少年少女
師匠って実はあれですね

「あれ?辻くんだけ?」
「…え、」

次の日、師匠に呼び出されて、私はまたボーダー本部に来ていた。まだ仮入隊なのにこんな頻繁に来て良い場所なのかわからないけど、呼び出されたんだからしょうがない。辻くんと待ってるから、と言う師匠との待ち合わせのラウンジに行くと、昨日出水たちと座っていたテーブルに、辻くんだけがいた。師匠は?と聞くと、なんで知らないのという顔をされた(様に見えた)ので、連絡来てるのかなとスマホを取り出す。

「あ、ごめん。師匠からライン来てた。『ちょっと急用出来たから辻ちゃんと待ってて』だって…」
「う、うん」
「とりあえず、ここ座って良い?」

辻くんの席の正面の席を指差すと、辻くんはすごい慌てていたけど、首を縦に振ったので肯定の意思であると捉えて、その席に座った。

昨日会った印象だけで言うのも良くない気はするが、師匠のことだから、急用でって言うけど、大した用じゃない気がする。

「…多分…、犬飼先輩、…大した用、じゃ、ない」
「まじか」

辻くんもそう思ってるあたり正解っぽい。
…わ〜、でもなんかすごい、意外。辻くんて、こういう時先輩立てて、思っても言わなそうだと思ってたけど。打ち解けてる人のことに対しては、はっきり言っちゃうんだ。別に対人スキル皆無って訳じゃ無いんだよね。きっと。

「てかさ、辻くんてなんで女の子と話せないの?男子とはちゃんと話せるんだよね?」
「え、…あ、あの、…えっと…」
「あー、ゆっくりでいいよ。どうせ師匠、しばらく来ないだろうし」
「…うん」

私の質問にわかりやすくどもる辻くんに一言添える。辻くんは何回か息を吸って吐いて、考えをまとめながらゆっくり話してくれた。

「…俺、男兄弟しか、いなくて…、それで…、身近にいた、女の人が、母親くらいで…」
「うんうん」
「だから…、女の人が何を、考えてるか、とか、わからなくて…、な、何を話せば良いのか、わからない…」
「そっかー…」

やっぱ対人スキル皆無って訳ではなさそう。女の子に対しては壁を感じてるだけで。
女の子が全員、女子だから、って特別なこと考えてるわけじゃないんだけどねー。

「私に関しては、かもしれないけど、女子だって全然大したこと考えてないからね?多分男子と同じだよ」
「う、うん」
「こないだもさ〜、米屋とセリフが被って、出水に『お前ら同じこと考え過ぎ』とか突っ込まれたくらいだから。そのセリフっていうのが放課後、一緒に帰ろうってなったとき、唐突に『あ〜アイス食べて〜』って言ったのが被っちゃってさ。別になんか食べて帰ろうとか話してたわけじゃなくてね?…だから出水が言ったんだろうけど」
「…うん、」
「ね、大したこと考えてないでしょ?」
「…そう、かもね」

ふふ、と小さく笑う辻くん。良かった、ウケたみたい。私も異性耐性が無い男の子と話すのなんて初めてだから探り探りだ。でも、出水や米屋みたいなノリで話していれば、私も話しやすいし、辻くんも話しやすい、ってことかな?

「うーんと、だから出水や米屋と同じように話してくれればいいからね」

そう言うと、辻くんもこくりとうなづく。

「…うん。…みょうじは、結構、話しやすい、かも…」
「…えっ?」
「え、」
「いや、あの、呼び捨てなんだなぁと思って」
「あ、ご、ごめん…!い、出水や米屋が、呼び捨て、だったから…」
「ううん!全然いいよ!呼びやすいように呼んでくれたら!うん!むしろ嬉しいって言うか…」
「嬉しい…?」
「うん!出水たちみたいに私と仲良くしてくれようとしてるって、わかるから嬉しいよ!」

思ったことをそのまま伝えると、辻くんも嬉しく思ってくれたのか、少しはにかんで頬を染める。
…なんか、その、男の子に言うのは微妙かと思うけど、すごい、かわいい。
イケメンやばいなぁ〜とか考えていたら、ラウンジの入り口の方から師匠が「お待たせー」とか言いながらゆっくり歩いてやって来た。

「なーに、ニヤニヤしてるの」
「ニヤニヤじゃないです、ニコニコ!」
「2人でも会話出来たみたいだね」

あ、もしかして師匠、私と辻くんで話せる様に、わざと2人にしてくれたのかな。
そう思っていると師匠はそのまま私に近寄って耳打ちする。

「でも条件は女の子と話せるように、だからね」

みょうじちゃんだけと話せるようになっても仕方ないよ、と。

「…師匠って意外とあれですね…」
「あれって何」
「上げて落とすって言うか…」
「みょうじちゃんが勘違いしないようにしてあげただけだよ」

やっぱり本当に急用だっただけかも。


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