17歳
「めっちゃ笑ってるじゃん」

「辻ちゃ〜ん!」
「辻ちゃんー!」
「辻ちゃん!」

個人ランク戦のフロアに入った途端、自分の名前を大合唱された新之助は怪訝そうな顔をしながらもこちらに駆け寄ってくる。

「何?どうしたの?」

やって来た新之助の肩を抱く米屋。周りもニヤニヤしているので、新之助は益々顔を顰めて私を見てくる。ごめん、助けてはやれそうにない。

「え?何?」
「なあなぁ、ニノさんとイコさんの不仲説流れた原因がなまえってマジ?」
「え?不仲説?」
「こないだのランク戦でさぁ、二宮さんと生駒さんが言い合ってたじゃん」

出水の言葉に疑問符を浮かべた新之助は、犬飼先輩の言葉で思い当たることがあったのか、ああ、とうなづく。

「俺、あんまりはっきり聞いてないですよ。水上先輩と応戦中だったんで」
「ええー」
「ダメじゃん」

露骨に残念な顔をする同級生たちに新之助も「ごめん」とか謝っているが、別に新之助は悪く無いと思う。この場合は。

「じゃあ、犬飼先輩の冗談だったってことで」
「なまえちゃん、流石に酷くない?」
「あ、もう一人呼べば良いじゃん」
「もう一人?」
「隠岐だよ」

もう一人に何故隠岐なのか、それを米屋や出水が新之助に説明している間に、私は隠岐に連絡を取ってみることになってしまった。

「え、なんで私なんですか…犬飼先輩とかも連絡先知ってますよね?」
「でも隠岐くん、なまえちゃんが1番レスポンス速そうじゃん」

仕方なくいつも連絡を取るときに使うSNSを開いて「会議終わったら個人戦のブースに来て」と送る。お気に入りのスタンプも忘れずに送信。

「うわ、なまえちゃんの持ってるスタンプ全部可愛くないねー」
「そんなこと無いですよ、これとか」
「それボーダー公式の嵐山隊のやつじゃん。え、課金したの?」
「しましたよー。全種類持ってます」
「第一弾はネタで買った人多いみたいだけど、全種類はやばい」

そう言いながら犬飼先輩は勝手にひとのスマホから隠岐にスタンプを送りまくってた。ボーダー公式嵐山隊スタンプ第三弾ボイス付きの佐鳥が「見ました?」とか言ってるやつだけを。

「ちょ、やばいですよ」
「めっちゃ笑ってるじゃん」

2人で爆笑してると、説明が終わったらしい3人が「何してんだ」と寄って来たので、画面を見せる。

「犬飼先輩が隠岐に佐鳥送りまくって…」
「あ、なまえ、返信来たぞ」

出水に言われて慌てて画面を見ると、笑っている間に既読が付いてたらしい。「今終わったからこれから行くわ〜」と返信が来てる。佐鳥はスルーだ。さすが佐鳥。

「これから来るそうです」と言うと、

「そうか〜」
「理由も聞かずに即答ってスゲーな」
「愛だな、愛」

とか新之助以外の3人が無意味にニヤニヤするので、やっぱり来なくて良いと送った方が良い気がしてきた。


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