少年少女
わかった
二宮さんの突然の発言に、師匠も辻くんも固まっている。
「え、あの、私とですか?私、まだ訓練生ですら無いですよ?」
「そんなこと百も承知だ」
二宮さんは、ため息と共に吐き出すように言う。
「当たり前だが、本気の勝負をするわけじゃない。この時期に犬飼がわざわざ弟子をとったと言うから、どんなやつか見たいだけだ」
なるほど…、と呟いていると、二宮さんが辻くんを一瞥する。
「辻、お前も入れ」
「えっ…」
「みょうじとお前と、俺だ」
突然の指名に慌てふためく辻くんを見て、師匠が代わりに訊ねた。
「何で辻ちゃんも何ですか?」
「犬飼が示した条件を考えるなら、何もおかしくないはずだ」
師匠が示した条件。師匠に教えてもらう代わりに、辻くんの女の子が苦手なのを治すこと。
「犬飼、わかってると思うが、お前は試合中口を出すなよ」
つまり、一応女子である私と辻くんで、師匠を介さずにどれだけ連携がとれるか見たいと言うことか。
「さっさと準備しろ」
二宮さんの言葉に辻くんと私は、慌ててトリガーをセットした。
二宮隊の訓練室に転送された私達は、とりあえず二宮さんから離れた位置まで移動する。
二宮さんの射程距離内に入らないように距離を取りながら、場所を悟られないように移動しつつ作戦を立てる、作戦。しかし、試合ログを見る限り、二宮さんに捕まるのも時間の問題だ。性急に作戦を立てないと。
しかも私は、誰かと組んで試合なんて初めてのことで。作戦を立てるほどの経験が無い。
無い頭で考えるなら、実力差を考えて、辻くんが攻めて私がアシストだ。
そう思った事を伝えると、辻くんが口を開いた。
「…多分、二宮さんも俺が攻めてみょうじがアシストだと思ってると思う」
「それが1番無難だよね」
「でも、二宮さんに勝つ、までは行かなくても一矢報いるならば、それじゃ駄目だ」
「じゃあ逆?」
辻くんは、そうだ、とうなづいて、続ける。得意分野で攻めるべきだ、と。
「…俺がアシストするから、みょうじは俺を気にしないでとにかく二宮さんに当てることだけ考えて」
俺を、信じて。辻くんの言葉に力一杯うなづいて「了解!」と言った次の瞬間、右斜め後ろからアステロイドが飛んでくる。
「おい、いつまでコソコソしてる」
姿を見せた二宮さんに突っ込んで行きながら、「辻くん!よろしく!」と叫んだ。そして「ま、任せて!」と、応える辻くん。
突っ込んで行く私に二宮さんからアステロイドが飛んで来るが、辻くんがシールドで防いでくれたので、そのまま突っ込む。
火力の差でシールドはバリンバリンと容易く壊れるが、気にしない。
その隙間を縫うように、こちらからもアステロイドを放つ。
辻くんは二宮さんの裏に回り、孤月で斬りつけようと振りかぶった。
…ところで、二宮さんが急に攻撃の手を止めた。
「わかった」
そう言った二宮さんを挟んで、辻くんと私は立ち尽くす。
「えっ、でもまだ」
「どう考えても俺の圧勝だ」
「まぁ、それはそうですけど…」
「戻るぞ」と言う二宮さんと共に、作戦室に戻る。
「途中で良かったんですか?」
「知りたいことはわかった。これ以上する必要は無い」
「知りたいこと?」
私の質問に「ああ、試合前に言ったことだ」と、二宮さんは答えた。
「精々頑張れ」
そして、私にはそう言って、「辻、まだまだ作戦に粗がある」「犬飼、自分の方が疎かになるような真似はするなよ」と、それぞれ師匠や辻くんにも一言言うと、隊室から出て行ってしまった。