存外容易く忍び寄る不穏
あれから一人で考えてみたものの、やっぱり、侑の行動はいつもの気まぐれであって、私への好意からでは無い気がする。もし、万が一、侑が私を好きだったとしよう。だが、その理由がわからない。全く思い付かない。 結局、治の思い違いだ。双子とは言え、お互いの全てを知ってるわけじゃないし。 多分しばらくすれば、侑の気がまた変わって行動も変わり、治も思い違いだったと気付くはず。 そう結論づけて、私の中でこの問題は解決した、と思っていた。 次の日の昼休み、教室に治がいないなぁ、とぼんやり思っていたら震えるスマホ。治からLINEだ。 『特別教室棟の西階段の一番上まで来て』 突然の呼び出しに、嫌な予感がする。治が学校で絡んでくるのは本当に珍しいから。でも、お弁当も食べ終わっていたし、行かない理由が特に無かったので、友達たちに適当な理由を行って、呼び出された場所に向かった。 「なまえ、こっちや」 呼び出しの階段の最上階に着くが、治の姿が無い。この上は立ち入り禁止の屋上しか無いし…と思っていると、その屋上に向かう階段の上から、治が顔を出して私を呼んだ。 屋上への扉の前に2人で座る。 「よくこんな場所知ってたね」 「一人になりたいときとか、ここに来てんねん」 「多分ツムも知らんで」と言うセリフの中の名前に必要以上にドキッとした。 「そうや、ツムの話がしとうて呼んだんや」 「それでわざわざこんな場所に?」 「お前の部屋やとツムが来るやろ」 まぁ、昨日が良い例だね。 「ツム、最近、告白断ってるらしいで」 「え?」 「知っとった?」 「いや、知らないけど…あれ?前も断ってることあったよね?」 「一応彼女おるときはな。でも彼女おらへんのに断ってるのは初や、初」 「そう言えば昨日も来るもの拒まず的な話してたね…」 そもそも、今彼女いなかったんだっけ?とかそんな程度にしか知らない。治も色々ウワサをきくが、特に侑のそういうウワサを一々全部気にしていたら、大変な事になる。 「でも別に今は要らないからじゃないの?部活も忙しいんでしょ?」 「ちゃうやろ。なまえが好きやからやろ」 「だからさ〜、それ、絶対治の勘違いだって」 げんなりと治の言葉を否定するが、治は真剣な顔をしたままだ。 「本人に確認してってば」 「嫌やわ、めんどいし」 「ねぇ、真剣な顔してるけど、面白がってるだけでしょ?」 怪訝な顔で治を見れば「バレた?」とニヤリとする。 「ツムがなまえのこと好きやったら、めっちゃおもろいやん。死ぬまで笑い話に出来るわ」 「も〜。変な冗談やめてよ」 「…でも、ツムがなまえのこと好きかも知れへんと思ってるのは本気やで」 「え〜」っと顔をしかめてみせても、治は「ほんまやって!」と引かない。 「…わかった。じゃあ私が侑に確認する。それで否定されて、この話はおしまい」 「否定せんと思うんやけど」 そこで昼休み終了の予鈴が鳴った。 「侑、今日も部屋に来ると思うから、その時きくよ」 「ほんならしゃーないなぁ」 一緒に教室に戻りたくなかったので、治に少し先に歩いてもらうことにして廊下を歩いていると、突然後ろから腕を引かれた。 驚いて振り返ると、そこにいたのは侑で。 侑は何も言わず私の腕を引っ張って、特別教室棟をクラスとは逆方向に歩く。 「え?授業始まるよ?」 もう予鈴も鳴った誰もいない廊下を侑はズンズンと進む。私は腕を振りほどこうとしたが、思った以上に強い力で握られていた手は振りほどくことが出来なかった。先を歩く侑の表情は見えない。 |