バッドラ
知らぬ間にファムファタル


どれくらい経ったのだろう。何十分も経ったようで、実は数秒の事だったのかも知れない。腰が抜けてその場に崩れ落ちかける。侑が腕を掴んでくれたので、倒れ込むことはなかったが、埃っぽい講義室の床にそのまま座ってしまった。けど、もう、構うもんか。

「こんなんでこないなってたら、この先の事出来へんやん」
「こ、この先って…」
「いや流石に今はせーへんよ?」

そう言いながら隣に座る侑。今は、っていつかするつもりなんだろうか。

「…ねぇ、いつからなの」
「何が?」
「その、私のこと、」
「ほんま全然気付かへんよなぁ」

侑は呆れたように笑った。

「だって、普通だったじゃん。それなのに侑は私のこと好きかも〜なんて考えると思う?」
「…いっちゃん最初に意識し始めたんは覚えとらんけど、はっきり自覚したんは中3のときやな」
「は、中3?!そんな前から?」
「そ」
「え、その頃もその先も彼女いたりしたじゃん」
「告白されたん、断らなかっただけやで。ちゃんと他に好きな子おるのは了承もらってたし」
「わざわざそんなことしてたの?」
「ようわからんけど、なまえにバレちゃあかん思うたんやろうなぁ」
「なんでそんな他人事なの…」

淡々と語る侑に少しだけ溜め息。バレーのこと以外は案外適当にやってるよなぁ。

「てかさ、侑が、私のこと好いてくれてるのはわかったけどさ、今まで上手くいってたんだから、そのままで良かったじゃん」

幼馴染として、それで仲良く出来てたんだから。

「幼馴染と彼女じゃやれること変わるやろ」
「やれることって…」
「おれが我慢出来なくなってん。ただの幼馴染でも隣にいれたらええなて思うてたんやけど、やっぱあかんなって」
「…侑もそんなこと考えるんだ…」
「下手に動いて、なまえとの関係性壊す方が怖かった」
「…なんか侑っぽくないね、変なの」

まだ侑の気持ちを上手く受け止められない私は、わざとそう言う。侑の方を見やると、拗ねた顔をした。

「おれは真剣に話しとんのに」
「真剣だから、変」
「…それに、そう思うんなら、なまえの所為やで」

感情に善も悪も無いけれど、今まで楽しかった関係が変わってしまうのは、悲しい。

「なまえがおれをおかしくしたんや。責任取ってくれへん?」
「せ、責任って言われたって、どうやってとったら良いの?」
「わかっとるやろ」
「…でも、周りにどう思われるか…」
「周りがどうとかやなくて、なまえの正直な気持ちが聞きたいねん」

だけど、侑に真剣に見つめられて、心が乱されているのも、事実なのだ。

「なぁ…おれの彼女になって?」


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