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▽アンケート6位
だから義理だから


「さて、どうしたものか…」

街がにわかに活気付く2月13日。そう、明日はバレンタインデー。本命チョコをあげるような恋人も想い人もいない私が、放課後にデパートのバレンタインデー特設チョコレート売り場の前で頭を抱えているのには訳があった。

隣の席の犬飼との勝負、今日の英語の小テストで負けてしまったからだ。今回、犬飼の指定した罰ゲームは「犬飼に本命チョコをあげること」だった。義理チョコじゃダメらしい。犬飼が本命の相手と想定して、《本命チョコ》を渡さないとなんだって。
全く誰得な罰ゲームだよ。
だいたい、本命ってことにして適当に選んだやつだって、犬飼にはわからないだろうに。って、わかりつつも、適当に選べないのが私の悪いところというか、良いところというか。馬鹿真面目っていうか。それもわかった上での罰ゲームなんだろうな…。そう思うと二重に悔しい…。

まぁとりあえずさっさと選ぼう。

そう思って浮き足立つようなピンクな雰囲気漂う売り場に単身乗り込んだのだった。


▽ ▽ ▽


そして当日。
会ったらさっさと渡して、この罰ゲームを終わりにしよう。

そう思っていたのに。


「おはよー、みょうじ」
「あ、犬飼、おはよう」

朝、教室に向かう途中、後ろから犬飼に声をかけられた。

ほら、良いタイミングじゃん。今渡しなよ自分!

ただ犬飼にチョコを渡すだけで良いはずなのに、妙に緊張する。昨日真剣に犬飼のことを考えて選んだ分、これで良かったのかとか、喜んでもらえなかったらどうしようとか、罰ゲームとは関係無い、どうでもいいことばかり頭の中に浮かぶ。

「みょうじ、そわそわしてどうしたの?あ、罰ゲーム忘れた?」
「忘れてないし!持ってきたよ」
「じゃあ、ちょうだい。みょうじの本命チョコ」

本命チョコというワードに反応する周りの目も気になるけど、これで躊躇ったら、本当に本命みたいじゃあないか。

人の気も知らずニヤニヤしてくる犬飼に、昨日頑張って選んだチョコを渡す。

「ありがとう。みょうじからもらえて嬉しいよ」

さっきまでのニヤニヤとは打って変わって、他の女子にするみたいに爽やかに笑った犬飼に、ドキドキする。

違うから。犬飼がいつもと違う顔するからびっくりしただけだから。

誰にという訳じゃないけど、心の中で言い訳をする。

こうなることまでわかってて、犬飼がこんな罰ゲームにしたのだとしたら。本当に、本当に悔しい。


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