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※幸せとは程遠い。
※高校卒業から数年経ってます。
「今は恋愛とか付き合うとか考えられないんだ。ごめん」
一世一代の大告白。
でもそれは、こっちの都合だけの話。まぁね、部活頑張ってるもんね。今は辛いけど、大丈夫。きっとそのうち忘れる痛みだ。
そう思って、諦めることにした。
それなのに。
不愉快なあたたかさ
「あのさ、みょうじ。今だから言えるんだけど、その、ごめん」
あの告白から、高校を卒業してからもう何年か経って。もう失恋の痛みも、菅原くんへの恋心もすっかり忘れてしまった頃。クラス会でもしようぜ、と集まった居酒屋。到着した順に詰めて座ったら、偶然、隣の席が菅原くんだった。
出席予定者が全員揃って、幹事の乾杯の音頭でグラスを合わせる。それぞれが、近くの席の人と近況報告だったり、学生時代の思い出を語り合うなか、菅原くんは少し気まずそうだった。ただ単に、私が隣だからなのかと思ったけれど、菅原くんは「ずっとみょうじに言いたいことがあったんだ」と言う。
きっと、この衝撃は、一生忘れられないだろう。
「あのときは言い出しにくくて言えなかったけど、あの頃、あの子と付き合ってたんだ」
衝撃と共にお腹に冷たい塊が落ちていくような感覚、手足が痺れる。
(ねぇ、なんで)
菅原くんは眉尻を下げて、本当に申し訳なさそう顔をしている。それでも視線だけは真っ直ぐこちらを向いていた。
「やっぱり黙ってるなんて出来ないと思って」
周りの人たちも会話に花を咲かせていて、それなりに騒がしいはずなのに、私の周りだけ、音がしない。
(ねぇ、どうして)
菅原くんの声だけが、心臓に響く。
「本当にごめん」
視線を逸らして、少しだけ俯いて自分の握った手を見つめる。指先の感覚はもうほとんどない。
(どうして一生内緒にしてくれなかったの。どうしてその時言ってくれなかったの)
ああ、貴方から見た私は、さぞ面白おかしく踊っていたでしょうね。「恋愛に興味がない」だなんて。ただの大嘘付きじゃない。
それとも、それは優しさだったんだろうか。
私がちゃんと諦めるようになのか、私が彼女に何かしないようになのかはわからないけれど。
だけど、そんな優しさは優しさなんかじゃないからね。
(自己満足の自意識過剰だよ。そんなの、気持ち悪いだけなんだよ)
どうせ隠すなら一生黙っていてくれれば良かったのに。どうせ話すならその時に伝えてくれれば良かったのに。そうすれば思春期のほろ苦い思い出で終わったのに。
ねぇ、誰にでもいい顔したいだけなんでしょ?もしかして、隠し事をしたという罪の意識から逃れたいだけ?それとも、わざと嫌われようとしてる?
(もう何もかもが嘘のようで、どんな言葉も薄っぺらい)
その優しさが好きだったけど、今更そんな「ごめん」は要らなかったよ。
(嘘、嘘だよ。全て私の被害妄想。あの頃の私たちは幼くて、何が正しいかもわからなくて、それでも精一杯生きていたの。そうだよ、菅原くんもきっと、そう)
ぐちゃぐちゃとお腹の底から滲むように湧き上がる気持ちを全て丸めて飲み込んで、本当の感情は笑顔で隠して、私は。
「そっか。謝らなくていいよ。もう全然気にしてないから」
彼のホッとした顔を見て、こんなに悲しくなる日が来るなんて思わなかった。
(時間の流れとは恐ろしいものね。私もこんなに嘘が上手になりました)
こぼれそうな涙に気付かれないように、わざと大袈裟にグラスを傾けて、その中身を煽った。
泣きたくなったのも、切なくなったのも、みんな懐かしさとお酒の所為よ。
(ばいばい、あの日の菅原くん。もう今じゃ思い出せないくらい、遠い記憶になってしまったけれど。きっと、多分、大好きでした)