少年少女
イケメン紹介して

私はみょうじなまえ。三門市立第一高等学校に通う、ごくごく普通の高校生。…そう、この日までは……



「出水〜、米屋〜!」

高校の昼休みの教室はなかなかに騒がしい。その喧騒の中、いつものように出水と米屋は机を向かい合わせてお弁当を食べていた。友達とのお弁当タイムを終了させた私はそこにいつものように突撃する。

「ねぇ、イケメン紹介して」

毎度のセリフに顔をしかめたのは出水。

「お前またそれかよ」
「だってさぁ、周りの友達はみんな彼氏いるのに私はいないんだもん」
「それでイケメンを彼氏にしようって、みょうじもなかなか図々しいやつだな」

自販機のパックのジュースをすすりながら話を聞いていた米屋がニヤニヤしながら口を出す。

「だってさぁ、どうせならやっぱりイケメンがいいじゃん」
「気持ちは分かるけどな」
「京介は?この学校でイケメンって言ったらあいつだろ」
「え〜〜烏丸くん?出水、烏丸くん大好きだよね」
「大好きとかじゃなくて、京介でダメだったらいないだろ、イケメン」
「いや烏丸くんはイケメンだけどさ、年下じゃん」
「いいだろ、1個くらい」

出水も米屋もわかっていないな…。恋に恋する乙女には、その1個がとんでもなく大きいことに…。ふう、とわざとらしく溜息をついて、肩をすくめる。

「年上か同じ年が良い。贅沢言うなら、黒髪で身長高くてクール系のシュッとしてる感じ人が良い」
「本当贅沢だな!そんなやついるか?」

追加で注文を付けた私に、2人とも呆れ顔だ。でも、せっかく紹介してもらえるなら、うんと高望みしてみたっていいじゃんね?

「いるいる!駅でそんな感じのイケメン見かけたことある!」
「じゃあ、そいつでいいじゃん」
「いや、見かけただけで赤の他人だから…。ほら、学校にいなければボーダーとかでもいいからさ〜」
「ああ〜?ボーダーでもいいだぁ?」
「あ、じゃああいつは?」
「は?誰?」
「辻」
「辻?あ、辻か〜〜」

米屋が上げた名前に、出水が微妙そうな顔をする。確かにみょうじが好きそうなタイプだけどなぁ、と呟きながら。

「え、誰々、つじくんて」
「あいつは…まぁみょうじならいけたりしてな」
「すんなり話せたりしてな」

2人とも勝手に、うんうんとうなづきあいながら、ニヤニヤこっちをチラ見してくる。ん〜?どう言うこと?

「…なんか話が見えないけど、紹介出来そうな人がいるの?」
「つーか、民間人にほいほいとボーダー関係者紹介していいのか?」
「あ、それじゃん」

米屋がイイコト思い付いた、みたいな顔で私と出水を交互に見る。

「それってどれ?」
「みょうじが民間人だからボーダーの奴紹介出来ないんだろ?でもみょうじは紹介して欲しい」

ひとつひとつ事実を述べる米屋は、まぁ、それはね、なんて出水と一緒にうなづく私に、ある提案をした。


「だから、みょうじがボーダーに入ればいいじゃん」


米屋の突然の発言に、まず反応したのは出水。

「はー?米屋、みょうじだぞ」
「前からちょっと思ってたけど、みょうじならイケると思うんだけどなぁ」
「ボーダーかぁ」
「おい、興味湧いてるんじゃねーよ」

若干の難色を示す出水に、いや実は前からちょっと気になってたんだよね、なんて言うと、米屋がにやりと笑う。

「しか〜も、なんとナイスなタイミングで、来週入隊試験がある」
「うわ、そうだった〜」
「え、来週って急過ぎない?私、全然ボーダーの勉強とかしてないよ」
「そこはオレと出水でガッチリサポートしてやるからさ。な!」
「ったく、おれまで巻き込むなよ」
「あれ、出水も協力してくれるの?」
「どーせ決めたらやるだろ、お前らは」
「まーね」
「わかってんじゃん」
「それに赤点補習常連組のお前らだけで筆記がどうにかなる気がしない」
「えー!筆記もあるの?」
「あるある、でもあれよっぽどのことが無いと落とされないやつだろ?」
「よっぽどのことが起きそうなのがみょうじだからな」
「それもそうか。みょうじ頑張れ〜」
「なんで他人事なんだよ、米屋も手伝うんだろ?!」


こうして、ごくごく普通の高校生だったはずの私は『イケメンを紹介してもらうため』なんてとんでもなく不純な動機で、ボーダーに入隊することを決めたのだ。

「よし!目指せボーダー!目指せイケメン!」


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