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「ねぇ、私、治のこと好きなんだけど」


部活の帰りに治に会って、特に約束を交わしたわけでもなかったが、一緒に帰る流れになった。

そう、約束をしたわけではない。でも、これが昨日も今日も、ここ最近ずっとなのだ。多分、明日も。

確かに部活の終わる時間が毎日同じなのだから、同じくらいの時間にはなるが、多少のズレはある。それでも偶然は続くのだ。

だからこれは必然なのかと考えるのは自然なことで。

治は私の気持ちを知ってのことなのかと思ったが、反応は薄い。隣を歩く私を一瞥して「ふ〜ん…」と呟いただけで、また前を向いてしまった。表情も変わらず。

なーんだ。治も同じ気持ちかと思ったけど。違うのか。
ただの偶然が重なっただけなのか。

あからさまに残念がるのも癪なので、表情を変えないようにこっそり落ち込む。

やけ食いするためにコンビニでも寄ろうか、そう考えて治に声をかけようとする。でも先に声を発したのは治だった。


「ほな、明日からは偶然なんて装わんでも、一緒に帰れるっちゅうことやんなぁ」
「え?」
「ここでなんで、え?ってなんねん」
「治も私のこと、好きだったんだ」
「あほか、ちゃうわ」
「ち、違うの?確かに言われてないけど…」
「俺がなまえんこと好きなんやろ。後出しみたいに言わんといて」


「俺が先に言おう思っとったのに」そう呟きながら拗ねたその顔を見て確信する。なんだ。反応が薄かったのは、私に先を越されたみたいで悔しかっただけか。

やっぱり偶然は、必然だったみたい。
そして、明日からは偶然を期待してなくたって良いのだ。

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