少年少女
答えはNO

「ほわー!アステロイド!ずだだだーん!」
「させるか!孤月回旋!」
「や、槍を回転させて防いだだと?!」
「ふはは!お前がオレに勝つのはまだ早い」
「くそ…!ならば横から!」
「シールド」
「待って!シールドはずるい!私一つしかトリガー使えないんだから!」

出水の所属する隊の作戦室にあった訓練室で、3人にひと通りトリガーの使い方を教えてもらった私は、トリガーに慣れるために米屋と模擬戦ごっこをしてした。と、言っても訓練用トリガーと戦闘用じゃ性能が違いすぎるし、米屋と私じゃ経験値が違いすぎるから、一方的に遊んでもらってるような感じだ。

「おーい、お前ら、ちょっと」

離れていたところからそれを見ながら、何やら辻くんと話していた出水と呼ばれて、2人で駆け寄る。

「やばい、楽しい」
「それは良かったじゃん」
「基本的な扱い方はわかったみたいだしな」
「3人に教えてもらったしね。ありがとう」
「でもやっぱガンナートリガーはよくわかんねー」

オレと辻はアタッカーだし、出水はシューターだし、と後ろ頭を掻く米屋に対して、出水はにやにやしてる。「それなんだけどさ、辻と話してたんだけど」と、辻くんに言葉を促す。

「あの…師匠、」
「うん」
「う、うちの…い、ぬ…」
「…うちの犬?」

米屋はわかったみたいで「あー、なるほど」とか言ってる。
上手く話せない辻くんに代わって、出水が言うには。

「辻の隊の1個上の先輩が、あ、犬飼先輩っつーんだけど、ガンナーだからみょうじの師匠に良いんじゃねーって」
「おお〜、それは是非紹介して欲しい…!」
「犬飼先輩、引き受けてくれっかな?こういうの、めんどくさがりそうじゃね?」
「まぁ良いじゃんダメ元で。今、隊室にいるんだっけ?」
「…うん」
「行くだけ行ってみっか」
「おー!」




「答えは『NO』だね」
「ですよね〜」

4人でぞろぞろと辻くんの隊の部屋に行くと、犬飼先輩?が1人で待っていた。辻くんが他の人はと聞くと帰ったとのこと。
明るい髪色で悪戯好きそうな顔の犬飼先輩は、辻くんが連れてきたC級隊員が私、つまり女子だとわかると目を丸くして驚いていた。タイプじゃないけど、この人もイケメンだなぁ、とか勝手に思っているうちに、出水と米屋が事情を説明してくれたので、師匠をお願い出来ないかきいてみたところ、上記のセリフである。

「辻ちゃんが女の子連れてくるなんて、明日雪が降るかと思ったけど、そういうことか」
「どうにかお願いできませんか?」
「まず、俺にメリット無いしー」

出水の隊の部屋と違って、スッキリとした室内にあるテーブルの椅子に腰掛けている犬飼先輩。

「それに、他人が理由なんて信用出来ないし」

頭の後ろで手を組み、こちらを見てくる。表情は笑っているけど、目が笑ってない。

「だって、出水と米屋に言われたから、辻ちゃんが提案してくれたから、ここに来たんでしょう?別に自分の意志じゃないんでしょ?」

そんな人に俺が何かを教えたところで、意味があるの?と。
気まずい空気の中、口籠る3人が私を見てるのがわかる。

うう…、これは正直に思ってることを話そう。

「す、すみませんでした!確かに、きっかけは出水や米屋に言われたからです!でも、話を聞いたりして、強くなりたいって思ったのは自分の意思です!だから辻くんにも犬飼先輩紹介してほしいって頼んだのは自分です!出水や米屋や、辻くんは私に付き合ってくれただけです!…なんかここにいる皆に比べたら、ほんと私はショボいので強くなりたいとか言い出すの恥ずかしくて、言えなくて…その、ごめんなさい!」

そう言って思いっきり頭を下げた。色々恥ずかしくて、顔が赤くなるのがわかる。シン…、となる室内。お願い誰か何か言って。そう思ったとき、静寂を破ったのは、犬飼先輩の笑い声だった。

「あははは。俺、そういうつもりで言ったんじゃないけど、まぁいいや」
「え?」
「師匠、探してるんでしょ?いいよ、やってあげるよ」
「犬飼先輩いいんすか?」

ダメ元と言っていた出水がめっちゃ驚いて、米屋はやったじゃん!とか言いながら私の肩をバシッと叩いた。だから痛いっての。
それを楽しそうに見ながら、犬飼先輩はその代わり…と言葉を続けた。

「条件がある。だって、何もなしに引き受けたって、俺にメリット何にも無いし」
「どーぞ、どーぞ、なんなりとおっしゃってください」

他人事だと思って出水がテキトーな相槌を打っている。おい。

「1つ目はー、俺のこと師匠って呼んで」
「そんなことでいいなら…」

思った以上に簡単な条件で拍子抜けしてすっかり油断する私に、犬飼先輩はもう一つ、大変な条件を付けた。

「2つ目はね辻ちゃんの女の子苦手なの、治してもらおっか」
「え?」「はい?」「っ?!」「お〜」

「だってさー、辻ちゃんを女の子とスムーズに話せるくらいにしてくれるなら、今後の防衛任務とかランク戦とか楽になるじゃん」
「こいつで大丈夫ですかね」
「こいつで」

そう言いながら、私の両脇から出水と米屋が人のほっぺを突いてくる。

「まぁ辻ちゃんがこんだけ萎縮してるなら女の子って思ってるってことでしょ」
「…なんか失礼な会話してる自覚ありますー?」

そんな私たちの会話を聞いてオロオロしだす辻くんに、犬飼先輩は話しかける。

「辻ちゃんだって、今のままじゃ良くないのはわかってるでしょ?」
「…う…、はい」

うなづく辻くんに、よしよし、と犬飼先輩は満足そうに笑って、こちらを見た。

「というわけで、よろしくね、えーっと…」
「みょうじです」
「みょうじちゃん」

そうして、私に師匠と同時にボーダーに入って最初の重要課題が出来たのでした。


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