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▽req→出水か二宮×おまかせ


新年が明けた途端、挨拶が送られてくるLINEを適当に返信していると、その中で槍バカからは挨拶だけでなかった。曰く、暇な奴に声掛けて、初日の出をボーダー本部の屋上で見ようぜ、とのこと。既に眠かったし、元旦から防衛任務も入っていたので断ろうと文面を考えていると、追加で送られてくるメッセージ。

“みょうじも誘うから来いよ”

画面の向こうでニヤけていそうな米屋を想像して、最近みょうじと良い感じかもしれないなんて言った自分を後悔する。でも、そうは思ってもやっぱり、みょうじに会いたい気持ちも否定出来なくて。みょうじが本当に来るかわからないが、とりあえず行く意思を伝えると、集合時間が送られてきた。


気持ちが逸って、集合時間よりかなり早めに本部に着いた。まだ屋上に行くには寒いし、早いかなと思ってラウンジに行きながら、米屋にLINEを送る。

“本部着いたけど、お前いつ来る?”
“お前ら早くね?まだ家だっつーの”

お前ら?おれ以外にも、もう来てるの奴いるのか?そうメッセージを打っていると「あ、」と声が聞こえた。スマホを見ていた顔を上げると、目の前にみょうじが立っていた。あけおめ〜、とみょうじと言い合う。

「出水、来るの早いね」
「みょうじも早いだろ」
「うん、まあね」

自然と二人で並んで、ラウンジに向かう。米屋への返信を書き換えようとスマホを弄ろうとすると、先にみょうじが「米屋、まだ家だって」と言った。おれといるのに米屋の名前を出したのが、何となく面白くなくて、「知ってる」と答えた声は少し冷たくなってしまった。やべ、と思ってみょうじを見るが、あまり気にしていないっぽい。変に気にされても困るが、これはこれで寂しい。勝手に落ち込んだ。

「…お前、米屋と仲良かったんだな」
「え?そうかな?出水と似たようなもんでしょ」

話題を変えたかったけど、結局自分も米屋の話を振ってしまう。しかも、おれの方が仲良いと思ってたのに、同じとか言われるし。

ラウンジの適当なテーブルについて、特に何を話すでもなくグダグダと時間を潰す。

集合時間が近づいても、他の奴どころか米屋も姿を現さない。つか、他のメンバーって誰が来るんだ?それすらわからない。みょうじも疑問に思ったのか「誰も来ないね」と言った。

「ちょっと槍バカに電話してみるわ」
「よろしく」

米屋は2コール目であっさり電話に出た。

「槍バカお前今どこだよ?!」
『あ〜、まだ家』
「はぁ?てか他の奴って誰来んの?誰も来ねぇんだけど」
『そりゃそーだ』

電話の向こうで笑う米屋。

『だってお前らしか誘ってないし』
「…は?どういうことだよ」
『お前ら見ててもどかしいんだよ。間に挟まれてるオレの気にもなれよな〜』

『じゃ、頑張れよ』そう言って米屋は電話を切った。
呆然とスマホを耳から離して眺めるおれにみょうじが「米屋なんだって?」と聞いてきた。…いやいやいや、なんて答えたらいいんだよ。つーか、米屋の意味深な言葉を反芻して、期待する。

「みょうじ、」
「何?」
「米屋は来ない」
「え?なんで?」
「それどころか、誰も来ない」
「…は?」

完全におれと同じ反応をした後、みるみるうちに顔を赤く染めるみょうじ。

「みょうじはさぁ、米屋になんて誘われた?」

モゴモゴと恥ずかしそうに口籠る、みょうじのその反応で期待は確信になる。

「とりあえず、2人だけだけど、初日の出見る?」
「…うん」

屋上で2人並んでいると、スマホで調べた予定時間通りに、街並みの奥から太陽が顔を覗かせる。予想以上の美しさを噛み締めていると、みょうじが日の出の方を見ながら呟くので、おれはみょうじを見た。日の出以上に、朝日に照らされたみょうじが綺麗でびっくりする。

「出水、さっきの答えだけど」
「え?」
「米屋には、出水も呼んだからって言われたから、来たの」
「…おれも」
「そ、それで、出水に会えると思ったから、本部に着くのすごく早くなっちゃったの」

そう言って、みょうじを見ていたおれの方を見た。目が合って、それだけで、もう、お互いに何も言わなくてもわかっていた。
新年初めての朝日に照らされながら、おれたちは、2人にとって初めてのキスをした。



画して米屋の策略で、おれたちは付き合う事になったのだが。新年早々、おれたちが初日の出デートをしていたとか噂を流した米屋。チョークスリーパーを決めながら、小声で一応お礼を言っておくと、それを聞いた米屋が必要以上にニヤニヤした所為で「米屋はプロレス技をかけられて喜ぶ変態」という噂が広まったが、それはおれの責任ではないよな?


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