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▽req→隠岐で恋人×クリスマス
せっかくのクリスマスだというのに、非リア充な隊長の鶴の一声で防衛任務をガッツリ入れられてしまった私には、実は彼氏がいる。任務が終わった事をメッセージアプリで報告して、本部からの帰路ゆーっくりと歩く。しばらくして、後ろから駆け寄る聞き慣れた足音に振り返ると彼氏だった。「お疲れさん」と声をかけられる。
「隠岐、」
「終わるの早いわ〜」
「隊長がクリスマスだからって任務後のミーティング、後日にしてくれたからさ」
隊長が任務入れたくせに、とぼやくと、隠岐は「まぁ、お陰さんで早帰れるやん」と笑う。
隠岐も本部に居たのは、私たちが任務の間、生駒隊は、隊室でクリスマス会をすると言っていたからだ。スカウトされて県外からボーダーに来ている人が多いので、家族とのクリスマスの代わりらしい。
「抜け出すの早かったね」
「スマホ見た途端、抜け出してもうたからめっちゃ不審やったと思う」
「そんな慌てなくても良かったのに」
「だってなまえに早く会いたいやん」
サラッと歯の浮くようなセリフを言っても、様になるからイケメンはずるい。照れ臭くて話題を変えようと、どう言って抜け出して来たのかたずねた。
「飲み物足らなそうやから買い足して来ますー、言うて来たわ」
「なるほど」
「イコさんや海は疑問持っとらん感じやったけど、水上先輩やマリオは怪しんどったあなぁ」
「あはは…、まぁ大丈夫でしょ」
こっそり付き合っている私たちは、帰りに送ってもらうのにも、こうやって偶然を装って、友達の距離感で歩く。
別にボーダーは恋愛禁止とかではないのに、付き合ってるのが秘密なのは、隠岐がボーダーで頑張るためにこっちに来てるから、ということにしてる。本当は、絶対からかわれるからとか、それが恥ずかしいからとか、隠岐のファンが怖いからっていうのもあるんだけどさ。
幸い、高校のクラスが同じだったり、うちの隊は生駒隊と合同防衛任務したりする機会が多いので、私たちが「帰りと買い出しのタイミングが偶然一緒になったから、2人で歩いている」状況になったところで疑問に思う人はいない。怪しむ水上先輩やマリオちゃんから見てもカップルには見えないはず。
まぁでも、せっかく付き合っているのに、人目のあるところで恋人らしいことが出来ないのは、少し寂しくもある。しかも、今日はクリスマス。周りには恋人たちがあふれ、みんな楽しそうだ。街路樹に巻かれたイルミネーションに照らされて、どの顔もキラキラ輝いている。
腕を組んだり、手を繋ぎ歩く周りのカップルと、自分たちの一人分空いた距離感を見比べるとため息が出そうだ。多分私たち、浮いてるよなぁ。なんとなく隠岐を見ると「なんやねん」と言われた。
「なまえが、恥ずかしいから外では友達の振りしよう言うたのに、なんでそない寂しそうな顔しとんねん」
「…顔に出てた?」
「ほんまわかりやすいで」
「え〜、なんかやだなぁ」
「ほな、しゃーないな」
そういうと隠岐は、私の手を取り指を絡めた。所謂恋人繋ぎってやつだ。
「えっ、何、」
「繋ぎたかったんちゃうん?」
「バレちゃうじゃん…」
「おれはバレてもええんやけどなぁ」
「そんなこと言われても…」
「まぁ、こんな日やし、誰も周りの状況なんて確認しとらんやろ」
「そうかなぁ…」
恥ずかしさから渋ってみたものの、繋がった手から伝わる体温が、ポカポカと心も温める。なんだか嬉しくなってニヤける口元をマフラーで隠すが、隠岐にはばっちり見られていて。
「何ニヤけとんねん」
「なんかさ、幸せだなぁって思って」
不審がる隠岐に素直に答えると、今度は隠岐が繋いだ手とは反対の手で顔を隠した。
「隠岐?」
「あー、なんやねん、反則やろ、それ」
そう言って少し立ち止まって何か考え込む隠岐。
「なまえ、この後、なんも予定無いんやろ?」
「う、うん」
私が返事をした途端、隠岐はスマホを取り出し電話をかけた。
「もしもしイコさん?すんませんが、用事出来たんで戻りませんわー」
「え?」
「言い訳は後でしますんで、ほな」
イコさんにかけたらしい電話の向こう側からは、わーわーと騒がしく理由を問う声が聞こえるが、隠岐は適当に切り上げてあっさり切った。
「良かったの?」
「せっかくやし、クリスマス楽しまんとな」
そして、握ったままの手に少し力を入れて、「やっぱなまえと一緒におりたいやん」と言う。
「ごめんね」
「ごめんやないやろ」
「…ありがとう?」
「うん、それでええやん」
「どこ行きたい?」と聞いてくれる隠岐に、「隠岐とだったらどこでもいいよ」なんて言ったら怒られちゃうかな。でも、本当にそう思うんだ。諦めかけてた隠岐とのクリスマス。やっぱり一緒に過ごせるなんて、本当に嬉しくて、楽しくて、どこにいたって、何をしたって絶対幸せなんだよ。
そんな今の私たちを見たら、さっき見かけたカップルたちみたいにキラキラ輝いているといいなぁ。
私も強く隠岐の手を握り返し、2人でイルミネーション輝く街の中に溶け込んでいった。