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巷に溢れるラブソングが心に響かなくなったのはいつからだろうか。自分の中の「好き」がわからなくなったのは、恋愛ドラマがつまらなくなったのは、少女漫画にときめくことが出来なくなったのは、いったい、いつからだったのだろうか。
彼氏と電話してるって言うのに、とても冷たい気持ちだった。
―まぁ、内容は別れ話なんだけど。
予想以上に今の自分を冷めた目で客観視しながら、理由を乞う声を、電話を切ると言う単純な作業で消した。
「やだー、なまえったら、顔青いわよ」
そう言ったのは、中学高校と仲の良い実渕玲央で、昔からあたしの恋愛に首突っ込んで、説教したり励ましたりしてくれた。
彼氏へ電話する前、呼び出して『あたし一人じゃ余計なこと言いそう。』と、言ったら、『…しかたないわね。私が一緒にいてあげるから』 と、言ってくれた。
別れ話もマトモにできないあたしと一緒にいてくれる貴重な存在。
だからと言って、恋愛に発展することはない。彼氏より仲が良くても、彼氏とは違う感情だから仕方ない。
勢いで電源まで切ったケータイを見つめながら、さっきまで電話していた相手を想う。
別れるタイミング図ってばっかりで忘れてたけど、こんな酷い別れ方だけど、これでも本当に好きだったんだよ、なんて、誰が信じるんだろうか。
救いがあるなら、彼があたしを恨んで恨んで恨んでいつか忘れて、あたしじゃない誰かと幸せになって欲しい。
自分のせいだってわかってるのに、とてつもなく虚しくなって、深い溜め息が出る。
「思い詰めちゃ駄目よ」
「え?」
「わかるから。あなたの気持ちは」
「……」
「自分に嘘をつきたくなかったのよね?仕方ないじゃない。完璧な人間なんていないのよ」
恋は無条件で、純粋で美しいものだと思っていた。幻想が壊れた今、残るものは何もない。
それでもいいの、と囁く玲央の声が遠く響く。
(あ、今、あたし泣いてる)
切り捨てたはずの気持ちが今更になって溢れた。
世界は優しい言葉でうやむやになった、沈んでぼやけた灰色だった。