少年少女
俺も、

二宮さんが立ち去ったのを見届けてから、3人で長めのため息を吐く。

びっくりした〜〜、と苦笑いする師匠に、辻くんが「どこから漏れたんでしょうね」とこぼした。

「出水じゃない?それか出水から聞いた太刀川さん」
「なるほど」

師匠と辻くんに、2人の言動から疑問に思った事を訊ねる。

「なんかマズかったんですか?」
「んー、どこから話せば良いのかな」
「最初からじゃないですか?」

少し神妙になる2人に、ゴクリと生唾を飲み込む。

「何かあったんですか?」
「あのね、うちの隊、本当はA級だったんだよ」
「え?」
「色々あって、隊員が減って、B級に降格させられたばっかりで、二宮さんはピリピリしてるし、弟子なんて増やしてる場合じゃなかったんだよねー」
「そ、そうだったんですね…。…え、私のこと、大丈夫なんですか?」
「コッソリならいいかなって。もう引き受けちゃったし。今さら辞めますーって言ったらみょうじちゃん困っちゃうでしょ?」
「はい。それは、もう、めちゃくちゃ」
「なんか二宮さんも認めてくれたみたいだし」
「よかった…。師匠、ありがとうございます」
「本当感謝してよ〜。期待してるからね」

ニヤリと笑って、私の肩に手を置いた師匠は、あ、と声を上げて「さっきの件で飲み物買い逃したんだった。買ってくるね」と、二宮隊の隊室を出て行った。また、辻くんと2人きりである。

「…辻くんもありがとう」
「え、なんで?」
「なんで、って。だって辻くんが紹介してくれなかったら、師匠とも出会ってないわけだし。師匠の話振りからして、出水や米屋の紹介だけじゃダメだったっぽいし。私が今頑張れてるのは辻くんのおかげかなぁ、って思うから。だから、ありがとう」
「いや、でも、そんな…」

ふと思った感謝を辻くんに伝えると、そんな私の言葉に謙遜してか、大きく首を振る辻くん。「私が言いたかっただけだから」と、気にしないでというつもりで声をかけた。

「お、俺も、ありがとう」
「へ?」

思い掛けない言葉にマヌケな声が出る。

「みょうじだったから、みょうじが真剣だったから、犬飼先輩も二宮さんも認めたんだと思う」

いつもは2人になっても、目を合わせてくれない辻くんが、真剣な表情でこちらを見ている。

「それなのに、お礼を言ってくれてありがとう」

そう言うと辻くんは、ハッと目が合っていることに気付き、慌てて視線を逸らして「俺も、俺が言いたかっただけだから…」と言った。

私が思ったことを伝えただけのつもりだったのに、その気持ちに120%で応えてくれる辻くん。
女子と話すのが苦手だという彼だからこそ、ちゃんと伝えてくれるその言葉は、裏表無い彼の本当の気持ちだ。

それが無性に嬉しくて、何故か泣きそうになって、なんて返したらいいか悩んで口ごもっていると、空気を読んでか読まずかタイミングよく師匠が戻ってきた。

そのまま師匠を含めて、またいつもどおりへと戻るが、私の心の中は別の事ばかりを考えていた。


ーー駄目だ。やっぱり、認めないと。

私は、辻くんのことが、好きだ。


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