合わせ鏡の彼曰く
その日もまた、夕飯の後、ベッドの上でゴロゴロしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。侑が流石に昨日の今日だから言い付けを守ったんだな、と思って「いいよー」と声をかけると、ドアを開けて入って来たのは治の方だった。 「侑は?」 「風呂」 「ここ最近、侑が何かと部屋に来るから、今日も侑かと思った」 「それ、それやで」 そう言いながら、治がローテーブルの近くに置いてあったクッションに遠慮無く座る。「それってどれ?」と言って起き上がり、治に向かい合うようにベッドの端に座った。すると、治は神妙な面持ちで口を開く。 「最近ツムおかしない?」 「いや別に?」 おかしいなんて今に始まった話じゃない。「侑がふざけた態度なのはいつものことじゃん」と返す。 「態度とかやのぅて、行動ちゅーか。今までこないな頻繁に、なまえの部屋なんてこーへんかったやろ」 「まぁ、うん。それはね」 「今日も俺らが同じクラスなん羨ましがったり、マネ誘ったりしたやん」 「確かに」 そう言われてみると、クラス替えのときは寂しそうにしてたけど、1人だけ仲間外れっぽいのが嫌な感じであって、別に私と違うクラスだから嫌だって感じではなかった。マネの話も、1年の入部時期頃にも1度2人に誘われたが、冗談半分だったし、その場でその話は終わったと思っていた。だから、また誘われるなんて思ってなかった。しかも、妙に真剣に。 「俺、思うたんやけど」 「なに?」 「ツム、なまえのこと好きになってんのとちゃう?」 突然の爆弾発言に一瞬フリーズするが、治に「なまえ?」と呼ばれて覚醒する。え?誰が誰を何だって?? 「え、私も侑のことも治のことも好きだよ?」 「いや、そないなんじゃあらへん」 「じゃあどういうの」 「恋愛的な意味で」 「侑が?私を?恋愛的な意味で?」 「好きなんちゃうんかなーって」 おいおい、治どうした?そういうふざけたことを言ってくるのは侑だけで充分だ。 「まっさかー。無いでしょ」 「そやかて、そない考えなおかしない?」 「じゃあさ、治は私のこと、そういう風に好き?」 「いや」 「ほら。侑も一緒だって」 「せやけどあいつ昨日、なまえにキスしたんやろ?」 「鼻にね。まじふざけてるよね」 「そんなん好きやなかったらせーへんやろ」 「だって侑だよ?鼻チューくらいするでしょ」 「う〜ん、」と思い当たる節でも有ったのか、顎に手を当てながら考えを口に出す治。 「…ツム、好きな子ぉとの距離の詰め方、分からんのとちゃう?」 「え?侑、今まで彼女いたりしたじゃん」 「全員、告られて付きおうただけやん」 「それは知らないけど、最低かよ」 まぁ、やから、つまり、と治は言いづらい言葉なのか、言い渋る。「つまり、何?」と詰め寄れば、思ってなかった言葉が飛んできた。 「あいつ、今初めて自ら恋しとんねん」 …はい? 「待って…、侑が恋してるってすげーパワーワードだね。ウケる」 「いやほんまに。確かにウケるけども」 「侑に確認した?」 「してへんよ」 「じゃあ分かんないじゃん。有り得ないって。確認しなよ」 「ほんならおもんないやん。俺がそない思うてるって知ったら行動抑えるかも知れへんし」 「ちょっと、面白がってないでさぁ」 「なまえは嫌なん?ツムに好かれとったら」 「嫌って言うか、意味が分からない」 「じゃあちょっと、そうやと思ってツムのこと見てみ?」 「う〜ん…」 あまり腑に落ちない気持ちで腕を組んでいると、昨日のデジャブのように、部屋のドアが急に開いた。 「サム!何しとんの」 そして渦中の人の登場にビビる。噂をすると出てくるってアレなのか。風呂上がりにすぐ来たのか、髪がまだ濡れている。 「侑、ノックしてって言ったじゃん」 「何なん、2人で俺に内緒の話でもしよったん?」 少し拗ねたように言う侑に「違うけど…」と言った後、治の方を見やると、視線で「ほらな」と言ってくる。…いやいや、…まじ? 「ツム、別にただ今日の宿題なんやったか訊いてただけやで」 「そんなんLINEできけばええやん」 「はよ知りたかってん。それよりツムは何しに来たん?」 「…風呂上がったら、サムがなまえんとこ行った言うから気になっただけや」 治が適当に取り繕ってくれるが、侑は何故か引き下がらない。てか侑の方こそLINEで済む話な気がするんだけど。今思えば、昨日の話も。その前の日も。いつも。 思い返せば、やたら治の話の信憑性を増す侑の行動。待って、まじで、頭の回転が追いつかない。 私もお風呂入らなきゃだからと、適当な理由を付けて2人を部屋から追い出して、とりあえずの心の平安を保った。 |