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「三輪くんて笑ったら可愛いって言われない?」
放課後、学校からボーダーの本部に向かうときに陽介がクラスメイトだと言って連れてきた女は、自己紹介もそこそこにそんなことを言い出す。
今日は色々と朝からついていなくて、陽介がクラスメイトを連れて来たという、こんな少しの変化がとても鬱陶しくて仕方なかった。その上に、そのクラスメイトが面倒なことを言ってくるこの状況は最悪だとか言いようが無い。
「…いや」
「なまえ、お前スゲーわ」
素っ気なく返したが、陽介が「普通思わねーし、思ったところで秀次に言えねーよ」と言いながら、その女の肩を笑いながら叩くので、その女、みょうじなまえは続けた。
「そうかな?三輪くん、絶対笑ったら可愛い顔してるのに」
不思議そうに首をかしげるみょうじを見ながら、思い出す。
本当は、言われたことはあった。
いや、何回も言われていた。
姉さんが生きていた頃は、俺も人並みに笑っていたと思う。
そして、その顔を見た姉さんがよく言っていたのだ。
『秀次は笑うと可愛いね』
そう、幸せそうに笑うのだ。
可愛いなんて言われても嬉しくない、とその度に答えたのも、今では、残酷な思い出なのだ。
何も知らないみょうじは、繰り返した。
「絶対笑うと可愛いよ」
そう言って笑った顔が、ほんの少し、姉さんに重なって見えて。
擦り切れそうなほど、頭の中で繰り返した姉さんの声が、みょうじと重なって掻き消されてしまいそうだった。
陽介とみょうじは違う話題で盛り上がっていて、既に俺のことからは関心がそれていたようだった。楽しそうに笑う2人の声を遠くに聞きながら、俺はみょうじは苦手なタイプの人間と判断して小さく舌打ちをした。
まぁみょうじとは今までもこれからも特に接点は無いだろうから、今を乗り切って仕舞えばいい。
そう考えていたのに。
その後の会話で陽介がみょうじを連れて来たのがボーダーに入れるためと知って、俺は、今度ははっきりと舌打ちをする。
陽介はまた笑って、みょうじは少し怒った。
今日はやはりついていない。
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某サインでの笑顔の三輪を見て。
お姉さん生きてた頃はあんな感じに全力で笑ってたのかなぁという妄想。