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あの子に彼氏が出来たとウワサがたった。気になっている人がいるとは聞いていたけど、まさか、本当に、もう、付き合っているのか。


「え、誰に聞いたの?実はそーなんだよ」


下世話な友達の質問に答える彼女の声に、教室の隅の自分の席からこっそり聞き耳を立てる。照れくさそうに笑って頷く彼女は本当に幸せそうだ。


そうだ。

これから彼女はきっとあいつと、一緒に昼飯食べたり、帰る時間合わせたり、デートしたり、手を繋いだり、テスト勉強したり、一緒に笑ったり、喧嘩したり、ヤキモチ焼いたり、キスしたり、その先のことをしたり。たくさんの思い出や経験や新しい感情を、あいつと共有していくんだろう。そして、彼女はそれをとても幸せと感じるんだ。そのとき、俺のことなんて頭の奥の隅の端っこにすらない。その幸せな気持ちのとき、彼女の中に俺は存在すらしないんだ。俺は少しの勇気すら湧かないばかりに、俺にとって彼女は好きな人という主役級の登場人物だが、彼女のシナリオの中で俺は、クラスメイトCとかD、ひょっとしたらYとかZでしかないんだ。


その至極当然のことが、とても苦しくて、一方的な気持ちだったくせに、彼女の笑う声が俺を裏切った様な気がして、もうどうしようもない気持ちで、どうせなら最初から彼女のことを知りたくなかったなんて、今更のことを思って俺は机に伏せている。

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