」
「なんだ?」
「受かったら、ね!」

ね、それより、これ早く片付けちゃおうよ!そう言って笑った。



しかし、みょうじは第一志望は残念な結果に終わったらしく、俺はこのときの<言いたいこと>が何だったのかも、第一志望が何処だったのかも聞かないまま卒業したのだった。


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