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※及川の義理の妹。
※メリーバットエンドっぽい。
とおるくん、俺のことをそう呼んでいた義理の妹であるなまえはいつの間にか「お兄ちゃん」と呼ぶようになった。普通に考えれば、むしろ喜ばしいことだろう。他人だった俺たちが、ちゃんと兄妹になった証明みたいなものだ。外から見たら理想の兄妹だ。血は繋がっていなくても、お互いを思いやる。でも俺はそんな「兄妹である」ということで壁を作られたように感じずにはいられなかった。
俺となまえが兄妹となったのは、ありきたりだが両親の再婚だった。新しく母親となる人が連れてきたのは、俺の一つ年下の女の子だった。
最初は妹というより弟みたいな扱いで、よく岩ちゃんと一緒になってなまえを連れ回したりした。
初めてなまえを女の子と意識したのは、俺が中2、なまえが中1のときだった。
その日は今でも鮮明に思い出せる。俺の初めての彼女と初めてキスをした日だったからだ。浮き足立ったまま家に帰ってきて、なまえに「どうしたの?良い事でもあった?」と聞かれて、どう返そうかとなまえを見た。
そのとき、彼女と同じように「とおるくん」と呼ぶ、歳の近い血の繋がらない女の子と一緒に暮らしているという事実が、今更のように衝撃になって身体を突き抜けていったのだ。
最初は中学生特有の下心からくる欲求だと思っていた。
しかし、それから彼女と上手くいかなくなり、別れて、また付き合ったり、別れたりをしばらく繰り返すうちに、やっと俺はなまえを一人の女の子としてみていることに気がついた。だけど、妹を女の子として思っているなんて、岩ちゃんにも言えなくて、色んな女の子と付き合うことで、自分のなまえに対する気持ちを紛らわそうとしていた。
そして、ちょうどその頃からなまえは俺のことを「お兄ちゃん」と呼びだした。
どうして今更ときくと、「女の子たちからの嫉妬がすごいから兄妹だから仕方ないって思ってもらおうと思って」
それからなまえと俺が兄妹だという事実は浸透していき、俺と付き合ったり、俺に好意を寄せてくれる女の子たちからの嫉妬は、なまえに向かなくなっていった。
周りが、自分が、なまえと兄妹であるということを認識していく程に、なまえが俺を「お兄ちゃん」と呼ぶたびに、どこか拒絶されているような気がしてたまらなかった。
でも、この気持ちは健全ではない。
何よりも幸せそうな両親を裏切るなんてことをしたくなかった。
兄妹であることが一番幸せなんだ。自分にそう言い聞かせていたのに。
「お、お兄ちゃん」
戸惑うなまえが腕の中にいて、困った声で俺を「お兄ちゃん」と呼んでいる。俺は早くこの腕を離して、なんでもないよ、と誤魔化さないといけない。わかっているのに、それなのに、口から出たのは違う言葉だ。
「ね、その、お兄ちゃんってやめない?」
「え?」
「また名前で呼んでよ」
「俺はなまえの兄なんて嫌だよ」
「もっと、近いところに行きたい」
そのままなまえを抱きしめている腕に力を込めた。なまえが小さく息を飲むのがわかった。泣きそうなんだろう。
「と、とおるくん、」
なまえはゆっくり、躊躇いながら俺の背中に腕を回して、懐かしい呼び方で俺を呼ぶ。柔らかい肌を感じて、俺は目を閉じた。
その日俺たちは、“兄妹”ではなくなったのだ。
守りたいなんて嘘だよ。
ほんとうはずっと壊したがってる。