初めて会った時の印象は全っ然覚えてない。多分俺の人生が漫画とかドラマになったら、きっと初登場シーンはただのモブかなんかだろうなってくらい。本当に気にも留めないようなザ・普通の子。よくある新しいクラスになって初めてのホームルームでの自己紹介なんて、クラス全員覚えてる?前のクラスで仲良かったやつとか、友達の友達とか集中して聞いてたやつだって、はっきりなんて覚えてないのに。「初めて同じクラスになった特に関わりもない女子」の自己紹介をちゃんと聞いてた記憶なんて無い。

でも、流石に同じクラスだし、名前と顔くらいは一致してた。俺、人の顔覚えるの得意だし。名前聞いて、「あー、同じクラスの人」って言えるくらいには知ってる人だった。逆に言えばそれ以外何も知らなかった。


だから初めて隣の席になったときは、話題に困った。別に隣の席だから仲良くしなきゃとか、高校生にもなってそんな決まりは無かったけどさ。誰とでも仲良くなれる犬飼くん、って印象は崩しなくないなくらいの下心で、仲良くしとくかーみたいな気持ちはあったから。

その時話した時からだから、良く話すようになったきっかけは覚えてる。確か、CDショップの袋を持ってるのが見えたから「CDわざわざ買うんだね。何聴いてるの?」みたいな話をしたんだよね。そしたら、予想以上に食いついてきたから、笑っちゃってさ。あれ、この子と話したら面白いかも、みたいに思って。授業の合間の暇つぶしにいいかなーくらいの。


そんな軽い気持ちで関わろうとした、この時の俺は本当に何もわかっていなかった。


みょうじなまえという人間が、俺の世界の中心になってしまうことなんて。


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