17歳
前半戦
転送開始の合図で、6人は市街地Aのオーソドックスなステージに散り散りになる。それと共に、スナイパーの2人はバックワームを起動させた。とは言え、2チームしか無いのだから、自チームのスナイパーと違う方が相手のスナイパーだ。今回チームを組んだ隠岐と辻に司令塔を任された出水は転送位置の予想をしつつ、簡単に立てた作戦を2人に伝える。
「辻ちゃんはとりあえずおれと合流目指して。隠岐はなまえの捕捉よろしく」
『了解』
『任せときー』
そして自分も辻との合流を目指して走り出すが、レーダーに映る自分たち以外の2つの点は思った通り、自分と辻を狙ってそれぞれ動いている。相手はヒャッハー系アタッカーの米屋とヒャッハー系スナイパーのなまえとバランサーの犬飼。となれば、A級で単独でも点が取れる米屋に一人任せて、なまえと犬飼でもう一人取りに来るはずだ。
試合前にも話していた通り、こっちのチームはアシストが上手いメンバーが多い。そうなると向こうはこっちの得意な形になる前に仕掛けて来るだろう。つまり、合流を阻むタイミングで。
そして、転送位置の関係上、向こうの作戦の方が上手くいったみたいだった。
「出水、みーつけた」
「げ、こっちが犬飼先輩か…」
レーダーの点が重なると同時に物陰から犬飼がアステロイドを連射してくる。出水はそれをシールドでガードしながら、自分もアステロイドで応戦する。なまえの狙撃を警戒して射線を切りつつ、チームのメンバーに報告をした。
「辻ちゃん、悪ぃ、犬飼先輩に捕まった」
『こっちも米屋と交戦中』
「隠岐、なまえは?」
『あかんわ〜、見っからへん』
「隠岐がなまえ見つけられないって珍しいな…。多分なまえはこっち狙ってくると思う」
『了解ー』
「辻ちゃん、一人で米屋抑えられそう?」
『抑えるだけなら、なんとか』
「頑張ってこっち連れてきて。おれも頑張るから」
『わかった』
互いのチームの実力は割と拮抗している。そうなると、先に一人落とした方が勝つだろう。だから何としても辻と合流して、自分たちの一番良い形に持って行きたいところだ。混戦になれば、アシストメインのこっちのチームに分がある。
犬飼を誘導しつつ交戦していると、隠岐から通信が入る。
『出水、ほんまになまえがおらん』
「んー、じゃあとりあえず辻ちゃんの方フォローしてやって。こっちは何とかなりそうだから」
『すまんなぁ。そうするわ』
しかし、何かが妙だ。
隠岐がなまえを見つけられないこと、いつもならチャンスがあれば無理やりでも狙撃してくるなまえが大人しいこと、頭の回る犬飼がこっちの作戦に乗るように誘導されていること…。そして、犬飼の得意なガンナーの間合いではなく自分の得意なシューターの間合いであること。
最初の合流こそ阻まれたものの、それからの流れは割と上手く行っている。
「もしかしてもうバレちゃった?」
出水が何かに気付きかけたことに気付いた犬飼は、シールドを解除してハウンドに切り替えた。
とっさに出水はフルガードにして頭と胸を守った。それは試合にも、このメンバーの戦い方にも慣れた出水だったからとれた判断と行動であって、逆に言えば、そこを付け込まれた。結果論的な話にはなるが。
出水のレーダーに急に1つの点が新しく見えるようになる。それはバックワームを解いたなまえだった。
グラスホッパーで一気に間合いを詰めたなまえは、そのままの勢いで出水の頭上を通過し、それと同時に放ったのは。
「Wメテオラ!!」
「うっわ、まじかよ!」
正面の犬飼からの攻撃をガードしていた出水は、頭上からの攻撃にほぼ無防備な状態だった。なまえの狙撃も警戒していたとは言え、それは遠くからイーグレットで狙われることの想定でしかない。まさか至近距離でのメテオラで来るとは思ってもみなかった。
「出水、残念」
「出水が言ったんだよ。『Wメテオラで戦えば?』って」
ニヤニヤと楽しそうな犬飼となまえを恨めしく思っても、漏れ出るトリオンは活動限界を超え、出水はあっけなくベイルアウトした。
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