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「いい加減、機嫌直せよ」
めんどくさそうに呟く清志を一瞥して、あたしは腕を組み直した。
ぐずぐず喧嘩の期間が続いていて、最早始まりがなんだったのかさえ覚えていないけど、あたしが悪くないのは確か。じゃなかったらこんなに怒ってない。たぶん。いや、本当はもう怒ってなんかない。あんまりにも喧嘩が長くって、謝るタイミングがわかんなくなっちゃっただけ。せっかく清志から歩み寄ってくれてるのに、天邪鬼なあたしは、そっぽ向いてしまうのだ。もう何にイライラしてるのかもわからなくて、なんだか泣けてくる。鼻の奥がツンと痛い。涙目になっているのがばれないように下を向く。
「オレが悪かったから」
「何が悪いのか絶対わかってないでしょ」
ああもう、こんなことが言いたいんじゃないのに。もう悪いとか悪くないとかどうでも良くて、また元通り一緒に笑いたいのに。素直になれないあたしの口から魔法の様に心にもない言葉が飛び立って、清志の機嫌も段々悪くなっていってるのは明らかだ。もともと気が長い方ではない清志から謝ってくれただけでも充分なはずだったのに。
上から深い溜息が下りてきて、ああ、もうだめだ。清志を完全に怒らせてしまった。
涙が零れないように、ぎゅっと目をつぶって服の裾を握る。
「清志だって怒ってるでしょ」
「怒ってねーよ」
ほら、声怖いし、舌打ちしてるし。怒ってるじゃん、そう言おうとした言葉は、清志に抱き寄せられたことによって、飲み込みざるを得なかった。
「…え?」
清志の胸に顔をうずめている状態でぎゅっと腕に力を込められた。
「つーかさ、怒ってるとしたら自分にだっつーの。こんな喧嘩でさ、まともに仲直りも出来ねぇとか」
少し拗ねた声が上から降り注ぐ。
「ねぇ、」
「なんだよ…」
「なんで喧嘩したんだっけ?」
「はぁー?」
お前じゃあ何にヘソ曲げてたんだよ、とか、結局あたしも怒られてしまった。
「清志と、一緒かな?」
「んーだよ」
あたしも自分の服の裾を掴んでいた腕を、清志の背中に回して抱きつく。そのまま上を向いて、清志の表情を見た。
そっぽを向いていたが、緊張が解けたようなホッとした顔。あたしと仲直り出来て、安心したのかな。
なんだか、嬉しくなって、また清志の胸元に顔を押し付ける。そのまま深呼吸すると、身体中が清志でいっぱいになったみたいだった。
「清志、好き」
「はっ?えー、あー」
「ちょ、そこは『俺も好きだよ、キリッ』とかでしょ?」
「はー、うぜぇー」
「もー、なんで笑うの!」
「いや別に」
やっぱまだちょっとムカつく。