少年少女
それもそうか

それからしばらく師匠に、主に実戦形式でトリガーの扱い方だったり、入隊後の訓練のやり方を教わった。入隊するとまずはC級の訓練生として活動するが、個人ランク戦で勝ったり、訓練で良い成績を出せばポイントが入る。例外はあるらしいが入隊時1000ポイント与えられるそれが、4000を超えればB級の正隊員になれるらしい。師匠はせっかく弟子にするなら私のことを最速でB級にする、と張り切っている。ということは。つまり。


「ほらほら〜、もうへばっちゃうのー?」
「いやだって、これでもう30戦連続ですよ?!」
「俺もじゃん」
「片手でも余裕で勝てる相手とやってる師匠と、全力でやって余裕で負けてる私と疲れ方が一緒なわけないじゃないですか…」
「しょうがないなぁ、じゃあ休憩ー!」

この一週間、師匠に暇さえあれば本部に呼び出され、文字通り蜂の巣になる毎日である。
師匠たちの隊の訓練室から、作戦室に戻る。

「お疲れ様」
「あ、辻くん。ありがとう」

作戦室には辻くんもいた。この一週間、師匠のところに通っていた甲斐あってか、辻くんとは挨拶くらいなら普通に話せるようになっていた。

「俺、飲み物買ってくるね」
「犬飼先輩、俺行ってきましょうか?」
「あー、いいよ、辻ちゃんはみょうじちゃんとおしゃべりでもしてて」

モニター前のテーブルセットの椅子に3人で腰掛けたところで、急に師匠が立ち上がり、自販機を目指して退室してしまった。
辻くんと話せるようになってきたとはいえ、二人きりで話すのには、まだ少し壁を感じるので、ほんのり気まずい。

「そ、そういえば、この前のランク戦、大活躍だったね」
「え、あ、ありがとう…よく観てるね…」

師匠に観るのも勉強になるから、と、ランク戦のログも観させられていた。

「二宮隊のは特に何回も観させてもらってるからさー」
「犬飼先輩がいるもんね」
「え?師匠?」
「…犬飼先輩の戦い方を目標にしてるんじゃないの?」
「あ、そ、そうそう。そうなんだよ」

どうせ観るなら観てて楽しい方が良いからって、辻くんが戦っているところがカッコ良くて何回も繰り返し観ている、っては流石にバレたら恥ずかしい。

「話戻すけど、辻くん、アシストめっちゃ上手いよね!この前のランク戦もさ、」
「ああ、うん…」
「どうしたの?」
「あ、えっと…他の隊のもログ観てる?」
「うん。観てるよー」

なんか私の発言から若干表情が曇る辻くん。質問の真意がわからないけど、基本的にログは観てて楽しいから色々観ているので、とりあえずうなづく。

「他の隊ってアタッカーはアシストメインじゃないけど、俺は違うから」
「あっ…」

じゃあ私の発言、コンプレックス直球ど真ん中だったってこと?

「ランク戦でもアシストってそんなにポイント稼げないから、個人戦でポイント稼いでやっとマスターになった、って感じだし」
「えっ、じゃあ普通にすごいじゃん」
「え…?」

特に何も考えずに、スルッと出た言葉に自分でも驚く。でも嘘はついてない。私同様驚いた表情の辻くんに、そのまま続けて思ったことを伝える。

「あ、ごめん。私、ご存知の通りボーダー入ったばっかりで全然詳しく無いから的はずれなこと言うかも知れないけどいい?」
「うん」
「他のアタッカーの人たちがランク戦で稼いでる分、辻くんは他の努力を積み重ねたってことでしょ?」
「…そうかな」
「そうだよ。それに二宮隊の戦い方観てると、アシストで活躍するっていうのが辻くんの役割なのかなぁって。何人も人が集まるところだと自分が納得出来ない役回りになっちゃうこともあると思うけど、でも、こんなすごい隊の中で役に立ててるって本当にすごいことだと思う…」
「俺も嫌だってわけじゃないけど、他と比べると、って思って…どうしても悲観的に考えてしまうんだよね…」
「辻くんには辻くんの良いところがあるよ」

月並みな言葉で申し訳ないけど。そう思うから。

「それにね、辻くんが他のアタッカーみたいになって欲しかったら、師匠とか、あと会ったこと無いけど多分隊長さんも言うと思うよ。ログ観てるとそう思う」

ど素人の私の言葉を辻くんがあんまり真剣に聴いてくれるから、少し恥ずかしくなって冗談を言ってしまうが、辻くんは「それもそうか」とはにかんだ。

「うん」
「みょうじ、ありがとう」

お礼を言われるほどのことは言ってないと思うけど、辻くんがさっきよりも納得したような顔をしたので、良いってことにしよう。
辻くんと自然に目が合って、お互い微笑み合って、それに照れて恥ずかしがる、って言う、師匠が見てたら完全にからかわれそうな状況の中、突然、廊下の方から騒がしい音がした。キョトンとした辻くんと顔を見合わせていると、バンッ!と師匠が二宮隊の隊室に飛び込んで来る。

「や、やばい、みょうじちゃん帰って!」
「え?」
「犬飼先輩、どうしたんですか?」
「とにかくみょうじちゃんがここにいるとマズイ」

入り口のところで、ごめん!と謝る師匠の後ろに、長身の男性が立っていた。

「何がマズイんだ、犬飼」
「に、二宮さん…」

ギョッとした顔で振り向いた師匠の発言から、その人が二宮隊の隊長さんと言うことらしい。画面上では散々観てきたが、本人と対面するのは初めてだ。
挨拶をしようと立ち上がったが、師匠と辻くんの表情から、私が二宮さんと会うのはまずかったっぽい。ど、どうしたらいいんだ…?

「お前がみょうじか」
「は、はい!」

二宮さんに話しかけられ、気を付け!の体勢になる。二宮さんは「俺は二宮隊の二宮だ」と軽く自己紹介してくれたが、問題はその後の発言だった。

「みょうじ、俺と勝負しろ」
「はい!…ん?…え、ええええ?!」


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